新学期の事情 その9
「えっと、雄星君話ってなに?」
昼休みになるや連れ出した訳だが、何故か満面の笑みを浮かべて聞いてくる宮原。
人懐っこいとか通り越して寧ろ不安になってくるぞ、俺は。
こいつ将来騙されるんじゃなかろうかと心配しつつも、別に忠告してやる必要もないなと本題を切り出すことに。
「いや、お前色々思い違いしてそうだからさ。
って、何泣きそうになってんだよ」
「いや、だって折角仲良くなれたと思ってたからさ……」
思わず溜め息が溢れて、それに反応したのか体を震わせる宮原。
ほんと頭痛いぞ。
「ったく、別にそう言う意味じゃなくて、ってか、俺とお前仲良くなるような何かあったか?」
ふと思い立って口に出すと、益々悲しげな表情を浮かべる。
面倒くせー。
「だって……、僕の事嫌い?」
おい、男の上目遣いとか俺は全く嬉しくないんだが。
そう言うのは喜ぶ奴だけにやってくれ。
「嫌いとか好きとかじゃなく、クラスメイトだとは認識しているぞ。
ってか、気持ち悪いから上目遣いとか止めてくれ。
まっ、だから嫌いじゃないし仲良くなる分には構わんさ。
でだ、本題とはそれてきてるから戻すぞ」
安堵したように笑みを浮かべ、うんと素直に頷く宮原。
ほんとお前友達とちゃんと呼べる奴少ないんだな、なんて推測をしてしまうのだけど、それを言ってしまうとまた本題から逸れてしまうのでさっさと切り出す。
「間宮とさ、もしかするとよりを戻せるかもとか勘違いしているかもしれないと思ってさ。
どうなんだ、その辺り」
えっと声を漏らし驚きの表情で固まる宮原。
さて、どんな反応が返ってくるのやら。
「いや、だって翔子ちゃんって呼んでいいって言ってくれたし……」
困惑しながら呟く宮原。
さて、どう説明したものかね……あくまで推測だからと断りを入れつつ口を開く。
「とりあえずさ、お前ら幼馴染なんだろ?
彼氏彼女じゃなくともそれならあだ名とかで呼び合ってもおかしくないし、そもそもお前らって付き合ってたって言えるのか?
俺はその辺が疑問なんだよな。
間宮を見ている限り、寧ろあいつ恋ってなーに? 状態だと思うし」
まるでダメージでも受けたかのように、うっと声を漏らして固まる宮原。
俺はなおも言葉を重ねる。
「俺が思うにさ、あいつ単に寂しかったんじゃねーの?
だから、チヤホヤしてたお前らに懐いたってだけな気がしてさ。
でも、あいつが望んだ物とはズレていたから去年のような結果になったと思っているし。
お前はどう思う?」
視線を彷徨わせ考え込む宮原。
ぶっちゃけさっさと答えてくれとは思うのだけど、多分考えた事もなかったのだろうな。
人間つい自分に都合の物しか見えなかったり、都合よく解釈してしまったりしちゃうからそれも仕方ないかとも思う。
少なくとも俺の言葉を即座に否定せず考える辺り、宮原の心根の良さがうかがえる。
俺も人の言葉をこうやって素直に聞ける面は見習いたい。
「……雄星君の言うとおり……だと思う。
いや、正直そんな深く考えた事なくて……今回だって、翔子ちゃんとまた付き合えるとか思ってしまってたんだけど……確かに、そもそも付き合えていたのか? って言われれば僕にも分からない。
ううん、付き合えてなかったよ。
いや、あれはどう言えばいいのか……翔子ちゃんも含め皆どうかなっていたとしか思えないな……、ほんとあの時はどうして……」
深刻そうに悩み始める宮原。
まっ、良い事なんじゃないかね?
とは言っても過ぎた事だし、考え込み過ぎるのは良くないとも思うので、わざと軽い口調を心がけて言葉を紡ぐ。
「いやさ、恋は盲目と言うように理由なんかないんだと俺は思うぞ。
間宮も……あー、でも間宮は友達作りたい! ってのを拗らせ過ぎたってのが俺の見解かな。
つーかさ、全部俺の推測なんだしあんまし間に受けんなよ。
大事なのはぶっちゃけこれからなんだし」
と、俺の言葉に再び不思議そうな表情になる宮原。
「えっと、つまり?」
「つまりだ、お前は間宮の事が好きで、で、間宮はお前を幼馴染として認識している。
幼馴染として認識している以上好感度は決して低い訳じゃないだろうが、だがお前の望むものとはズレている。
更に加えれば、間宮はお前が望む関係はぶっちゃけ望んじゃいないって事かな」
「の、望んでいないってどうして?」
「そりゃ考えればすぐ分かるだろ?
あいつは今やっと望んでいた友達と言う物を手に入れたんだ、ぶっちゃけ恋とかまで考える余裕はまだないと思うぞ」
そんなぁと零し絶望的な表情を浮かべる宮原。
ってか、こいつリアクションでかいな。本当に日本人か?
いや、それだけ感情豊かって事かな。
「おいおい、落ち込むなよ」
「無理だよそんな事!」
おおう、急に怒鳴るとか落ち着けって。
そう声をかけるべきだったのだろうけど、それよりも先に笑いが出てしまう。
いや、だって余裕なさすぎでさ、だから睨むなって。
「すまんすまん、悪気はねーんだ」
「尚更悪いよ!」
傷つきました! と顔に書いている宮原。
なんだろう、やっぱし憎めない奴だな。
まっ、ある意味被害者でもあるのだろうし、そう捉えればバ会長達他のやらかしたメンバーも人となりをちゃんと知れれば色々評価は変わりそうな気がするな。
「まぁまぁ、別にそんなに悲観する事じゃないって話だ。
よく聞けよ。
そもそも単に間宮が恋を求めていないからって口説いてはいけないって事はないだろ?
そりゃ好きな相手なんだから相手の事をちゃんと考えろよ? 嫌がる事して嫌われたくはねーだろ?
でもさ、思いを伝えるのも大事にするのも良いと俺は思うんだよ。
思いを伝えるのは……すぐには出来ないかもしれないが、意識してもらうには手っ取り早いと思うし。
いってもこれは諸刃の剣でもあるからな、間宮が拒否反応示したり避けたりする可能性も否定できないからさ。
ただ、大事にするってのはいつだって出来るだろ?
そうやって少しずつ好感度を上げて自分と同じように好きになってもらえるよう頑張れば良いと思うんだ」
徐々に真剣な表情になる宮原。
まぁ、このくらいちゃんと忠告してりゃ暴走したりしないかな?
間宮が絡む以上暴走されたら、少なくとも俺は間宮の味方をするし、そうするとこいつ面倒臭そうだからな。
なので、ちゃんと言いたい事を伝えておかねば。
「うん、色々ありがとう」
だからこそ、そう満面の笑みで言ってきた宮原に苦笑いを浮かべる。
「いや、これはどちらかと言うと俺のエゴだからさ。
と言うのも、ぶっちゃけお前が間宮と揉めても俺は間宮の味方するぞ。
それは先に言っておく。
ただ、間宮とお前が勝手に幸せになるんだったら、そりゃ俺の知るところじゃないし、単純に喜ばしい事でもあるからな。
まーなんだ、頑張れって事だ」
俺の言葉に嬉しそうに何度も頷く宮原。
さて、重要な事を言い終えたし、他の疑問も聞いておくかね。
「ってかさ、話は変わるけど雄星君ってのは何だ?
しかもお前俺って言ってたのに、今は僕って言っているし。
どんな心境の変化だよ?」
純粋な疑問として問いかけたのに、ショックを受けたのかまた固まる宮原。
だから、お前一々反応でかいんだって。
「えっ? ダメだった?
いや、僕としてはもう雄星君と友達のつもりだったのだけど……、それに、その……実は僕って言った方が言いやすいんだよね。
その……舐められないように俺と言ってたというか……」
もじもじすんな!
はー、何だろう、多分母性本能を刺激するって奴なのかもしれないが……ちっ、確かにほっとけなくはあるんだよな。
主に泣き疲れそうだし、俺も何だかんだ無下にできない性分なのは流石に自覚あるからな。
「分かった分かった。言った通り嫌いな訳じゃねーし、クラスメイトとしての認識もある。
まぁ……、呼び方くらい好きにしていいぜ。
俺だって宮原ってお前の事呼び捨てにしているんだしな。
自分の事を僕と言ってて何かあったのかもしれないが、それについても別に俺は何とも思わないし、単に変わったのはなんでだ? って思っただけだ」
途端に笑顔に変わる宮原。
本当に忙しい奴。
「ありがとう! これから宜しくね!」
「おう、宜しくな」
また面倒くさそうな奴に懐かれちまったなとは思ったものの……、やはり性分だな。
そんな事態を実は別に嫌だとは思っていない自分に対して自然と苦笑いが浮かぶのだった。




