方向音痴で男嫌いな美少女クラスメイトが、何故か俺と同じ方向に向かおうとしている
「うお、なんだあの子、超可愛いじゃん」
「アイドルだったりするのかな」
「お前ちょっと声かけて見ろよ」
電車に乗っていたら隣に座っていた若い三人組の男性がこんなことを言ってた。
彼らが注目しているのは、俺から見て斜め右方向の角席に座る一人の美少女。
夏休み最初の土曜日。
偶然にも一緒の電車に乗り合わせたクラスメイト、市川 杏子。
確かに彼女は学校でも超絶有名な美少女だけど、声をかけるのは止めた方が良いんじゃないかな。
その理由の一つはまだ彼女が高校一年生であること。
大人びた表情なのと、服をこんもりと押し上げる魅惑的なプロポーションにより、彼女は実年齢よりも良い意味で年上に見える。隣の男性陣は雰囲気的に間違いなく大学生以上。大人が高一女子に手を出そうとしたら世間的にはロリコン判定されるので手出し厳禁だ。
そしてもう一つの理由が、彼女が男性嫌いであること。
ふと、夏休み直前に彼女に声をかけたクラスの男子の姿を思い出した。
『なぁなぁ、市川さんは夏休み何する?』
『ごめんなさい。私、男性と必要以上に話したく無いの』
『そんな冷たいこと言うなって。ちょっと世間話するくらい良いだろ』
『お断りします』
『そこをなんとか』
『私は拒否しています。これ以上話しかけたら、ストーカーとして警察に通報します』
『お、おい、ふざけんなよ。そこまでするか普通!』
『…………』
『っ! くそ!』
あわよくば市川さんと夏休みに遊ぶ機会が作れないかと思っていたのだろう。だがその男子は市川さんの逆鱗に触れてしまい、冷徹な瞳で睨まれて無残にも散ってしまった。
彼女は事務的な話であれば普通に答えてくれるが、それ以外で男子とは全く話をしたがらない。
もしも隣の男性陣が彼女に声をかけたら、衆人環視の元で無残な形でバッサリと斬り捨てられて恥をかかされるだろう。
以上の理由で市川さんには触れるべからずなのだが、そんなことを分かっている俺でもやはり気になってしまう。
何故ならば、彼女の私服が清楚な感じで実に可愛らしいから。
どう表現したら良いか難しいのだけれど、端的に表現すると男ウケする服装、だろうか。
彼女についての勝手なイメージは、女性向け雑誌に載るモデルのような女性ウケする恰好良い系の服を着るタイプだった。でももしかしたらそれは、男子目線だからが故の勝手な思い込みだったのだろう。超絶塩対応する姿がどうしても印象に残ってしまうから、男性に注目されそうな服装は嫌いなのだろうと感じてしまっていたのだ。
よくよく思い返してみれば、彼女は女子と一緒の場合は砕けた笑顔を見せていて、それは塩対応時と比べてあまりにも可愛らしい。そっちが素だと思えば今の可愛い系の私服も納得か。
いや、にしても可愛すぎだろ。
超気合いが入っているコーデな気がする。
まさかデート?
あの男性嫌いな市川さんが?
もしかして彼女には彼氏がいて、浮気しないように男性に対して厳しい態度をとっているのだろうか。
なーんて、そんなことはどうでも良いか。
むしろ彼女のことを考えすぎるのは俺にとってまずいことだ。
今の俺には、学校で話題の美少女の超絶可愛い私服姿よりも、遥かに大事な用事があるのだから。
そんなこんなで、電車が目的の駅に到着した。
すでに車内は満員に近く、市川さんの姿も見えなくなっていた。
その駅は日本有数の広大かつ複雑な構造をしている駅なんだけれど、俺は何度か来たことがあるから迷うことは無い。
ちょっとばかりトイレにでも寄ってから乗り換えのホームへと移動するかと考えたのだが、トイレから出て来たら市川さんを発見した。
なんかキョロキョロしてるけれど、どうしたんだろう。
表情も不安そうだ。
もしかして迷ってるのかな。
だとしたら助けてあげたいけれど、俺に話しかけられるのは嫌がるかもしれない。
ふと、俺の脳裏にある光景が蘇った。
はは、何を考えてるんだ。
そんなことあるわけないのに。
さてどうするか……いや、話しかけよう。
もし本当に迷っているとしたら不安でしょうがないだろうし、それで塩対応されたらそれはそれだ。
「市川さん、どうしたの?」
「!?」
声をかけたら、市川さんが物凄く驚いた感じで俺を見た。
その顔はあまりにも険しく警戒されまくっていたけれど、声の正体がクラスメイトの俺だということが分かると少しだけ警戒が解けた様子だ。
「取手……君?」
「そう。クラスメイトの取手だよ。良かった、覚えていてくれて」
いきなり叫ばれたり警察を呼ばれたりしたら悲しいだけじゃなくて、今日の俺の予定にも影響しちゃうからね。おっとそれを考えたら念のためもっとフォローしておくか。
「警戒しないで。もしかしたら市川さんが迷ってるのかなって思って声をかけただけだから。嫌ならすぐに移動するよ」
俺の言葉に市川さんは僅かに目を開き、何かに驚いている様子だ。
だがそれも束の間の事、何かを振り払うかのように顔を左右に振ってから小さく息を吐いた。
「ありがとう。それにごめんなさい、親切にしてくれたのにこんな態度を取ってしまって」
なるほど、市川さんは男子に対して問答無用で理不尽になるって訳じゃないんだね。
事務的なこと以外でも真っ当に心配して行動したら真っ当に対応してくれる、普通の女の子だった。
「実は……に乗り換えたいけど、どっちに行けば良いか分からなくて」
「あ~確かにそこへの乗り換えって少しややこしいんだよね」
電車の乗り換えは基本的に案内板の誘導に従って進めば良いのだけれど、何故かこの駅のその乗り換えに関してはルートを少しでも誤ると案内が消えてしまうんだ。
「俺もその電車に乗るから案内しようか?」
それは極自然な会話の流れだったと思う。
しかし市川さんは俺の提案に露骨に顔を顰めた。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいのだけれど、方向を教えてくれるだけで良いわ」
乗り換えなんてすぐなのに、どうして案内を拒否されたのだろうか。
もしかして少しでも長く会話をしていたい、のような下心があるとでも思われたのだろうか。
そんな俺の内心を察したのか、市川さんはその理由を教えてくれた。
「その、私、男性と関わりたく無いの。特に今日は……」
もしかすると電車の中で俺が想像したことは正しかったのかもしれない。
彼女は今日、彼氏とデートなのではないか。
それなのに同世代の男子と話をしていて、しかも並んで歩いている姿を偶然その彼氏に見られたらと思うと一刻も早くこの時間を終わらせたいのではないか。
なるほど確かに。
その気持ちは良く分かる。
俺もそんなことになったら困るもんな。
「分かったよ。なら道順だけ教えるね」
市川さんはふんふんと頷きながら俺の説明に耳を傾けた。
「本当にありがとう。助かったわ。それと、せっかく親切にしてくれたのにこんな態度でごめんなさいね」
「気にしないで」
市川さんは何度も俺に頭を下げると、慌ててその場から移動した。
その後ろ姿を見ながら俺もまた乗り換えようとして気が付いた。
「市川さん待って!」
「?」
慌てて彼女に声をかけると、彼女は不思議そうに振り返る。
いやいや、不思議がるなよ、むしろ何でそうなるんだよ。
「向こうだぞ?」
「あ!?」
彼女が進んだ方向は、俺が説明した方向とは真逆だったのだ。
このままでは更に迷ってしまうことになってしまう。
「あ、ありがとう!」
市川さんは顔を真っ赤にして照れて、今度こそ正しい方向へと移動した。
そこで照れ顔を見せるの反則じゃね?
可愛すぎて胸のドキドキが止まらない。
そんな気持ちを抱いてしまってはダメなのに。
特に今日は、絶対に。
にしても不安だ。
いきなり反対方向に進むだなんて、もしかして彼女は相当な方向音痴なのではないだろうか。
念のため後を追うか。
別にストーキングするわけじゃないぞ。
そもそも俺も同じ乗り換えが必要だから、偶然一緒の方向に進むだけ。
そのついでに彼女の様子を確認するってだけのこと。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
マジでついていって良かった。
まさか五回も道を間違えるとは。
でもそのかいあって、俺達はようやく乗り換えることが出来た。
もちろん彼女とは別れ、離れた車両に乗った。
こんなに方向音痴だと、彼氏さん大変だな。
待ち合わせはもっと彼女が迷わないような場所にすべきなんじゃないかね。
まぁそれは良いか。
市川さんのことを頭から追い出して、今日の予定のことを考えないとな。
そう思っていたのに、俺の脳裏から市川さんが消えてくれない。
それは彼女に恋してしまったから、なんて理由では無い。
「また居る……」
俺の移動する先々で、彼女が迷う姿を目撃してしまったからだ。
流石にダンジョンではない普通の駅では声をかけていない。彼女は駅員に相談するなどして自力で解決出来ている。それなのに俺が話しかけて不安がらせるのは良くないだろう。
でもおかしい。
てっきり彼女はデートで都心の何処かに向かうのかと思っていた。
それなのに向かっているのは都外の郊外。
しかも俺と同じ方向へ向かっているだなんて、そんな偶然がありえるのだろうか。
デートするかのように気合いを入れた身嗜みで、住んでいる街から二時間以上もかけて地方に向かって電車を乗り継ぐ。
俺と同じことをやっている。
まさか。
いやそんな馬鹿な。
もしそうだとしたら奇跡に近い偶然じゃないか。
ふと、駅で迷っている市川さんの姿を思い出す。
その姿が記憶の中の彼女と重なった。
「ふぅ……」
深く溜息を吐きながら、脳内を空っぽにする。
どうせもうじき分かることなんだから、考えるだけ無駄なこと。
それにもし違った場合、俺は別の女性のことを考えながら彼女に会うことになる。
それだけは絶対にやってはならない。
俺は鋼の意思で市川さんのことを脳内から追い出した。
だが。
「…………マジかよ」
目的の駅。
改札から外に出た俺の目に飛び込んできたのは、俺と同じようにその駅の改札から出て来た市川さんの姿だった。
俺は彼女に見られないようにと反射的に身を隠してしまった。
「マジかぁ」
ここまで来て期待するなと言われたら無茶な話だ。
仮に偶然に偶然が重なっただけの勘違いだったとしても、そのことを説明すれば彼女も俺の不純な感覚を納得してくれるはずだ。というかしてくださいお願いします。
「少し休もう」
ここは郊外の寂れた小さな駅で、駅前にはシャッター街に近いこじんまりとした繁華街がある。その中にチェーン店の喫茶店があったので、時間つぶしでそこに入った。
「市川さんは……あっちに行ったか」
俺の目的地とは真逆の方向。
だが彼女の極度の方向音痴を知った俺にとって、それは彼女と彼女を繋ぐ線が切れたとは言い難い。
カフェオレを注文し、それをちびちびと飲みながら、俺は混乱している思考を落ち着かせる。
まず、俺がここに来た理由を改めて考える。
『大きくなったらまたここで会おう』
この街には親戚の家があり、小学一年生の時に遊びに来たことがある。
どんな話の流れだったのかは覚えてないが、俺は家の近くの神社に遊びに行き、そこで女の子と出会い、再会の約束をした。
高校一年生の夏休みの最初の土曜日の昼の三時。
何故高校一年生なのか。
それは確か高校生になると自由に何でも出来るなんて思い込みがあって、何処にいてもそこに行けるだろうなんて感じていたからだった気がする。
日時と時間は出会った日に近いってのもあるけれど、夏休みなら移動しやすいだろうって理由だった。
幼い頃、たった数日遊んだ相手との口約束。
お互いに名前を告げていなかった。
忘れてしまってもおかしくないその約束を、俺は律儀に覚えていた。
今の自分がどういう気持ちなのかは曖昧だ。
約束の女の子と再会するなんて物語のようなシチュエーションにワクワクしている自分もいる。
ピュアな約束なのに恋人が欲しいから行動しているだけではと下心満載なのが嫌に感じる自分もいる。
もしも相手が好みで無い姿だったとして、相手を傷つけない反応が出来るか不安な自分もいる。
そんな様々な気持ちに揺れに揺れている中で、市川さんがその女の子ではないかという疑惑まで追加された。今日この日、この時間に、デートでもするかのように着飾って、こんな遠くまで一人で移動したとなれば結び付けてしまうのは変なことでは無いだろう。
「うう……緊張で心臓が張り裂けそうだ……」
正直な所、どうせ相手は忘れていて来ないだろうなんてダメ元な気分が九割近かった。だから落ち着いて行動していたし、なんなら少し観光でもして帰るか、的な気分ですらあった。
それなのに、市川さんの行動を知り、彼女が想い出の女の子である可能性が生じてしまったら、一気に色々な感情が押し寄せて来た。
ただ再会の約束をしただけならば、ここまでのことにはならなかっただろう。
『じゃあ再会したらけっこんして!』
彼女との約束は、恋人を遥かに越えた関係だった。
そしてもしも市川さんが彼女だとして、気合いを入れてここまで来て、その約束を果たそうとしているとしたら。
俺はどうしたら良いのだろうか。
超絶美少女に想われる嬉しさ。
再会した直後に『なんだ取手君だったんだ……』なんてがっかりされるかもという不安。
そしてやはり付きまとう、彼女が無関係だったらこの気持ちはどうすれば良いのかという困惑。
感情が爆発してどうにかなてしまいそうだった。
「はぁ~~~~~~~~うし、行くか」
悩んだところで、時間は待ってくれない。
だったらここは男らしく堂々と、なるようになれの精神でぶつかるだけだ。
気持ちをスパっと切り替えて、喫茶店から出て約束の神社へ向かった。
神社の入り口に到着したのは、約束の五分前。
すると正面から市川さんが歩いてきて、入り口で鉢合った。
「え?」
市川さんは心底驚いた表情で俺を見て、警戒心を露わにした。
「まさかついて……!」
そして何かを言おうとして、すぐに口を噤んだ。
俺が逆方向から来たことを思い出したのだろう。
もしも俺が彼女の後をついて移動したのであれば、後ろから来なければおかしい。
つまり俺がここにいるのは偶然か、あるいは市川さんにとってとても大きな意味を持つ理由からか。
彼女の表情から警戒が消え、逆に困惑の色が見て取れるようになった。
その頬は僅かに赤みを差していて、方向音痴で照れていた時の彼女の様子を思い出す。
俺は何も言わず、彼女に笑顔を向けてから一人階段を登り神社の境内に入った。
まるで神様が気を使ってくれたかのように、神社の中には誰もいない。
そしてご神木の下まで辿り着き、記憶の中の風景と照らし合わせながら懐かしさに身を委ねていたら、背後に誰かが立った。
「まさか約束の子が、市川さんだったなんてびっくりだったよ」
俺がそう言って振り返ると、市川さんは相変わらず驚いた表情のままだった。
「それじゃあ、本当に取手君があの時の……?」
「高校一年生の夏休み、最初の土曜日、午後三時」
「!!」
俺達しか知らない約束の日時を口にすると、彼女は口に手を当てて目を見開いた。
そしてその大きな瞳でじっと俺を見つめる。
やがてその瞳が濡れはじめ……ってえ、涙!?
ど、どど、どうすれば良いの!?
困惑する俺とは対照的に、市川さんは驚きから復活して手をゆっくりと降ろす。
そして涙を浮かべながら満面の笑みでこう告げた。
「良かった」
絵になるほどのあまりの美しさに、俺は見惚れることしか出来なかった。
考えていた何もかもが一気に吹き飛び、ただ単に彼女の幸せそうな笑顔に夢中になる。
「どう……して……?」
彼女に魅了されながらも、気付いたら俺は何かを口にしていた。
決して具体的な疑問を抱いたわけではない。
ただ、何かを聞きたかった。
彼女の言葉を受け止めたかった。
恐らくはただそれだけのこと。
彼女はどうやら『良かった』という言葉の意味を尋ねられたと思ったらしい。
というか話の流れ上はそうとしか受け取れない。
「ここに来てくれたから」
確かにそれは良かったことだろう。
俺だって、市川さんが相手でなくても、たとえ好みでない相手であっても、来てくれたら嬉しく思う。
ただ市川さんの『良かった』はそれ以上の意味を孕んでいた。
「来てくれたのが取手君で良かった。約束の相手が取手君で良かった」
「え?」
市川さんもまた、俺と同じ不安を抱いていたに違いない。
もしも約束の相手が好みで無かったらどうしようか。
その不安が杞憂だったと分かり『良かった』のだろう。
それは俺がお眼鏡に適ったということであり心底嬉しいが、同時に疑問も抱く。
これまで俺達は全く接点が無かったのに、どうして俺なら『良かった』のだろうか。
「今日、もしも誰も来なかったら、それか、相手がどうしても好みに合わない人だったら、約束を捨てて新しい恋を始めようって思ってた。その相手は取手君だったら良いなって思ったの。駅で助けてくれたのが嬉しくて……ううん、あの時のことを思い出して」
「そういえば、あの時も市川さんは迷子だったね」
この神社で迷子で泣いていた女の子、それが市川さんだった。
そんな彼女に声をかけ、頑張って泣き止ませようとしたら仲良くなった。
さっき駅で市川さんの姿を見た時に、昔の彼女の面影と重なったように見えたのは今日のこのイベントのことを考えていたからだと思ったけれど、重なるべくして重なったんだな。
「うん、助けてくれたのが嬉しくて、それで好きになったんだよ。昔も、今も」
「そ、そう……」
美少女に成長した市川さんから真っ向から好意をぶつけられ、照れくさくて真っ赤になってしまった。
嬉しくて嬉しくて、今すぐにでも抱きしめたい衝動にかられたけれどぐっと我慢した。
それなのに市川さんったらとんでもない爆弾を落として来た。
「ずっと頑張って来て良かった」
「頑張って来て?」
「うん、取手君と再会する日まで、取手君に好きになってもらえる女の子になるように頑張ったんだ。勉強も運動も美容も、何もかも」
「!?」
つまりなんだ。
彼女の今の美少女っぷりは、そうなるように努力して作ったってことなのか。
俺のことをずっと想って、小学生の頃から、俺に好かれるような人になりたいって努力し続けて来た。
じゃあやっぱり男子に塩対応なのも、一途だったから。
あらゆる異性と距離を置き、ただひたすらに約束を果たすために己を磨き続けた。
美しさも、メリハリがありふくよかな体つきも、かしこさも、真面目さも、男子が好きそうなありとあらゆる属性は、純粋なたった一つの想いに突き動かされて作り上げた至高の逸品。
そんなの……そんなのって……
俺と同じじゃないか!
「市川さん!」
「きゃ!」
我慢なんか出来る筈が無い。
そんなにも一途に思い続けてくれた女の子が、目の前で幸せそうに微笑んでいるんだ。
俺で良かったと、俺が良かったと言ってくれるんだ。
嬉しく愛おしくて、そして何よりも。
「君が欲しい」
「はい」
一度だけきゅっと強く抱き締めると、俺は彼女から少しだけ体を離して、至近距離で見つめ合う。
「約束を果たしたい」
「はい」
それは幼い頃に抱いた淡い想い出。
俺達はそれをずっと大切に育て、そして今ここにより強い想いとして結実した。
「俺と結婚してください」
「はい」
こんなにも一途な俺達ならば、間違いなく幸せになるだろう。
唯一心配なのは彼女が極度の方向音痴ということだけれど、お互いが進む道が同じならば迷うことはないはずだ。
尤も、迷わないようにずっと繋ぎ続けるけどな。
なお、取手君も一途に努力し続けたので超絶スペックです




