図書室にご注意を!
曲野零は人質である桜木桜子とともに『悪魔の館』地下1階を進んでいた。
しばらく敵も現れず、同じ景色の廊下をひたすら行くのもである。
「そういえばさ、お前ここ来る前は何してたんだ?」桜子の事を何も知らない零が唐突に聞いた。
「そうね。それなら私の出生から順に話していかなければならないわね」
「何時間かかるんだよ!なんでそんな前から話すんだ!」
「私は宇宙帝国ガルバディアで生まれ、3歳の時に地球に捨てられたの」
「どんだけ壮大なんだよ!」
「それは嘘だけど」
「さらっと言うな!」
雑談を交わしながらいつでも戦闘ができるように構える。さっきの戦闘では結局、鎧から拝借した槍を使う機会がなかったので、今度は有効に使おうと槍をいつでもとれる状態にした。
「で、さっきの話なんだけど、私は高校を卒業してから出身地の天の川高原を出て、就職活動をしたの」
「何でこのグループに入ろうとしたわけ?」零が聞く。
「うーん。この能力があることは子供の時から知ってて、それが生かせる仕事がしたかったのね。それで、友人の知り合いの怪しい占い師にこの仕事がいいって言われて・・・」
「それで、この仕事が嫌になったわけか」
しばらく黙り込む桜子。
何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。
「なんていうのかな、嫌気がさしちゃったのよ。この仕事、すっごく黒いのよ。麻薬の密輸とか賄賂とか殺人とか。それで、私なんでこんな事やってんだろって思ったの」
「そうかい」
「今度はあなたの番よ、そんな仕事をしているのは何故?」桜子が零の顔を覗き込む。
目が輝いていた。こういう話題が好きなのだろう。
「俺は・・・いいよ」
「ずるいわ。私は話したのに」
「そんなこっ恥ずかしい話なんかできるか!」
「話してくれないなんて言うなら、私泣いちゃう」
「女の最終兵器を使うな!」
「話してくれたら私、彼女になってあげる」そう言って桜子は零の腕を組んだ。
零はあわてて振り払う。
「わかったわかった。話せばいいんだろ」少し膨れ気味に零は言う。
高校生殺し屋も女性には弱いのだ。
桜子は頷いてメモを取る用意をした。
「どこから出したんだよ!メモするな!」本当に収納人間だ。
「俺は、親父が殺し屋だったから。ガキんときによく仕事場連れてってもらってたし。俺は将来『殺し屋』になるって決めてた」
「子供の時から殺人現場見てたの!?精神おかしくなるわよ普通。コ〇ンじゃあるまいし」
「5歳の時に暗殺術を覚えた」
「神童レベルじゃないわ!」
「8歳の時から3股してた」
「わお!少しむかつく!」
ツッコミも楽しい奴だった。
てな感じで馬鹿な会話をしていると、大きな扉が視界いっぱいに広がってきた。
茶色い、つやのある高級そうな扉だった。
「なんだここ?」今までここまで大きな扉は無かったので気になった。
「ここは来たことあるわ。確か図書室よ」
「じゃあいいか」零は先に進もうとした。
しかし、桜子が呼び止める。
「待って!」
「図書室がどうかしたか?」
ポケットに手を入れ、腰を反らせて後ろを見るという格好で零が聞いた。
「ここの図書室、多分エレベーターがあるわ」
「エレベーター?」
「うん。ここのエレベーターで地下1階と地上1階を移動できるようになっているの」
「じゃあ一気に上まで行けるのか。小ボスってやつはいるのか?」
「それは、わからない。でも、敵が潜んでいる可能性は高い」
「まあどうせ他の階段でも戦うことになるんだし、捜して体力使うより、ここのエレベーターを使った方が良い」
「そうね」
零は重い扉を開け、図書室の中に入った。
入った瞬間に古い本のにおいが鼻を刺激した。
そこは、本当に図書館という感じだった。本棚が大量にあり、その中に本がぎっしりと詰まっている。2階があり、階段で行き来ができるようになっている。
零の通っている紅高等学校の図書館の何倍もある。こんなに巨大な図書室はいまだかつて訪れたことが無い。零はまったく本に興味がなかったのだ。
「すごいな」薄暗い図書室の中を進みながら、隣にいる桜子に話しかける。
「こんなに本が置いてあっても誰も読まないんだけど」
零が好きな漫画本などは全くなく、小難しい経済の本や歴史書が嫌と言うほど置いてある。
「エレベーターはどこにあるんだ?」零が聞いた。
「確かこっちの方にあったわよ」桜子は階段を上り、カモンと手を上下に動かした。
ついて行くと、2階は小説が置いてあった。
「奥にあるはず・・・」
確かに奥にエレベーターはあった。
「よし、こいつで上まで行こう」零がボタンを押した。
しかし、エレベーターはくる様子もなく、扉も全く開かなかった。
「どうなってんだよ!」
「やっぱり、使えないのかなぁ」
がっくりと首を下に向ける桜子。
「やっぱり地道に階段探すしかないか」諦めて。2人は図書室を出ようとした。
1階に行き、入ってきた巨大な扉を押した。
しかし、さっきまで簡単に開けることができた扉は全く動かなかった。
ピクリともしない。
「おい、俺達、閉じ込められたんじゃねーのか?」顔を真っ青にして後ろにいる桜子に伝えた。
「じゃあここに誰かいるってこと?」
「たぶん。俺達に気づかれないところでずっと見てたってわけさ」
ごくりと唾を飲む。
零の腕から血が噴き出したのは、その時だった。
何の音もなく、切られた感触もなく、ぱっくりと皮膚が裂けた。
「きゃあああああ!」
「落ち着け!能力だ」
そう言ったとき、今度は零の頬から血が出た。
「またやられた!」
零は周囲を見渡した。しかし、零を切りつけることができる距離には、桜子しかいなかった。
桜子は除外する。
だとしたら、零から離れた位置からどうやって、どうやって零を攻撃できたのか?
この図書室には、『見えない敵』が潜んでいる。
しかも、能力者の。
零はそう結論をだした。
「どうやらその見えない敵を倒せば上に行けそうだ!」桜子を庇うように後ろへやると、零は言った。
何の音もなく、零の足に衝撃が走る。
「くっ!」
痛むが、それに構っている暇はない。
「どこにいるんだ!正々堂々と戦え!」零は怒鳴るが、見えない敵は姿を見せない。
零は剣を構え、本棚の陰に隠れた。桜子も一緒だ。
またもや衝撃が太ももを襲う。
血が出る足を無理やり動かし、桜子を連れて図書館を走り回った。
一体、どうやって攻撃しているのか?
『見えない敵』はどうやって倒すのか?
零は全くわからなかった。
第19話です。
最近短編を書いてないのでそろそろ書き時期かなと思う今日この頃。
小説を賞に応募したいなとか思ってます。
そのために良い設定を考えています。
文章力も上げないとな。
僕の心の叫びでした。
感想、アドバイスお待ちしています。
ではでは。