新学期の事情 その13
愛ちゃんの通う大学に辿り着き、何処に居るかを聞く為に電話を掛ける。
荒い息が自分でも煩い。
汗が滴り落ちて来るのが煩わしいが、それに気をかけている場合でもないのでとりあえず乱暴に拭っておく。
数コールと待たずに出てくれる愛ちゃん。
「すみません、遅くなりました」
「ううん、大丈夫だよ……けど……」
ん? 何やら電話の向こう側が騒がしい?
闇雲に移動しても仕方ないから入口の1つに留まっているのがもどかしくて仕方ない。
「えっとね、ちょっと待ってて……」
電話の向こうで愛ちゃんが周りに静かにするようにお願いしている。
状況が読めないな、いったいどうしたんだろう?
「あ、ごめんね。
えっとね、雄君は今どの?」
「えっと、あ。案内板を見つけたので少し待って下さい」
校門付近にあった案内板の所まで駆け寄り、現在地点を確認する。
「西南の門の近くみたいですね、愛ちゃんはどこですか?」
「あ、それじゃぁ私が行くから待ってて」
む、確かに地理がよく分かっていない俺が動くよりそちらが早いか……。
くそっ、仕方ないとは言え情けないな。
「……分かりました、待ってます」
「うん。すぐ行くから」
愛ちゃんの声が喜色を帯びていて、そのお陰で多少気持ちも和らぐ。
分かりましたと伝えて電話を切り、その場にとどまって愛ちゃんが来てくれるのをじっと待つ。
待っていると、ようやく自分が気持ちばかり焦っていた事に気が付いて、それじゃダメだろうと戒めながら落ち着かせる為に深呼吸を数回。
……うん、少しは落ち着いた。
上がった息も少し落ち着いたし、寧ろ良かったのかもしれない。
ほどなく愛ちゃんが俺の前に姿を現す。
……男を何人もはべられせたままで、それは思わずムッとしてしまうのだけど、表に出ないように気を配る。
ふと男達と目が合って全員から睨まれる……、そう言う事か野郎ども。
お前らが俺の愛ちゃんにちょっかいを出している訳だ。
「ごめんね雄君。待たせちゃったね」
「いえ、すぐでしたよ。
寧ろ僕の方こそすみませんでした……。
で、そちらの方々は?」
愛ちゃんは僕と視線が合うとぱぁっと音が聞こえそうなほど嬉しそうに笑みを浮かべてくれて、だからこそある程度の余裕を持って会話をする事が出来る。
だからこそコバンザメの如く付いて来ている男達に睨まれた訳だが。
5人か、まぁ先輩は美人でしかも可愛らしいからな、惚れてしまうのも当然というものだ。
無論、みすみす逃したりはしないけどな。
俺の質問に少し困ったような表情になる愛ちゃん。
ふむ、どうやらこの間話してたお友達になりたいって野郎どもだな。
どいつもこいつも下心があった……か、まぁ状況なだけに単純に俺に怒っているかか。
「ねぇ、皆。雄君と2人で話したいんだけど」
はっきりと切り出してくれた愛ちゃんに、思わず嬉しくなってしまう。
って、普通にこいつらが邪魔だけか。
「いやいや、南ちゃんおかしいって。
こいつの所為で泣かされたんだろう? そもそも釣り合ってないよこんなダサ坊」
「そうそう、見た目とか特に釣り合ってねーじゃん。
南には似合わないって」
うわっ、こいつらマジでムカつく。
確かに容姿は全員俺よりもイケてると言うか、遊んでそうな雰囲気もあるけど同性から見ても悔しいけど格好良いと思えるくらいには整っているし、ファッションセンスもある。
十人並みで制服かつ急いだせいで乱れた俺と比べれば、そりゃぁ見た目では敵わないだろうな。
ただ、こんな奴らに気持ちの面で負ける事はない。
「だから私頑張ってるもん!」
愛ちゃんの叫び。
言いたい放題だった男達をキツく睨みつけている。
そう言えば高校の時もこんなやりとりあったなー、なんてどこか懐かしく思うとともに胸が温かい物に満たされていく。
「それに、雄君を悪く言わないで!」
激昂している愛ちゃんにしどろもどろになる男ども。
いい気味だと思う。
俺が言い返す前だったので愛ちゃんに助けられる形になってしまったのだけど……、ぶっちゃけ気持ちが伝わってきて喜んでしまった。
「いや、えっと。
だってこいつの所為で南泣かされたんだろう?」
「事情も知らないのに勝手に決めつけないで!
それにこいつとか雄君に失礼だよ、もうお願いだからどっか行って」
強い口調の愛ちゃんに困惑した表情を浮かべた男達。
さて、逆ギレとかされて困るし愛ちゃんに助けて貰うだけじゃ情けないから俺も前に出よう。
「そんな訳で、どうも僕の彼女を送って下さってどうもありがとうございました」
愛ちゃんの前に立ち、余裕の笑みを浮かべる俺を改めて睨む男達。
だが、すぐに怯んだ辺り後ろで愛ちゃんが睨んでいるんだろうなー。
捨て台詞を吐いていく男達……中には愛ちゃんに言う愚か者もいたのだけど、うん、もう2度とあいつらとは関わりを持たないように注意しとかなきゃ。
それに、俺も必ず送り迎えはしよう。
恥をかかされたとか言って暴走される可能性も無いとは断言出来ない以上、当然の判断だな。
明美先輩が同じ学校ならお願い出来たのだけど……あいにく衣類系の専門学校に進学しちゃったからなー。
まぁ、ないものねだりをしても仕方ない。
「……愛ちゃん、もうあいつらとは付き合わないで下さいね」
「……うん、雄君を悪く言う奴ら何て嫌いだもん」
俺の上着の裾をいつの間にか握っていた愛ちゃん。
不機嫌そうに去り行く男どもを睨みながらそう零す。
うむ、このまま話すのはあれだな。
そう思ってシワの寄っている眉間に人差し指を持っていく。
「あぅ。雄君?」
「いえ、怖い顔になってましたし、何よりあんな奴らじゃなくて僕を見て欲しいですよ」
わたわたと百面相をした後、えへへと言いながら照れる表情を浮かべる愛ちゃん。
可愛すぎるお持ち帰りしたい。
いや、同じ家に住んでいるんだった。マジで俺幸せだ。
「ごめんなさい、気をつけるね。
勿論私は雄君に首ったけだよ」
破壊力万点の笑顔を頂き、さて、俺の理性は今日も試されるのかと嬉しい悲鳴を脳内で上げる。
「それは良かったです。
あ、ちゃんと事情を説明したいのですけど、落ち着いて話せる場所に移動しましょう」
そう提案すると縦に首を振ってくれる愛ちゃん。
「それじゃぁ、カフェとかどうかな? 珈琲美味しいんだよー」
嬉しそうに提案されるけど……、それは個人的には今度が良いかな。
「それも魅力的なんですけど、良かったら家に帰って話しませんか?
そっちの方が落ち着いて話せますし、2人きりでいちゃつけますし。
僕本当に反省したんですよ。愛ちゃんとイチャイチャがしたりてなかったって」
「うぇ? いや、嬉しいけど……。
うん、私もそっちが良いな」
自重しない俺の言葉に嬉しい返事を返してくれる愛ちゃん。
「そうと決まれば急ぎましょう」
「うん!」
しっかりと手を繋ぎ合い、歩を進める。
あ、そうだ。
ついでに聞いておこう。
「そう言えば、あいつらが友達になりたいって愛ちゃんに話しかけてきた奴らですか?」
「ううん、何か泣いちゃったら心配してくれたの。
下心しかなかったみたいだけど、親身にしてくれてたから拒否も出来なくて。
ごめんね雄君」
「いえいえ、それは構わないですよ。
あいつらに腹が立っているだけで。
で、友達になりたいって言ってた人はどうしたのです?」
「うん、男の子には理由を聞いて彼女がいる人以外はごめんなさいしてきたよ」
にぱっと微笑んで清々しく言い切る愛ちゃん。
ご愁傷様だなそいつら。
これで俺としても一安心だな。
後はちゃんと愛ちゃんを安心させないと。
「ありがとうございます。
何かすみません、大学生活もあると言うのに」
「ううん、ちょっと押しが強くて辟易してた人もいたから丁度良かったよ。
仲が良い人はちゃんと出来ているしね。
今度紹介するね」
そのままにこやかに話しながら、家路を急ぐのだった。




