BLOEMENVEILING
繊細な霞のさなか、澪標がみえるころには、幾層もの国境をとうにすぎていた。時計の針どもはせっかちにも、すっかり傾いでいて、彼女らを語りうることばは、そばから劣化していった。
Karvanはどこから出でて、どこへむかうのか。とりどりの花卉は旅立ちの、身支度をととのえ離散する。再び離散する彼女らをして、畢竟、Bloemenveilingは、幾層もの霧のさなか、澪標のひとつ、国境の又国境のその又すきまにすぎない、未知らぬ名もなき通りの1つだろうか。
空と吐息のあいだには
豊かなるわたしのふるさとがある
あれはいつの いかなる水べであったろう
土くれのわたしを吸い上げて
募る想いを
かつて葉が覆う
胡乱な陽射しのさなかで
そこだけが
それのみが
永遠に
わたしのふるさとであり
わたしのふるさとであり続ける
そうしてKarvanは、どこへむかうのか。
不意に眩んだ行為にかまけて。
地上では、眩むような“夏”と遭うだろう。
茹だるコンクリから、煮沸される樹木から、
けぶる蒸気がたちまち街を歪ませるから、
影は用役を放棄する、視界はたゆたゆとろけている、
そそくさ残像を畳む間に
地べたのへりに形をへばりつけて。
かくして彼女は姿を消した。痩せこけた蝋燭が、用役を果たしたあとに。しゃぼん色を湛え、滴らせば、泣き崩れて、そしてきえてしまった。遺る、拡声器をしても、届かない。そう、声も、詩も、なにもかもが、なにもかもを、とろかして、地に説き伏せるのだから。
大地と大気に挟まれて
ぎりりと呻り軋ませて
おもえば
なにを、して、い、る、の、で、 す、 か
されどAalsmeerは点描する、千紫万紅の、Chrysanten、Tulpen、Rozen、七百万の、一分の隙なくびっしりと覆う、八百万すぎの鉢植えの植物たちを刺繍として。過たず花ばなの間に、間に、喪に服すかげたちが、たとえば悪意であったとして、丁度、待ち侘びたものを憎めど、赦してしまうがごとく、届かない、悪意とて、善意とて、ころがされて、増幅されて、反射して、だれかをわるいやつらに仕立て、だれかを善球にして、そうでもあり、そうでもないことを、ついぞ蕩かしてしまうから、
地べたのへりに形をへばりつけて
アイロンプリントされた残像
圧縮された懊悩
装丁として 点描として
つとめて
しづかに
街は
記憶で出来ていく
こうして街は記憶した。Naivashaに群れるものも、Bogotá出のものも、みな、αγοράにあればCréoleとして、形も、意味も、在るべきすがたも、接合されて、剥落されて、souqからPazarへ、Pazarからmacheへ、はざまとはざまのあいだへ、群生する花ばなの1つとして。
※参考文献:
[1]John McMillan著・瀧澤弘和訳『市場を創る―バザールからネット取引まで』NTT出版、2007年
[2]Ken Steiglitz著・スティグリッツ著、川越敏司訳『オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで』日経BP、2008年