日常乖離―反射する、正しい世界
いつからだろう。
不透明なガラス窓、廊下に広がる薄汚れた白の床材、頭をかち割れそうなタイル群、そして組み合わされた木目調の長方形の集合体…それぞれがあみだくじのできそうな線の背景となっている。
それらは僅かながらでも周囲を反射し、歪に映し出す。
私は思った。
寧ろ、これらの反射物…境界面の世界こそが現実だと。
どんなに実態として視界に収まったとしても、どんなにそれらしい現実でも嘘を隠した偽物だ。特に、ワックスの効いた教室付近は実に正確な現実を映している。
学校というのは本当に歪んでいる。
歪 という漢字を分解して不正だ。
反射された物体は全て的確に映し出されている。
トットットッ…。コッコッコッ…。
おはようございます。
「うっす。」
顔を先生に向けつつ、チラッと境界面に視線をやる。スニーカーの足部から頭部につれて徐々にぼやけていった。
顔は蛍光灯のせいもあり誰だか分からなかった。
スーッ。
トットットッ…。
ガラッ、ドン…。トッ、トッ。ガラガラ…。
トットットッ…。
ガタッ。ガガッガッ。
教室で席に着いた私はクラス中の机という境界面に注目する。蛍光灯に実体が照らされ、生み出された人影が蠢いていた。時に映し出された現実に被さるも、ただ歪な現実に重みが加わるだけで大した影響はない。
……でね、、今日の一限、自習ね…え、男テニでしょ…キャハハッ…イヤッハッハ、マジで言って…違うでしょ…それでもうちゃんに話しかけたらさ…公共次第でトップ10はいれるんやって…キャァァァァァー、おい煩いぞー。
「そんな浮かない顔すんなって。いつも言ってるだろ。」
僕は目の前の虚像を凝視する。別にそんなことはないのだと伝える。
「移動教室だからはよ行くぞ。あー、そうだったあ!1時間目自習だわ。」
あっそうなん?そもそも何の授業だっけ。
「数…Cだね。」
おけ。
僕は腕時計を見つつ、彼の虚像をその中に収める。
あぁ歪んでいる。
でもマシだ。彼の顔はほとんど変わらず映っている。
「教科書要らないかなあ…一応ワークだけあればいっか。」
タッタッタッ…。
廊下に出ると不正をしたセイト、所謂バケモノたちが狂ったように喚き叫び、その姿だけを偽っていた。
友人と雑談し、境界面の現実と比較しながら一限の教室へ向かう。なんだあのメガネは。身ぶり手ぶりが歪んでいるじゃないか。うわ、あの坊主頭は何もかもが真っ黒だ。
ダダッ、ガサッ。バサッ、ガッ、バラバラバラ…カラ、カラッカラッ…。
あっ。
「ちょ、何してるん。おもろすぎ。」
思わず教材やら文房具やらを落としてしまった。プリント類をかき集めるためにかがみ込む。やっちゃったなぁ。
すぐに拾い集め…。
どうして気づかなかったんだ。
気づいてやれなかったんだ。
境界面に映し出された、自分の姿。
…この歪んだバケモノは私なのか。
何て醜いんだ。
それからというもの、私は鏡やガラス、タイルやワックス掛けのある廊下を見れなくなった。




