帰還
ヤブカラ城門にて。
「このたびは本当にありがとうございます。殺し屋さん」チョーゴ・ブレイ・ヤブカラ3世はにこやかに言った。
「あのー、食堂の方は大丈夫なんでしょうか?」杏が恐る恐る聞く。
「はい。2,3日したら修理をしに使いがやってきます」
「ふー」杏は胸をなでおろす。
「よかったわね」杏は隣にいるはずの零に声をかけた。しかし、零はそそくさと密林の中に足を踏み入れていた。
なんちゅー礼儀知らずの奴だ!
「失礼します」杏は走り際に挨拶をした。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「遅かったな」息を切らせて零の隣にやってきた杏に言った。
「遅かったな、じゃないわよ。そんなんじゃ女の子にもてないわよ」ふんとそっぽを向く。
「あいにく俺は女の子に困ったことはないのさ」
「それはよーござんした」
杏は機嫌を損ねたようだ。
飛行機の中、杏と零は向き合っていた。
機内は暗く、静かな音楽がかかっていた。2人以外に人はいない。
貸切と言うやつだ。(行きもそうだったが)。
「なあ安原、今回の仕事変じゃなかったか?」
「何が?あんたはいっつも変だけど」
「変な態度と書いて変態と読む」
「だから何なのよ!」
「俺は変態と言う名の紳士なのさ」
「そんな紳士お断りよ」
「で、話を戻すが。何か変なんだよな。作られた感じがする」
「確かに・・・、敵国はかなり小さな国だったはず。そんな国が世界最強の殺し屋を雇えるかしら?」
杏はポニーテールをほどいた。
オレンジ色の髪の毛が腰のあたりまでいく。
「そうなんだよ。それに、殺し屋が来るタイミング。何かドス黒い大きな陰謀に巻き込まれている気がする。もしかして事故に見せかけて俺を殺そうとしているんじゃ」
「ミステリードラマの見過ぎよ!誰がそんなことするの!?」
「気のせいかもしんねーな」
結構適当な男である。
無事日本に到着した。
夕暮市紅町はその名の通り夕日を浴びていた。
杏と零は長い坂を下る。
町全体を見渡せる裏スポットだ。
「はー。時給の割には危険な仕事だったわ」
彼女の時給は誰も知らない。
紅町七不思議のひとつである。
それこそミステリーだ。
「じゃあ、俺帰るわ」零は柵を乗り越え、飛び降りようとしていた。
「ちょっと、本部に報告に行かなきゃ!」
その前に死ぬわ!
あんたは超人か!
「面倒くせーな」
殺し屋協会本部は中華料理「花華」の地下にある。
カウンターの裏の隠し階段をおりれば行くことができる。
しかし、客に気づかれずに行くのが難しい。
殺し屋も大変である。
殺し屋本部。
それは、殺し屋が集うギルド。そこには依頼が舞い込み、殺し屋たちに振り分けられる。
基本的に殺し屋は協会に入会し、様々な保護や手当を受けることができる。
しかし中には協会に入らず、フリーで仕事をする変わり者もいる。
殺し屋協会本部最下層に会長の部屋はある。
トントン。
零は会長室のドアをたたく。
「零です。報告に参りました」
「入ってください」
会長の部屋は、シナモンの香りが漂い、漫画が大量に置いてあった。
そこには、オールバックで眼鏡をかけた笑顔の男が1人。
「いやー、よく帰って来れましたね」
「はい」
「まさか世界最強の殺し屋が相手だったなんて。僕は君たちが屍になって帰ってくると思っていたけどこの通りピンピンしていてよかったよ」
屍!?
俺達屍になる予定だったの!?
「安原さんのおかげで、何とか撃退できました」零は隣の杏をちらっと見る。ドヤ顔をしていた。
むかつく。
「それはよかった」そう言って、にっこりとほほ笑む。
榊原千夜。殺し屋本部会長にして「殺し屋大戦」の生存者。
甘いものが大好きな殺し屋。
チャームポイントは笑顔。
いつも笑顔だ。
人を殺すときも笑顔らしい。
榊原会長はいつかこう言っていた。
「笑顔は人を幸せにする。だから、人を殺した時も笑顔で見送らなきゃいけないんだ。それが礼儀ってもんだよ」
怖いです!会長!
実力も半端ないらしい。
まあ、殺し屋の半分が死に絶えた「殺し屋大戦」の生き残りだから当たり前か。
零はそんな榊原会長を苦手にしていた。
「今回は大変だったね、しばらく休むといいよ。また指令が入ると思うから、その時はよろしく」
会長の瞬殺スマイル発動!
「ありがとうございます。失礼します」
零と杏は会長室を後にした。
2人は談話室の前で別れた。
「じゃあ俺行くわ。かわいい妹も待ってるしな」
「うん。また近いうちに会いましょう。その時まで死なないようにね」
「ああ。また世界の果ての果てでな」
第7話です。
最近めっきり寒くなりましたね。手がかじかむ。
説明ばっかりですがどうか読んでやってください。
明日も更新できるようにガンバロ。
ではでは。