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曲野零の日常

 曲野零の人生は日常と非日常の繰り返しでできている。


 久方ぶりに訪れた日常。それは、かわいい妹に起こされた時から始まった。

「お兄ちゃん、起きてくださいです!」

「起きてくださいです!」


零の妹、曲野一子まがりのいちこはそう言って零をゆする。本当はまだ寝ていたいが、妹に起こされたのなら仕方ない。

てゆうか今日は学校だ。


 寝ぼけ眼で見た妹は、ウサギ柄のピンクのパジャマを着ていた。

今日もかわいいぞ!わが妹よ!

しばらく見ていたら、一子は怪訝なまなざしで睨んできた。

「お兄ちゃん、今変態のまなざしで一子を見たです」

ぐさっ。

傷つくー。

「俺は変態と言う名の紳士なのさ」零はキリッとした表情で言う。

「お兄ちゃんキモいです」

零のガラスのハートは粉々になった。


 一子は長い黒髪をくしで梳きながら部屋を出て行ってしまった。

さあ、俺も支度をするか。

零は立ち上がった。


 一子には零や父親の百次郎が殺し屋であることは言っていない。

いや、全力で隠しているのだ。

家族ぐるみで。

一子には普通の生活を送ってほしいという零や母の願いだった。愛する妹に、血にまみれた世界を知ってほしくない。


 というわけで、一子の前では普通の高校生のふりをしている。


 「零ちゃん、おはよう」リビングに行くと、母の美代みしろが声をかけてきた。

「だからやめろって言ったろ、その呼び方。俺は高校生だぜ。それに、泣く子も黙る夜の怪物、殺・・・」そこまで言いかけたところで、一子がソファに座っているのに気付いた。

汗があふれてきた。


「いや・・・、殺・・・、コロコロステーキだ。母さん、今日の夕飯コロコロステーキがいいな」

我ながらに下手な芝居だったな。

「わーい、一子もコロコロステーキがいいです!」

簡単に騙されてくれた。

「わかったわ」美代がきつく睨む。

「はは、ははははは」



 なんだかんだで忙しい朝は過ぎ、舞台は変わり零は今、紅高等学校普通科2年B組の教室にいる。

1時限目の数学の授業を終え、次の時間の英語の準備をしているところだ。

普通の高校生としての零。

殺し屋ではない、曲野零。


 「曲野君、おはよう」同じクラスの三神夜鶴みかみよづるが話しかけてきた。

「グ、グッドモーニング」

はっ、しまった。

緊張のあまり英語で返してしまった。

絶対変だと思われる。

曲野君熱あるの?って絶対聞かれる。


 夜鶴は笑っていた。

「曲野君って面白いね」

よ、よかった。今の会話のどこに面白いところがあったのかわからないが、受けたのならよかった。


 零は三神夜鶴が好きだ。

友達としての「好き」ではない。

恋愛対象として、「好き」なのだ。愛していると言ってもいい。

出会いは2年前の文化祭、彼女の焼きそばの模擬店で会った時から・・・。

話すと長くなるからやめよう。

とにかく彼女が好きだった。


 「ねえ曲野君、昨日の英語の宿題でわかんないところがあったから教えてくれる?曲野君英語得意だから」夜鶴が零を見つめる。

零の頭から湯気が出そうだった。

「い、良いぜ。teachしてあげよう」

はっ、しまった。

俺はどんなキャラだよ!

「ありがとう」

夜鶴は、短めの髪を耳にかけながら、英語のノートを机に広げた。

「ここなんだけど・・・」

零と夜鶴の顔の距離、わずか3センチ。

夜鶴さん!それどこじゃありません!


 「ねえ聞いてる?」夜鶴が上目づかいで零を見た。

「はっはい」

キーンコーンカーンコーン。

無情な鐘の音が響き渡った。

「あっ、鳴っちゃった。席に戻るね」夜鶴は悲しそうな顔をして席に行ってしまった。

チャイムのバカヤロー。

2時限目の英語は、さっきの事で頭がいっぱいになって全然頭に入ってこなかった。



 そのまま順調に授業を受け、下校の時間になった。零の親友の雨宮霧雨あめみやきりさめに一緒に帰らないかと誘われたので、2人で帰ることになった。


 夕焼けの空。

零と霧雨は長い坂を下っていた。

「お前昨日どうしたんだ。急に休んだりなんかして」霧雨は痛いところをついてきた。

流石に世界の果ての島で世界最強の殺し屋と戦っていたなんて言えないので、

「家が火事になっちゃって」

「絶対嘘だよね!それ!どんだけ嘘下手なんだよ」霧雨は全力でツッコむ。

霧雨はマグロと同じ。

マグロは泳ぎ続けないといけないように霧雨はツッコまないと死んでしまう。

「まあそれは嘘だけど。熱が出ちゃって」

「そうか」


 「お前って休みの日何やってんだ。すっごい謎なんだけど」またまた痛い質問だ。

まさか殺し屋の仕事をやってるなんて言えないので、

「ちょっと世界旅行に」

「ちょっとってレベルじゃないよ!図書館に行く感じで言うな!」

切れのあるツッコみをどうもありがとう。

ボケ甲斐があるというものだ。

「まあそれは嘘だけど。本やなんかを読んでる」

「へー」


 「そう言えばたっちゃんが塾の帰り、11時くらいだったかな、お前が住宅街の屋根を飛んでるところを見たって・・・」

ギクッ。

それは1週間前に殺しを終えて家に帰るところだ。

しまった。見られてるなんて。

うかつに屋根飛ぶんじゃなかった。


「はっはっはっはっはは。そんなわけないじゃないか霧雨君。多分忍者か何かと見間違えたんだよ」

「この時代に忍者がいるの!?」

「そうだよ。俺はこの前見たよ。忍者。コンビニでつまみ買ってた」

「忍者がコンビニ行くの!?」


 そんな雑談を楽しみながら帰宅する。

「ただいまー」

「お帰りですー。お兄ちゃん」

曲野零の日常はこのように進行する。

零は日常をできるだけ楽しむようにしている。

また始まる非日常で生き抜くために。


 

 第8話です。

今回は零の日常パートです。また大冒険が始まるのでその前に一息。

そんな瞬間は良いですよね。

日頃頑張った体を休めるためにほっと一息を入れるのは良いことです。

感想、アドバイスお待ちしています。

ではでは。

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