新学期の事情 その16
しばらく喫茶店でマッタリした後解散する流れになったのだが、ここで明美先輩がそう言えば愛実達の巣にお邪魔するのだった! とか言い出して、全く聞いていなかった俺は驚いてしまったのだけど愛ちゃんは聞いていたようだった。
ならば俺としても異論はなくなる訳で、そのまま明美先輩と家へと向かう。
「んー、明美不機嫌だねー」
と、突然愛ちゃんが言い出して驚いてしまう。
にこやかに雑談していたつもりだし、朝はともかくすっかり機嫌は戻ったの思ってたのだけどな。
「あー、そりゃぁねー」
流石親友同士と言う事か、俺は気付かなかったけどやはり愛ちゃんの見立ては正しかったようで、苦笑いを浮かべながら明美先輩がなおも言葉を紡ぐ。
「色々あったのよ。
其の辺は愛実達の愛の巣に着いてからちゃんと話すからね!」
「あ、うん、それは良いんだけど愛の巣って……さっきもだけど……」
すぐに楽しそうに微笑みながら愛ちゃんの肩に手を回す明美先輩。
まぁ、手繋いでるから良いけどね。
それに、照れる愛ちゃんも可愛いし。
「まぁ、愛の巣なんであんまり荒らさないで下さいね」
ニヤニヤするのを何とか堪えつつそう口にしてみる……、してみたのだけど、明美先輩が俺を見てもニヤニヤしているから堪えれなかったか。
むぅー、やっぱり愛ちゃんが絡むと勝てないなー。
勝つつもりもないけど。
「あぅー、雄君までー」
「えっ? だって愛の巣じゃないですか?
僕ら愛し合っているのですし」
言い切ればとうとう下を向いてしまう愛ちゃん。
それがまた可愛らしくて頬が緩む。
うぉー、お持ち帰りしたい! いや、できるけどダメなんだ! 畜生!
「……おーい! 私を忘れるなよお2人さん」
「あっ」
異口同音で明美先輩の言葉に反応してしまう。
しまった、一瞬本気で存在を忘れてしまった。
まぁ、あまりにも愛ちゃんが愛らしすぎたし仕方ない。
「そりゃぁ、僕らアッツアツですからねー」
「ゆ、雄君!?」
もう自重面倒くさいなと明美先輩から愛ちゃんを奪い返して胸に抱きしめる。
ん、多分全力で困惑しているのだろう、あわあわと慌てている愛ちゃん。
「……随分嬉しそうね愛実。
まっ、それは凄くいいのだけど……凄くいいのだけど!」
っと、珍しくイライラした様子の明美先輩。
この様子の愛ちゃんを見ているとからかいに走るか生暖かく見つめて来るのだけど、これはいったい……。
「……明美……。
明美! 雄君! 早く帰ろう!」
そんな明美先輩の様子を見て、真剣な表情で俺と明美先輩の手を取って走り出す愛ちゃん。
流石に俺でもさっきの明美先輩から察する事は出来るのだし、黙って付いて行く。
明美先輩だけはちょっと! と声に出しながら困惑している様子だだったけど。
3人揃って荒い息のまま家の中へと入っていく。
うん、愛ちゃん本気で運動神経ありすぎだろう、途中から明美先輩ちょぅ、まっととか言いながら引きずられてたよ。
まぁ、愛ちゃんの方が優先だから俺の方睨まれても無視したけど。
「はぁ……はぁ……あたしゃぁあんたと違って普通の身体能力なんだから……はぁ、はぁ。
加減しなさいおバカ!」
「あいたっ……はぅぅ。ごめんなさぁいー」
頭を軽く叩く明美先輩。
ちょっとムッとしてしまったのだけど……戯れあいの範疇だし、まぁ愛ちゃんも悪いなーって顔に書いてあったので黙っておく。
「はぁ……はぁ……、まぁったく。集中しすぎたら本気で周り見えなくなるんだから」
仕方ない子ねぇと言いたそうな感じで口から零す明美先輩。
愛ちゃんはペロっと下を出して、ああ、やっぱりこの2人本当に仲良しだなぁっと改めて実感する。
流石に俺が一番先に呼吸が整ってきたので、先に2人にテーブルの方へと行って貰って俺が飲み物とかを準備しに冷蔵庫の方へと向かう。
確か愛ちゃんがオレンジジュースが好きで明美先輩がグレープジュースだったな。
むー、愛ちゃんが一番好きなリンゴジュース買ってきとくんだったなー。ミスった。
ともかく、自分にはアイスのブラック珈琲をコップに注ぎ、愛ちゃんと明美先輩にもそれぞれ好きなものを注いでお盆に乗せて持っていく。
っと、クッキーが残ってたな、ついでに持っていくか。
「おー、田中っち気が利くー!
早く早くー!」
「雄君ありがとう」
バンバンと子供のようにテーブルを叩く明美先輩に思わず苦笑いを浮かべながらも、愛ちゃんとお互いに笑顔を交わし合う。
「すみません、リンゴジュース切らしていたの帰り着いてから思い出しました」
「ううん、オレンジジュースも大好きだから大丈夫だよ」
屈託のない愛ちゃんの笑顔に、胸の中に温かいものが広がる。
「はい! 終わり! 今日は終わり!
貴方達は今日は私の話を聞く。OK?」
やはり珍しく不機嫌な様子で俺と愛ちゃんのやり取りを止める明美先輩。
さて、愛ちゃんは最初から察していたかもだけど俺も多分分かった。
「了解です。
で、健と何がありました?」
そう聞けば、目を丸くする明美先輩。
やっぱりな。
これで色々繋がったぞ。
後は、それがどれだけ合っているかだな。
「うぐっ……。たまーにその無駄に察しが良すぎるのはお姉さん嫌いかなー」
「あははは、すみません」
苦笑いをしながら芝居じみた明美先輩の言の音にそのまま乗っかってみる。
一瞬ムッとした表情をした愛ちゃんだったのだけど、俺の反応を見るやへよっと眉を下げて眉間を揉んで……え? なんでそんな反応?
「あっ、愛実今私が田中っちの事嫌いとか言ったからムッとしたなー。
このこのー」
あーあ、この人の悪い癖だな。
恋愛事に関してはこうやってすぐ逃げるのは。
「はいはい、このこのーじゃなくてキリキリ説明して下さい」
「うわっ、愛実が絡むと本当に田中っちの器ちっちゃくなるね!
ちっちゃ! この男ちっちゃ!」
あ、テンパってる。
ふと愛ちゃんと目を合わせると、お互いに苦笑いをして頷き合う。
「あー! 何2人で分かったような。
もー! 私だって、私だって!
ねー、聞いてよ! あのね……えっとね……」
完全に勢いで喋っていた明美先輩。その勢いが言葉を重ねれば重ねるほど弱まり、視線はキョロキョロと何か助けを求めるかのようにさまよい出す。
あー、この人もやっぱり可愛らしい人だよなー。
愛ちゃんには負けるけど。
「うん、ゆっくりでいいよ」
ニコニコと微笑みながら、優しく促す愛ちゃん。
その言葉に1つ頷き、豪快にグレープジュースを飲んで――飲もうとして盛大に吹き出す。
あーあー、慌てすぎだって。
しゃーない、テーブル拭きと雑巾持ってこなきゃ。
「ああああ、ごめんね、ごめんね」
「大丈夫、大丈夫だから明美!
ほら、先ずは服! 服拭いて!」
テーブルに置いてあったティッシュを差し出す愛ちゃんと、慌てたせいで更に服にジュースをぶちまけた明美先輩を横目に、笑いながら取りに向かうのだった。
「大変お世話がせしました」
結局自宅通いの明美先輩は、明日も休みだからと言う事でうちに止まる方向になり……ちぇー、愛ちゃんとのイチャイチャ時間がー。
まぁ、着てた物を洗濯しちゃったし、愛ちゃんも嬉しそうなのでそれでいいんだけどな。
そんな事を綺麗に頭を下げる明美先輩を見ながら思う。
うむ、愛ちゃん服胸の部分キツそうだいてぇ! な、なんだ?
声にこそ出なかったものの足に激痛が走り、そちらを向けば凄い形相の愛ちゃんの姿が。
うん、俺が悪い。
「いや、俺には愛ちゃんのサイズがベストだなって思っただけですよ」
耳元でこっそりそう言っておく。
いや、ぶっちゃけ愛ちゃんのが最上でそれ以外は当然それ以下になってしまうのだが。
ともかく、愛ちゃんの表情が緩んだのでホッと一息。
「大丈夫だよ、寧ろ大変だったのは明美じゃない」
「あぅ、本当に申し訳ない……」
すっかりしょぼくれてしまった明美先輩。
素直に謝れるのは素敵だと思うのだけど、でも、実は結構引っ張っちゃうタイプなんだよなー。
そう思って苦笑いを浮かべていると、すっと真剣な表情で顔を上げた明美先輩につられてこちらも自然と表情をあらためる。
「あのね、健んに昨日告白されたの」
……え? ちょっ……え? マジで?




