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新学期の事情 その17

 予測が外れた事に動揺が隠せない。

 俺個人の予想としては、どうせ健が前日から失言なり思わせぶりな言葉を吐いていたか、もしくは明美先輩がとうとう我慢出来なくて気持ちをポロっと漏らして健が後で答えますって言ったかだと思っていたのだが。

 まさか、健から告白しているだなんて予想外すぎると言うか、あの野郎親友に1言の相談も無いだなんてどう言う了見だ。


 心の中でここにはいない健に罵声を浴びせていると、明美先輩が恥じらいながら更に言葉を紡いでいく。


「えっとね……その。なんか話しててね、あ。昨日電話でね!」


 が、支離滅裂。

 愛ちゃんが苦笑いを浮かべながら言葉を発する。


「明美、落ち着いて。

 もぅ、何言っているのか分かんないよ」


 くすくすと上品に笑う愛ちゃんにこっそり見とれつつ、更に真っ赤になった明美先輩が落ち着くのを待つ。

 数回の深呼吸の後、きっとこちらを睨む明美先輩。

 いや、気合入れたのかもだけど、普通に怖いからね?


「昨日夜電話で私愛実を助けるって言った。

 ついでに高宮って奴がどんな奴か知りたいから話しかけるって言った。

 んで、健んにサポートお願いって言ったらしばらく黙って、なんか……明美先輩、それってどこまでするつもりです? とか言われたから、そりゃ番号交換するとかしてしばらく様子見するくらいはするよって本心を伝えた所あぁぁぁぁぁもぅ、急にね! そこでね!」


 どこか片言で相変わらずの緊張っぷりで喋っていた明美先輩だけど、急にヒートアップし始めて唾が飛び散る。

 うむ、こっそりテーブル拭きを手元に持っておくか。丁度テーブルにあるし。

 タイミングを見て拭こう。


「あのバカなんつったと思う? 俺はそれは困ります。

 と言うか、今想像して凄い嫌だったんっすけど。

 ああ、俺って明美さんの事好きなんだなって……あっ、いえ、えっと。

 とかね!

 もう、なんなのよ!

 ぜんっぜん雰囲気ないし最悪!

 しかもしかも、私それでも嬉しくて舞い上がってキャーキャー言っちゃってあああああああ」


 頭を抱えて蹲る明美先輩。

 その隙にテーブルを拭くか。

 どこか嬉しそうに明美先輩を見ていた愛ちゃんが目を丸くしたのに苦笑いで返事をして、ささっと明美先輩が顔を上げる前に拭いておく。

 まぁ、このくらいは気遣いの範疇だよな。


「えっと……良かったね。明美」


 俺のせいで一瞬どもってしまった愛ちゃんだけど、優しい声色で明美先輩を包む。

 それに体を震わせガバっと体を起こす明美先輩。


「良くないのよ! ううん、すっごい嬉しいのとかもうこれは惚れた弱みだし悔しいけど仕方ないとは思うのだけど、でも、だって!!

 あいつ結局電話だけで告白済ませちゃうし!

 あ、あれ? ってなっちゃったし。

 いや、でも健ん高校生だし仕方ないかなって。

 でーもーさぁー! おかしくない? 次の日あったのにおはよう……で終わりよ!

 もっとこうなんかさー、あるじゃん?

 寧ろドキドキして中々眠れなかったし! しかも殆ど眠らずに起きちゃうし!

 電話来ないし!」


 途中から立ち上がった明美先輩に目を丸くする愛ちゃん。

 良かった、こっそりジュース回収していて。

 下手すると倒れてたぞ。

 とりあえずお盆に集めて倒れかけたのをさっと止めたから惨事に至らなかった訳だが、しかし、本当に恋する乙女は暴走するんだな。

 あのさっぱりとした性格の明美先輩でもこうなっちゃうんだからな。

 ……だからなのか?


「あ、明美。その、分かったから落ち着こうね」


 流石に暴走してきた明美先輩に及び腰で止めようとする愛ちゃん。

 それに気付いたのか、ハッとした表情で固まった後しおしおと音が聞こえそうな感じで凹んだように椅子に座る――座ろうとしてこける明美先輩。

 うん、本当に落ち着こうね。


「えっと……ごめんなさい」


 うーん、しおらしく謝られても流石に怒ってないし。

 と言うか、俺の怒りは個人的に健に向かっている訳なので意識して優しく話しかける。


「まぁ、健が嫉妬して初めて自分の気持ちに気づいて突っ走った事は分かりましたよ。

 後、その後の対応も酷かったのも把握です」


「ゆ、雄君!」


 確認するつもりでそう口にしたのだけど、慌てた様子の愛ちゃんに不思議に思う。

 と、ゆらぁっと何かが立ち込めているような雰囲気の明美先輩が視界に入って唇がひきつる。


「えっと、失言すみませんでした」


 こう言う場合は謝るに限る訳で。

 ど、どこが怒りのポイントになったんだか。


「……いや。まぁさ、確かに私の言い方も酷かったよ?

 でも、その後酷いとかないんじゃないかなー?

 健んだって頑張ってたよ。尽く私の神経逆なでしてたけど、でも、一生懸命だったのは伝わってたしー?

 まぁ、女心の分からない人ねって思ってた訳だしさ。

 うん、いや、ね。

 お前が言うなよ、コラ?」


 うーわぁ、完全に切れているんだけど。

 怖。明美先輩怖。

 ってかなんで俺怒られているんだろう? 恋する乙女は本当によくわからんわ。

 ……いや、逆鱗踏みつけたんだろうけどね。

 しまったなー、激情に駆られている女性には反論一切せず、とにかく話を合わせなさいと母さんに教えてもらっていたんだけど……そのつもりでもあったのだけど、失敗したようだ。

 反省せねば。


「あ、明美。

 ほら、雄君だって反省しているしさ。抑えて。ね」


 必死な様子の愛ちゃん。

 同時に改めてすみませんでしたと頭を下げる俺。

 それでもしばらく睨んでいる様子だった明美先輩だけど、深い溜息を吐き出した後申し訳なさそうな音色を奏でる。


「いや、そのね。

 うん、私も悪かったよ。

 あのね……そう、す、……拗ねてたのよ……。

 あーもー。ごめんね。寧ろ謝るのは私だよ」


「いえ、先輩がまだ気持ちの整理が付いていないのは分かっていたのに、次からもっと気を付けます」


「えーと。……うん。ありがとう、田中っち」


 苦笑いを浮かべる明美先輩。

 うん、冷静になってくれたようで、いつものような雰囲気になってきたな。

 あー、多分不満を吐き出した事と意図せず俺に八つ当たりする事になったおかげである程度消化出来たのだろうな。

 本当に気を付けよう。

 こう言う言い方は最悪かもしれないけど、明美先輩のおかげで貴重な経験も出来たからな。


 はぁ、しかし、こうだから男はって言われるのだろうな。

 愛ちゃんは気付いてたみたいだし……、もしかして俺以外の男なら気付くのかもしれないけど、流石にそれはあんまりないと思いたい。

 愛ちゃんに対する時ほどじゃないにしろ、明美先輩にも真摯に向き合っているつもりだからな。


「ともかく良かったね、明美」


 そう愛ちゃんが言うと、今度こそ表情を赤らめ恥ずかしそうに縦に頷く明美先輩。

 すると、満足したせいか昨日あまり寝てないように言っていたのもあり眠そうにあくびをする明美先輩。


「ぁふぅ。ごめんなさい。

 なんか、ホッとしたら眠くなっちゃった」


 目尻の涙を拭いながら、恥ずかしそうに口にする。

 っと、そうだ。このまま眠る事になりそうだけど、その前にちょっと聞いとかないと。


「すみません、そう言えば高宮の事結局どう思いました?」


 愛ちゃんが多分寝室に案内するためだろう、席を立った為慌てて口を開く。


「んー? あー。そうそう。

 なんか田中っちとかっちんがとても警戒してたけど、私はただの好青年にしか思えなかったのよねー。

 寧ろなんでそんなに警戒してんの? って感じ。

 番号だって実際今日は聞かれなかったし。

 またねって普通に別れてたの見たでしょ?」


 明美先輩の言葉に何も言えなくなってしまう。

 これは本当に疑いすぎなのか、でも、胸騒ぎは相変わらずするんだよな。


「……まぁ、愛ちゃんに変な虫が付かないか心配なんですよ。

 こんなに可愛らしいですから」


「きゃっ、もうー。雄君たらー」


「あー、はいはい、ごちそうさま」


 俺の胸の中で照れを見せる愛ちゃん。

 そして、俺達を見ながら苦笑を浮かべる明美先輩。


 さて、それはともかくどうしたものか……変に警戒して下さいと言っても……それじゃ意味ないしな。

 うん、とりあえず俺は気を引き締め続けるか。

 まだまだ、時間を掛けて見極めるべきだろう。


 そう心に決めて、更に愛ちゃんを抱く腕に力を入れる――。


「えっと、ちょっと痛い……かな?」


「あわわわわ、ごめんなさい!」


 何やってんだよ俺!

 あーもー、しまらねーなぁ。

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