基地はきちっと見ないと
やはり、力を使うとものすごく疲れるらしい。
コーヒーを開けた覚えもなく、気がついたらトラックの荷台でがたがた揺れていた。
浜松を出たのが多分3時半くらい、今どこまで来たのだろう?
荷台の後ろから、そっとホロをめくる。
赤く染まった木々の中、小高い丘のような山に囲まれた池が、道のわきに広がっているのがみえた。公園になっているらしく、人々が思い思いに散策しているのがみえる。そろそろ日が傾きかける頃だが、子ども連れの家族も多い。
周りの建物に、何となく見覚えがあった。藤枝という町に戻ってきたのだろうか。
そうだ、布団干してたんだった。急にしゅんとなる。
午後には久しぶりに家族と公園に行こうか、と思っていたのに。オレ一人、こんな不思議な場所の不思議な公園を眺めているんだ。
池が入り組んでいるらしく、向こうの木々が重なっている。もう少しよく見ようと少しだけ身を乗り出したとたん
「うわっ」
トラックがハンドルを右に切って急停止。とたんに、車から放り出された。
道路わきのツツジの植え込みに飛び込み、はずみで公園側の広々した通路に落ちた。
たまたま、人がほとんど通りかかっていなかった。少し離れたベンチに座っていたおじいさんが、妙に冷静な目でこちらをながめているくらい。
何食わぬ顔で、椎名さん立ち上がる。今日は落ち日だ。
ワタルが何か大声を出し、左から急に出てこようとした車がおそるおそるバックで戻っていたが、その後、トラックは気づかずに行ってしまった。事故にはなってないようだった。よかった。
しかし後ろに人を乗せていたのを忘れていたのかも。ホロに穴があいて人が飛び込んでも気づかなかったくらいだから、あり得るな。
あたりを見回す。
あちらの、白い建物は学校らしい。確かに見覚えがある。あの近辺のラーメンをごちそうになったような気がする。ということは、やはりヨシノリの引越し先すぐ近くまで帰って来ていた様子。
ならば、歩いて行こう。
ぱんぱんと枝や葉っぱのくずをはたいていると、少し下から目線を感じた。
髪の毛のやや長い小学三年生くらいの少年が、こちらを見上げていた。
近所の子か、椎名さんと同じようなラフなTシャツに、ハーフパンツ、サンダルをひっかけている。
「おじさん」
オレは犬と子どもには人気があるかも、と椎名さんは少しかがんで目線を合わせる。
「なんでしょう」
「今、車から落ちたの?」しっかり見られていたようだ。
「いや、あれはむしろ……」
子どもに言い訳してどうするんだ。
「降りた、というべきか」
「ならいいや」少年は特にこだわる様子もなく、言った。
「じゅんちゃん、約束したのに来なかったんだ、せっかくヒミツキチ作ったの見せてやろうと思ったのに」
「ふうん」
「おじさんヒミツキチみたい?」
「いや別に」急に傷つけられたような目になったのであわてて
「ここから近いの?」
と聞いてしまう。少年はぱっと顔をかがやかせ
「うん」白い建物の方を指す。
「小学校のすぐ裏だもん、みたい?」
ヨシノリのアパートもたぶん、あちらだろう。探しながら付き合うか。
「そうだな、ちょっとだけなら……」
少年が駆け出した。「じゃあ早く来て」
椎名さん、脚をひきひき、後に続いた。