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呪いのサンダルを履くとノロイの?

 2人とも、気のいい連中だった。

 助手席にいたのはやはり、よっちゃんこと飯田ヨシノリ、先輩は西本ワタル、ヨシノリが18、ワタルは22になるのだと。

 とりあえず金を借りて、家に電話。誰も出ない。捜索願いを出しに行っている最中かもしれない。

 留守電に入れようと思ったが、『FAX、またはおかけ直しください』と言われてしまった。

 MIROCの緊急ダイヤルにかければ、迷惑がかかる、というかもうすでに前の騒ぎの時から「新潟からアエロフロートでコショウを買いに行った男」と囁かれていた。さすがにかなりの恥を捨てた彼でも、これ以上私的な用件で恥の上塗りはしたくなかった。

「近くに、FAX貸してくれる所あるかな、コンビニとか」

 コンビニは2件あったが、一つはFAX未対応、もう一つはたまたま故障中だった。

 よっちゃんの携帯を借りて、由利香の携帯に電話をしてみるが『接続できません』と出てしまう。彼女に着信拒否を教えたのが災いした。

 自分の携帯にもかけてみるが、当然のように鳴りっぱなし。しかもあっちはマナーモードにしてあった。それに、なぜか留守電機能が外れていた。永遠にどこかで震えているだろう。電源朽ち果てるまで。

「とりあえず……飯に行きましょう」先輩が言ってくれた。


 近くのラーメン屋でごちそうになりながら、椎名さんは2人の話を聞く。

 2人は横浜の高校での先輩後輩、先輩はここから20キロ程離れた県立大の3回生、下宿も静岡市内、大学のほど近くだった。

 よっちゃんことヨシノリはサッカー大好き青年で、現在浪人中。

 家にいても両親とケンカばかりなので、どうせなら大好きなサッカーチームのある磐田市に住みつつバイトしながら勉強しよう、などと虫のいいことを考えていたが、先輩に勧められ、もう少し東の藤枝市に住むようアドバイスされたのだそうだ。

「この近くに、サッカーで有名な高校もあるし」

 どちらかと言うと野球の方が好きな椎名さんは、へえ、と言いながらも何となく名前だけは聞いたことがあるぞ、程度でラーメンをすすっていた。

 すっかり満腹になってから店を出た時、彼は2人に厚く礼を述べた。

 ワタルが軽く咳払いする。

「とりあえず、オジサン……ごめん、椎名さん」

 いいんですよ、ワタルから見れば、たしかに十分オッサンだ。

「コイツの荷物降ろしたら、オレが静岡まで送るよ。コイツも今日は財布空っぽだしさ。オレもまず給油しなきゃ。いったん下宿に戻らないと、貸すほど金がないし」

「いいのかい?」

 うんうん、とワタルがうなずいて言う。日の出町の人なんだろ? ヨッシーの実家の近所だしね。

 サンライズの嘘のような本当の話も、十分同情して聞いてくれたし、本当にいいヤツらだ。

「ありがとう」そこにワタルの携帯が鳴った。

「はいぃ、はい?」若い女性の声がわんわんと響く。

「どこ? 浜松? アクトシティ? なんで、普通の電車で帰れよ、うん、うん」

 切ってから、渋い顔をしている。

「どうした?」

「……妹がさ、バッカなヤツで」

 同じ大学の一年なのだと言う。昨夜コンサートに行くのに静岡の下宿から浜松に新幹線で出かけたらしいが、一泊してからさて帰ろうとして駅に着くと、新幹線で何か事故だか事件だかがあったとのことで、駅を封鎖する騒ぎになっているらしい。もちろん、在来線も上下線とも不通。浜松近辺で折り返し運転になってしまったとのこと。

 明日試験もあるし、サークルの大事な会合があるんだよ、どうしよう、今日絶対に静岡まで帰らなきゃ、お兄ちゃん今どこにいるの? 迎えに来てくんない? という救援要請だった。

 兄貴は

「タクシーでも拾えばいいのに」

 と冷たいが、やはり気になるらしく椎名さんを見た。

 よっちゃんまで心配そうに彼を見ている。

「あのさあ……」

 椎名さんが遠慮がちに言った。

「オレのことはいいから、妹さん迎えに行ってやってよ。やっぱ、家族ってダイジだと思うよ、こういう時」

「……だよね」

 なぜかよっちゃんがうなずいている。それで分かった。コイツの彼女か。

「椎名さん、ゴメン」ワタルが千円出した。

「途中で給油も必要だから今、これだけしかないけど、藤枝駅までこれでバスに乗れるから、あと交番に連絡して事情話してみて。駅まで送るよりこのままバイパスに乗る方が早いからさオレら……あっ」

 急に気がついた事実。

「残ってた札、五千円じゃねえや、」

 今のいままで七千円残っていると思っていたワタル、実はもう三千円しか持ち合わせがなかった。

 さすがに哀しい学生さん、カードすらないという。

「どうする?」椎名さん、トラックを見る。それから二人を見比べて

「どうだろう? オレも一緒に浜松まで、連れてってくれないか?」

「え?」「いいかも」また二人は顔を見合わせる。

「浜松の交番に行けば、いいじゃん」

「じゃあ早く荷物降ろしちまおうぜ」

 三人はせっせと働きだした。


 今、思うとそれは……呪われたサンダルが言わせたセリフだったのかも。

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