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新学期の事情 その14

「つまり、その後輩君に私を紹介したくないって事でいいのね」


 神妙な愛ちゃんの言葉に真剣な表情で頷いてみせる。


「ええ、正直な話あいつと会わせたくないんですよ。

 胡散臭いと言うか猫を被ってるのが丸分かりなんで。

 間宮は友達とかに飢えている部分あるでしょ? だからこそ気が付いていないのか、それとも無意識に見ないふりをしているのか」


 俺の言葉に腕を組む愛ちゃん。

 胸が強調されてどうしても一瞬目が行ってしまうが、そんな場合じゃないと慌てて愛ちゃんの目を見つめる。


「むー、それだとやっぱり私も翔子ちゃん心配だから一緒に行きたいよ。

 ダメかな?」


 愛しい人の上目遣い何て反則的な攻撃力を誇るが、ここは俺の鉄壁の理性を発動させるんだ。


「はい、良いですよ。……と、言いたいのですけどね!

 言いたいのですけど、でも愛ちゃんに嫌な思いとか僕はして欲しくないんですよね。

 まかり間違ってあいつが愛ちゃんもターゲットにしたりしたら、僕何するかちょっと自分でも分からないですし」


 何が鉄壁の理性だ。気付いたら良いですよとか口から溢れてしまっているじゃないか。

 俺もまだまだだな。

 しっかし、愛ちゃんの気持ち分かるんだよな。

 愛ちゃんも明美先輩も不在となれば女子は1人だけになってしまうし、女性ならではの助け方は出来なくなってしまうのだから。


「んー、雄君の気持ちも凄く嬉しいのだけど、でも、私雄君だけだよ?」


 珍しくちょっと不機嫌そうに言う愛ちゃん。

 うっ、失敗した。


「いや、疑っているとかそう言う事じゃなくて、何が悲しくて自分の彼女を目の前で口説かれるのを見なきゃいけないんですか? って事ですよ。

 噂レベルなので言うつもりはなかったのですが、でも、気に入った女は必ず手に入れているって噂が立つ奴なんですから。

 それを払拭させるどころか、ああ、なんか納得出来るわって状況じゃ会わせたくないに決まっているでしょう。

 無論、付き合いも浅いですし僕の思い込みの可能性も否めませんけどね」


 何とか説得しなきゃと声を重ねるが、疑っていないって事だけには少し表情を緩めてくれたのだけど、その後はずっと難しい表情をしたままの愛ちゃん。


「実際会ってみないと確かに私も判断出来ないかな。

 雄君の言葉を信じない訳じゃないのだけど、でも、知らない人を決めつけるのはしたくないし。

 それに、今の話だとやっぱり私も付いて行った方が良いとしか思えないの。

 だって、何かあってこんな事がありましたって後で聞かされるのって、それを事前に知ってたら尚更辛いよ?」


 心配そうな愛ちゃんの表情に心が揺れる。

 あーもう、やっぱり建前……と言う訳でもないが。でも、オブラートに包んだ言葉ってやっぱり説得力に掛ける事はあるよな。

 もう少し俺に力があればとどうしても思ってしまう。


「……決め付けている面は僕もあるかもしれません。

 ただ、……こう言う言い方はもしかすると軽蔑されてしまうかもしれませんが……見極めたいんですよ。

 間宮と学校の外で会える訳で、尚更本性が見えやすいと思うのですし。

 僕のただの思い過ごしだけであれば良いのですが、そうじゃなかった時ぶっちゃけ愛ちゃんがいると多分僕と愛ちゃん2人ともそれどころじゃなくなると思うのですよ」


「えっと、それどころじゃなくなるって?」


 前半渋い顔をしていたのだけど、最後キョトンとした表情で本当に不思議そうに聞いてくる。

 あれ? 伝わると思ったんだけどな。


「いや、だって少なくとも僕は愛ちゃんが隣に居たら間宮を含め周りを見る余裕何てなくなってしまうんですけど」


 少しの間流れる沈黙。

 ほどなく徐々に顔を赤くした愛ちゃんが、困ったような表情で口を開く。


「……それは、確かにあるかも。

 雄君が隣に居てくれたら、やっぱり雄君ばかり見ちゃうし……」


「そう言う事ですよ。

 明美先輩か、せめて八木先輩か宮城先輩のどちらかでも居て下さればまた違うのでしょうけど」


 少なくとも八木先輩と宮城先輩はアウトだ。

 なにせ事前に用事を入れていたそうで、そう言うのを重んじる2人が切羽詰っているなら兎も角、ちょっと不安なんですよってだけの理由でこちらに来てくれるとは思えないし、そもそもそんな無責任な真似なんてさせたくない。

 愛ちゃんと帰っている時一緒にお誘いメールが来ていたから、それは愛ちゃんも知るところで再び渋い顔をしている。


「明美宮原君だったっけ? 翔子ちゃんの周りのいた男の子は嫌いだからね。

 私は気にしてないよって言ったら、じゃぁ尚更私が怒るわってこじらせちゃったし」


「そりゃぁ僕も良い印象抱いてないですよ。

 まぁ、宮原は実際話してみたらその印象を覆してくれる奴ではありましたけど、だからと言って明美先輩が来てくれるとは。

 何だかんだ頑固ですし」


 2人で溜息を同時に付く。

 果てさて、どうしたものかね……。


「……でも、明美ってさ、私が行くって決めてたら意地でも来そうじゃない?」


 ふと思いついたかのように言う愛ちゃん。

 うん、俺もそれ丁度閃いた所だったんだ。愛ちゃんの手柄にする為に言いやしないけど。


「言われてみれば、確かに愛ちゃんが行くってなったら私が守るって来てくれそうですよね。

 その方面は全く思い至ってませんでした」


 ニッコリと微笑みながらそう口にして……何故か半目で睨まれる。


「……絶対私より早く気付いてたでしょ?」


「うっ、い、いや。決して先に気付いた訳じゃないと思いますよ?」


「ふーん、先に気付いた訳ねー。

 もー、別に私を立てなくて良いんだよ?」


 動揺が表に出てしまったからだろう、見事に見透かされている。

 むー、苦笑いをさせたかった訳ではないし、反省。


「すみません。でも、丁度言ってくれた辺りで思い当たったのは本当ですよ。

 そう言えば明美先輩なら愛ちゃんも行く事になったら、私が愛実を守らなきゃ! って言い出しそうだなって。

 寧ろ今まで失念していたのが不思議なくらいです。

 つい、愛ちゃんをあいつと会わせたくないとばかり考えてましたから」


 苦笑いを交えて言えば、クスクスと笑い出す愛ちゃん。


「そう言ってくれるのは嬉しいな。

 とりあえず、明美に聞いてみるね。

 それ次第って事でいい?」


 にぱっと微笑まれそれは可愛いと思うものの、今度は俺が渋い顔を作ってしまう。


「本当は明美先輩が来ても嫌なんですけどね。

 でも、全部僕のわがままですし、明美先輩が来てくださるのなら我慢します。

 ただ、愛ちゃんとイチャイチャするのは全く我慢するつもりはありませんので、そこだけは悪しからずにです。

 ついさっき反省したばかりですし」


 何とか気持ちに折り合いを付けつつ、間宮のお守りは明美先輩や健に押し付けようと決心する。

 ……でも、肝心の間宮が愛ちゃん大好きっ子だからなー、愛ちゃんも何だかんだ無視出来るような人じゃないし。


 となればだ、結局は愛ちゃんは間宮と絡むだろうし高宮とも絡まざるを得ないわけで。

 勿論俺が見逃す訳もなく……ああ、なんか明美先輩に断って欲しくなってきたぞ。


 電話で話す愛ちゃんを見つめつつ、複雑な感情が渦巻く。

 ぶっちゃけ俺のわがままだっただけだからなー。

 まぁ、なるようにしかならないか。


 八つ当たりのように想像で高宮を睨みつけ、ついでに宮原もお前しっかりしろと叱咤し、なんで健お前そんな鈍いんだよと罵ったのだった。

 はぁ、本当に今度の休みが憂鬱だぜ。

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