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新学期の事情 その12

「どうしてこうなった」


 思わず頭を抱えてしまう。

 間宮を挟んで視線で火花を散らしつつ牽制し合う宮原と後輩キャラ――高宮たかみや 総一朗そういちろうとか言ったか。肝心の間宮はイマイチ状況が分かっていないようでニコニコと微笑んでいる。

 そして、何故か巻き込まれている俺。


「ちょっとー、どうしてこうなったじゃなくて、お兄ちゃんもちゃんと考えてよー」


 不満そうに口を尖らせる間宮。

 ぶっちゃけ俺は今度の週末も愛ちゃんと2人きりで過ごしたかったんだが、何で俺も行く前提で話を進めるかなー。

 とは言えこいつら3人だけで遊びに行かせるとか、流石に見過ごせる訳もない。

 正確に言えば、高宮の奴が何しでかすか分からないって事だ。

 何か抜けているわ危機感足りないわな間宮と、素直すぎる分騙され易そうでしかもヘタレな宮原。

 2人きりにするだけでも不安を感じるくらいだ。


「乗り気でないのなら無理に誘うのもどうでしょう。

 と言う訳で、ここは僕と2人でデートにしませんか?」


 さらっと爽やかに微笑みながら高宮が口にする。

 一事が万事こんな感じなんだよなこいつ。

 肉食系と言うか何と言うか、だけど何故か嫌味っぽくないのは才能かもしれない。

 本当に裏で何を考えてやがる。


「お前何言っているんだ! 翔子ちゃんは僕とデートするんだ!」


「えっと……皆で遊びに行くんじゃないの?」


 あーあ、おバカ。

 高宮のが嫌味っぽくなってないの理由にお前も噛んでいるんだぞ?

 一々突っかかるから間宮の困惑の大半はお前にだけ向けられているし。

 あの事件以来恋愛に対しても臆病になっている事ぐらい気付けって。そこまで言ってやらなきゃ分かんないのか?

 言っとくけど、そのくらい察してあげられる男じゃないと俺は手放しでは賛成出来ないからな。

 無論高宮は論外だけど。


「皆で遊びに行くのは良いのだけど、翔子ちゃん忘れてなーい?」


 と、俺の後ろで健と話していた桐生が会話に混ざってくる。


「忘れてないよ。

 薫ちゃんも林君も一緒だよ」


「いやいや、そうじゃなくて、先輩達どうやって説得するの?」


「ほぇ?」


 可愛らしく小首を傾げる間宮。

 まぁそれが似合う事似合う事。

 それは良いとして、やっぱり思い至ってすらいなかったかと苦笑いが浮かんでくる。


「いや、だからどうしてこうなったって言ったのもさ、お前矢部先輩達の事忘れていただろ?

 存在じゃなくて、こいつに対して良い感情を抱いていないって事をさ」


 宮原を指差して口にする。

 あっと声を漏らして固まる間宮と、物凄い傷ついた表情を浮かべる宮原。

 宮原のは自業自得だから放っておくか。


「えっと……皆って言うのは難しいのかな?」


「ああ、お前当たり前のように言ってたけど、矢部先輩達も数に入れていただろ?

 聞いてみなきゃ分からないけど、難しいと思うぞ。特に明美先輩がさ。

 それに、宮原も高宮も矢部先輩達と一緒だなんて想定してなかった筈さ。

 そうだろ?」


 聞けば困惑した表情を浮かべる2人。

 あー、先入観の可能性もあるけど、やっぱり高宮の表情が胡散臭いんだよな。


「確かに、それはしてなかったな。

 てっきりここにいるメンバーだけで行くものかと……いや、何で嫌われているのか……その……うん」


 言い難そうに徐々に言葉を濁し、視線を下げつつも時折助けを求めるように俺へと視線を送ってくる宮原。

 ウザイ。


「僕もそれは想定外でしたね。

 ただ、皆さんが良いとおっしゃって下さるのなら構いませんよ。

 宮原先輩と違って僕は初対面なだけですし、色んな方と出会えるのは望むところですから」


 的確にライバルを蹴落としつつ、自らはグイグイと切り込んでくる……か。

 口にした建前も俺にしてみれば微妙に感じたのだが……、ちらりと見ればホッとした表情を浮かべている間宮には問題なかった模様。

 思わず眉間に皺がよってしまったので、意識して表情を和らげる。


「まっ、何にしろ今回は俺達だけで遊ばないか?

 正直明美先輩を攻略する糸口が俺には見えないから」


「あー、確かに俺にも想像付かないなー、寧ろ桐生もアウトな気がする」


 最も無難な案を提案し、追従してくれる健。

 に対して嬉々として突っかかっていく桐生。

 ……兄さん、本当にイキイキとしていますね。


「あっらー、失礼しちゃう。

 たけるん嫌い!」


「えっ、ちょっ、俺が悪いんか?」


「そうよ! ね、翔子ちゃんもこんな悪い男に引っかかっちゃダメよ」


「へ? あ、えっと。やっぱり林君悪い人?」


「ちょっ、間宮ちゃんも何でそこやっぱりなんだよ!

 って、こら、お前らさっきまで睨み合ってたのに何仲良くそうだそうだって感じで頷いているんだよ!

 おい、味方は居ないのか?」


 ……いつの間にいじられキャラの地位を確立させたのか。

 これは追従せねばなるまい。


「大丈夫、俺はお前を信じてるぜ!」


「ゆ、雄星」


 肩に手を置いて優しく言葉を紡いだ俺に感激の表情を浮かべる健。


「いたいけな少女の乙女心を弄んでいるど鬼畜だとしても、根は良い奴だって」


「ジーザス、味方かと思ったら謂れのない中傷を受けた!」


 おい、落ち込むか口ごもるかと思ったらお前まーだ気付いていなかったのかよ。


「すまん、根っからの悪党だった。

 桐生が正しい、残念だよ」


「えぇぇぇ、何でどうしてそんな結論に至った!?」


 罪深い男の哀れな叫びは虚空へと消えるのだった。まる。




 結局週末遊ぶと言う漠然とした約束しか決まらなかった訳だが、まぁそれは良い。

 その時の気分で遊ぶのも一興だろう。


「問題は、愛ちゃんに何て言うかだよなー……」


 愛ちゃんの通う大学に向かう中思わず呟いてしまう程、それだけが物凄く頭が痛い。

 皆はいつものように連れてくれば良いじゃんと言ってくれたのだが、止めとくよと断った。

 理由は単純、高宮と会わせたくない。

 ただ、言わずとも察してくれた健と桐生と違い間宮のごねる事ごねる事。

 まぁ、あいつも俺ほどじゃないけど愛ちゃん大好きだからな。


「っと、携帯鳴ってる」


 ブルブルと携帯が震える音が聞こえてきて、鞄から急いで取り出す。

 相手は愛ちゃんだ。


「もしも――」


「雄君! 私の事嫌いになった!? ねぇ、何で? どう言う事!

 私に何かが悪かったのなら謝るし直すからお願い、別れるとか絶対やだよ!」


 必死な叫び声に驚いて咄嗟に言葉が出ない。

 え? いや、どう言う事?


「ちょっ、落ち着いて下さい!」


 マシンガンのように言葉が放たれ、正直処理しきれないので大きな声を上げてしまう。

 ピタっと愛ちゃんの声が止まったのは良いのだけど、変わりに鼻をすする音が聞こえてくる。

 テンパりすぎて原因が思い浮かばない。


「あの、全然状況が見えないのですが、僕は愛ちゃんを愛しているしお嫁さんにするつもりなのは変わりないですよ。

 と言うか、ほんとどうしたんです?」


 ああ、もどかしい!

 感情のまま全力で地を蹴りだす。


「……だってぇ、間宮ちゃんから……雄君反対だって聞いて……」


 間違いなく泣いているのだろう、声が震えている。

 くそ、俺は馬鹿か。

 原因は俺とまみ……違う、全部俺じゃねーか。


「すみません、ちゃんと事情を説明しますから待っていて下さい。

 今大学ですよね? すぐ行きますから動かないで下さいよ」


「……うん、……待ってる……」


 くそっ、浅はかすぎるだろうが。

 これは間宮は悪くない、俺が昨日ちゃんと愛ちゃんに伝えていればここまで取り乱すこともなかったはずだ。

 ああもう、気持ちばかり焦ってしまって思うように前に進めない。

 信号には引っかかるわ人は邪魔だわ……違う、全部俺が悪い。

 くっそー、自分に本当に腹が立つ。


 あ、まだ電話切ってないな。

 画面を確認すればまだ繋がっているみたいで、走りながらも急いで耳元に寄せる。

 何か喋ってるかもと思ったけど、無言だな。


「愛ちゃん、大好きですよ」


 はっと息を呑む音が漏れる。

 良かった、どうやら聞こえてくれたみたいだな。


「……うん。……私もだよ」


 どうやら泣き止んではくれたみたいかな。

 あーもうほんと失敗した。

 何はともあれ急がないと。


「それじゃ一旦切りますけど、変な勘違いしないでくださいよ」


「うん、大丈夫だよ」


 どこか嬉しそうな愛ちゃんの言葉。

 あ、そうか、こんだけ息乱してたら慌てているのバレバレか。

 まぁ……結果オーライか? 正直情けなくて仕方ないが、俺のちっぽけなプライドより愛ちゃんの心の方が遥かに大事だもんな。


 僅かにでも余裕が出てくれたおかげか、幾分か周りの状況を見る事が出来、幾分かスピードも上げる事が出来る。

 大学はもうすぐそこだ、急げ俺!

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