帰路は何キロ?
駅構内は、やや人は空いてきたものの、まだ(多分)いつもよりはごった返していた。
群衆整理の警官たちにはまだ事件解決が伝わってないのか、
「早く駅から出て下さい」と叫び続けている。
かしましく鳴り響くサイレン音の中、椎名さんが元の駐車場に戻ってみるとまだトラックはその場にいた。
助手席から、ヨシノリが明るく手を振った。真ん中に挟まれた彼女も、あひるみたいな口元を緩め、ぺこりと頭を下げる。
「椎名さん、カノジョ、見つかったよぉ」
ワタルもうれしそうに
「椎名さんも無事だったか」
と言ってくれる。そして更にこう続けた。
「奥さんかな? 一回電話あった、『シイナの妻ですがうちのはおりますか?』って言ったよ、いますが今いません、って答えた所で電源落ちちまった。ゴメン」
「いいんだよ、こちらこそゴメン」駅をふり返りながら椎名さん、
「中は解決したみたいだよ、まだごちゃごちゃだけど」
他人事みたいな言い方をしてみる。
「良かったあ、もう十分かそこらいて、来なかったら帰ろうかって言ってた」
「え? もしかしてオレを待ってくれてた?」
交番に行ってみるからいいよ、と言いかけたが、ワタルがさえぎった。
「荷台でよかったら、乗ってくれる? ここまでつき合ってもらったんだからさ」
冷静に考えると、新幹線は復旧まで少し時間がかかりそうだし、こんな時に交番もてんやわんやだろう。ライトニングにまた会えばいいだろうが、基本MIROCは撤収が素早い。すでに現場を離れているかもしれないし、とにかくあのリーダーに説明するのが面倒くさい。手軽に静岡まで戻れる彼らに頼ろうか、という気になった。
「……じゃあ、いいかなまた世話になっても」
「もちろん」
ワタルが答えて、ヨシノリが白いポリ袋をさっと手渡す。
「これ、後ろでタイクツだろうから」
コーヒーと雑誌が一冊、入っていた。
「あ、それと申し訳ないけど」ワタルが頭を掻いてわびる。
「途中、ヨシノリを藤枝に下ろしてっていいかな? 引越し荷物片付けるって」
「もちろん、いいよ。オレに遠慮しないでくれ」
椎名さんが荷台に乗り込むと、トラックは一路、東に向けて出発した。