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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第90話「影武者」

パピト島西端──

そのわずか八十キロ先に、タワガー島の影が霞む。


その上空で今、空を裂くような激戦が繰り広げられていた。

ローチェ空軍と、シーレイア・レコアイトス連合の航空部隊が、互いの空を奪い合う。


敵陣に果敢に突っ込み、先陣を切るのはシーレイア最強の戦闘機部隊の一翼を担う鉄竜部隊。

その隊長でありエースであるカンラが対空砲火を交わしながら敵機を次々を撃墜していく。


その様子と遠巻きに見つめながら、爆撃機の先頭を飛ぶのはノノレとその相棒ベルギ。


「流石シーレイアのエース、竜王カンラだ。爆撃機の道をしっかりを切り開いてくれてた。」

カンラは敵機を撃墜しながら爆撃部隊の飛行ルートを確保してくれていた。


爆撃のタイミングを見定める砲火と機銃の嵐が吹き荒れる中、白き竜が編隊を引き連れて飛ぶ。


「2時方向、ローチェ戦闘機確認。爆撃隊は目標投下後、すぐに離脱!」

ノノレは息を切らせる間もなく指示を飛ばし続ける。


頭の中で、刻一刻と移り変わる空の状況を計算し、次の行動を即座に決める。

一つの判断ミスが、編隊全体の壊滅につながる。


(テンペスト卿は……いつも、これをやってきたのか)

今、ホニーは別戦域。

初めて彼女不在でこの役を担ったノノレは、その重みと難しさに身をもって気づかされていた。


「……落ち着け、集中しろ」

爆風が鱗を叩く。機銃がかすめる。仲間の機体が、炎に包まれかける。

そのたびにノノレの心臓は跳ね上がるが、視線は逸らさない。


(ここで落ちるわけにはいかない。僕が来た意味、それを果たすまでは──)


ノノレには、もう一つの使命があった。


それは、星渡りの影武者を演じること。


オペレーション・ドラゴンズスカイの最中、テンペスト卿を狙うローチェの奇襲部隊をおびき出す囮となること。

同じく白き竜にまたがり、同じ技量を持つノノレだけが、その役を任された。


レコアイトスを発つ前、ミルキー教の教皇はこう命じた。

――命を懸けて、星渡りを守れ。


(本来なら、僕は星環海横断で落伍した人間だ)

(だけど……テンペスト卿がいたから、僕たちは空に戻れた)


ノノレの心に灯るのは、感謝と誓い、そして誇り。

命を懸ける意味など、とっくに決まっていた。


星渡りの影武者、それは星渡りと同じ技量を持つと認められたことを意味する。

(あの人の囮になる。そんな誉れなことはない)



空戦は終盤を迎えつつあった。

目標への投下を終えた爆撃隊が、次々と旋回し帰投に移る。

ノノレもそれを見届け、仲間とともに東の基地、ホナマ基地へと戻り始めた。


だが、油断はしていない。

(……ここからが本番だ。やつらが来るのは、たぶんこの後だ)


そして予感は、的中する。


滑走路が見え、白き竜が着陸体制に入ろうとした瞬間──


ドォンッ! ドォンッ! ドォォン!


爆発音が次々に響く。

基地の一角に火柱が立ち、次いで複数の爆撃がほぼ同時に起きた。


「……来たか!」


ノノレが反射的に急上昇した。

再び翼を広げ、相棒ベルギと共に空へ。


空には、紅い影が迫っていた。

テンシェン製戦闘機 《スターイーター》その中でも赤でなく紅い機体がある。

──フェン・ウーラン。

テンシェンのエース・紅い死神、数多の撃墜記録を誇っている。



***


ノノレの帰還と同時に、予期された通り──

ローチェ空軍とテンシェンの戦闘機群が襲いかかってきた。

だが、シーレイアも襲撃を予想し基地には鉄竜部隊と並ぶ最強の航空戦力、霊都航空隊が配置されていた。


「いまだ!」


ホナマ基地への襲撃が起きた直後、一機のスピリットが滑走路を蹴って跳ね上がる。

次いで、次々と戦闘機が空へと舞い上がっていく。


最初に空に出たのは、隊長のジャスミン。

 


彼女に下された命令は。


──ノノレ氏帰還のタイミングに合わせて襲来する敵部隊を迎撃し、全滅させよ。


ホニーのいないこの作戦。

星渡りの囮を使うことで、敵の切り札 《紅いスターイーター》を誘い出すという危険な戦略。

ジャスミンは、それを理解していた。


「作戦プラン9、実行」

通信にそう言い放ったとき、部下たちは無言で頷いた。


空には、テンシェンの紅い戦闘機が一機、ノノレへ向けて悠然と滑空していた。



「全機、空中での交戦を許可。目標は敵航空戦力の殲滅。そして……あの紅い死神は、私がやる」


ウーランはすでに、ノノレの白き竜へ照準を合わせていた。


(──間に合って!)


グン、と機体を旋回させて割り込む。

そのタイミングに、霊たちの声が重なるように語りかけてきた。


《奴は時計回りに旋回する》《高度を上げたがっている》《左の射線は空いている》


ジャスミンは霊たちの囁きに導かれ、寸分違わぬ動きでフェンを射線に入れる。


紅い死神。その名を持ちながら、彼は神速でも鉄壁の防御力でもない。

ただ、すべての動きが「読めない」ことが恐れられている。


だが今、ジャスミンは読めている。


「あなたの次の動き、全部見えてる……!」

白竜を追う紅の機体。その背後を、彼女は一瞬の隙を縫って捉えた。


(これで……どうだ!)


急降下から放たれる機銃。

ドッドッドッドッ、ドッドッドッドッ──銃声が空に響きわたった。


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