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新学期の事情 その18

 翌朝、元気よくガールズトークに花咲かせる愛ちゃんと明美先輩……。

 思わず拗ねているのを外に出しそうになるのを何とかこらえつつ、学校へ行く準備をする。

 うん、今完全に俺アウトオブ眼中って感じだなー。

 うー、話を遮ってでも愛ちゃんの視界に入りたいとか思ってしまうけど……我慢我慢。ここは我慢!


 起きた時に最低限の挨拶やら言葉は交わしているので、何とかそれに成功し準備も終える。


「さて、それじゃぁ準備も出来ましたので僕は先に出ますね」


 うん、多少は拗ねてはいるけど別に不機嫌な訳ではないし。単に俺が愛ちゃんを好きすぎるって言う証明だからそれはそれで問題ない。

 まぁ、それはそれ、これはこれで羨ましい気持ちがなくなる訳もないのだけど。


「おー、田中っち行ってらっしゃいーっととと?」


 椅子に座ったままへらっと笑って手を振った明美先輩が目を丸くする中、俺の前まで慌てて駆け寄った愛ちゃんが1度口を開いて、でも何か言いにくそうに何も言わずに口を塞ぐ。

 あっちゃー、愛ちゃんには見透かされちゃったか。


 俺もまだまだだなぁって言う思いと、同時に嬉しさとが湧き上がる。


「愛ちゃん。拗ねてごめんなさい」


 たぶん自然と苦笑いが浮かんでんだろうなと思いつつ、素直に気持ちを吐き出す。


「ううん、その……」


 徐々に下がっていた顔を跳ね上げ、慌てて開いたその口を見ると今度は自分の表情が柔らかくなったのを感じた。

 まぁ、現金な事だよ。

 何せ話題はお互いの好きな人についての所謂恋愛トークだったのは、これだけ近い距離にいれば大体は聞き取れる訳だし。

 ……それで拗ねてた俺が大概なだけなのだろうけど……、うん、親父の子だからって訳じゃないけど、たぶん今後もこの辺は変わらない気がする。

 流石に、お袋に気づいて貰う為にわざと出すような真似まではしないと思いたいけど。


「まぁ俺たちはさ、毎日一緒に居れる訳だからね。

 ほら、友達も大事にしないとだし、今後も色々あるだろうし。

 だから……今日夜イチャイチャしようね」


 うん、親父みたいにならない自信が木っ端微塵になったわ。

 とは言え、俺の言葉でぱぁっと表情を明るくしてくれた愛ちゃんを見ていると、それも悪くないかななんて思ってしまう。


「うん! 皆とも仲良く! しっかりイチャイチャだね!」


「はいはいー、ごちそうさまー」


 嬉しそうにかつ元気良く言っていた愛ちゃんに、水をさす様にどこかうんざり気味に口にした明美先輩。

 あー、まぁ……失礼しました。

 うん、言うて俺は平気だけど愛ちゃんがめちゃくちゃ恥ずかしそうで……可愛い!

 とりあえず明美先輩にサムズアップしておこう。

 うん、先輩も親指を立てて返してくれた。やっぱり愛ちゃんは最強に可愛いって事で。


 さぁ、遅刻しないように急がないとな。

 割りと余裕なくなったし、まぁこういうやり取りは大事だから全く後悔とかはないからよしっと。






 走ったお陰で予鈴が鳴る前に教室に到着。

 とりあえずお昼に呼び出す算段をつける為健の下まで歩いていって――行こうとして逆に無言で腕を掴まれ移動を始める健。


「ったく、貸しだからな」


 切羽詰った形相を見てしまうとそうとしか返せず、苦笑が浮かんでくる。

 頷く健を確認して、黙ってされるがままに付いて行く。

 間宮がもう授業始まるよ? なんて言って来たのを適当にあしらってそのまま健の後を追う。

 無論ずっと腕を掴まれているとか愛ちゃんが相手なら別として、全く嬉しくないので早々に離させた。


「んで、どこに行くんだ?」


 本鈴が鳴り、いよいよ遅刻確定な訳で、サボりな訳だ。

 つまりもうそうそう教師と鉢合わせなんて可能性も激減した訳で、そう口にする。


「屋上」


 それでも足早に歩きながら単語で返してくる健が、相当に余裕が無くなってしまっている事に……待て待て。

 屋上って普通に立ち入り禁止じゃねーか?

 え? まさか鍵持っているとか? 生徒会役員でさえちゃんとした理由が無けりゃ借りられないのに……。

 うん、これは何も聞かないでおこう。

 別に嫌が予感がする訳じゃないけど、触らぬ神に祟りなしともいうし、君子危うきに近寄らずだ。


 やはりと言うか、借りたものやら合鍵なのかは不明だが鍵を取り出して施錠を外して屋上へと出る俺達。

 そして、すぐに鍵を閉める健。

 ふむ、これでじっくり話せるって訳か。

 まぁ親友の悩みだ、1日の授業くらい全く痛くないわけじゃないけど良いだろう。

 この程度なら十分他で挽回出来るからな。


「で、とりあえず明美先輩とのお付き合いおめでとう親友」


「ああ、話したい事は明美せん……って何で知ってんだ!?」


「おいおい、笑わせるなって。

 昨日明美先輩が俺達の家に泊まりに来たのは知ってるだろ?

 最後に宣言してた訳だし、お前余裕なくなりすぎ」


 あまりに余裕の無い様子の健に、悪いと思いながらもどうしても笑いが零れてしまう。

 気持ちは分かるけど落ち着けって、第一明美先輩の方が好きな暦長いんだぜ?

 いや、つい最近気付いたからこそなおさら余裕ないのかも。


「いやいやいや、だってさ、ってか、雄星どこまで話聞いたんだ?」


「先輩が勢い余ったところからお前の醜態までおおよそ全部だと思うぜ」


「うわぁぁぁぁあぁああああああああああ」


「おいこら、流石に絶叫したら誰か気付くかも知れないだろうが。

 頼むから少し落ち着け。

 ほら、深呼吸。

 吐いてー、吐いてー、もーっと吐いてー」


 我を失ったかのごとく叫んでいた健を冷静に落ち着かせる優しい俺。

 その心意気に流石に気付いたのか、素直に俺の指示通りに行動する健。


「って、死ぬわ吐くだけとか!」


「はははは、まぁ少しは落ち着いたか?」


 真っ赤な顔で唾を飛ばしながら突っ込んでくる健にそう返す。

 すると、きょとんとした後に苦々しい表情を浮かべる。

 いやいや、飛んできた唾に目を瞑ってやったんだからそのくらい流せよ。

 小さい奴め。

 俺は愛ちゃんに相応しくなる為にもこうはなるまい。

 まぁ、明美先輩的にこういう部分が可愛いかもだから、健は変わる必要ないかもしれないが。


「……、いや、取り乱して悪かったな」


「あー、まぁ気持ちは分かるさ。

 ってか、寧ろよく昨日取り繕えたな」


 本心からの言葉を言ったのだが、これが失敗だった。

 再び血走った目になった健に気付き、やっちまったと思ったのだが後の祭り。

 マシンガントークが俺に突き刺さる。


「いや、聞いてくれよ!

 マジさ、びっくりじゃね? 昨日色々合った筈なのにまるで何事も無かったかのように……いや、何か俺色々スルーされてて寧ろおかしかったのか?

 とは言えよ! 俺ずっとドキドキしてのにさ。自分はずぅっと高宮と話しているしさ!

 俺どうしろって言うんだよってね!

 頭真っ白でぶっちゃけ昨日の記憶ねーんだけど、俺変なことしてないよな!?」


 うぅわぁ。色々飲み込めていたのかと思っていたのだけど、逆にキャパ超えすぎて普通の対応を装えて居た訳だ。

 うん、なんか把握したけど――。


「あー、はいはい、だから落ち着けって。

 今お前言っている事かなり意味不明だぞ」


 言われていても鼻息が荒く、ヒートアップしたのが収まっていないのがうかがい知れる。

 うん、こりゃ駄目だ。


「大丈夫、俺は落ち着いてるって!」


「それで落ち着いているなら普段からかなり愉快な奴になるぞ。

 ったくおめでとう! 相思相愛なんだからさ、寧ろ先輩も昨日のお前の態度のせいでテンパッてたぞ」


 多少強引にでも正気に戻さないと話にもならない訳で。

 ならばととりあえず手札を切ってみる。

 うん、見事にフリーズしやがったな。


 自分の策が成功したか失敗したかはともかく、最低限の効力は発揮してくれた事は間違いないので、再び再起動するのを待つのだった。


 ああ、空が青いや。

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