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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第85話「世界最高の竜使い」

翌朝。

ホニーは偵察任務のため、再び空にいた。


彼女とともに飛ぶのは、レコアイトスのノノレ率いる部隊──そして、ジャスミンの霊都航空隊。

異なる三勢力が、今はひとつの目標のもと、同じ空を翔けている。


ホニーとマートの役目は、先行しての敵地偵察。

ノノレとその相棒ベルギは、その補助として随伴する形だ。


(……これは、ノノレ氏の“復帰戦”なんだろうな)

命令の裏に込められた意図を、ホニーは即座に察していた。


天竜と竜使い──

かつては“空の王”とまで称された存在だが、現代戦ではその価値が問い直されている。

高速度・高機動・低被探知性能。

戦場に求められるすべてを、今の天竜が満たせているわけではない。


(でも、見極めるべきは竜じゃない。乗り手の方──)

敵基地への奇襲爆撃の前段階。

二人は飛行部隊本隊より先行して、偵察を開始する。


(最高速度は……やっぱりマートの方がわずかに速いかな)

並走する白竜ベルギを視界に収めながら、ホニーは感覚的に比較していた。


やがて、目指す敵基地が視界の端に姿を現す。

計画通り、ここからはホニーとノノレは別方向へ散開し、基地を包囲するように索敵を行う。


──だが、その直前。


「上がってきた……!」


敵基地から、十数機の戦闘機が一斉に離陸。

明らかにこちらの接近を察知している。


「プラン03に移行」

ホニーは無線で告げる。


「プラン03、了解」


即座にノノレが応じると、二頭の天竜は左右に鋭く分かれた。


敵戦闘機の火線が乱れ、追撃が始まる。

ホニーはマートと共に、雲を切るように低空へ滑り込み、敵の照準をずらす。


(……港は空、空母の姿もなし。なら──)


格納庫、燃料タンク、補給拠点。

ホニーの眼は冷徹に、効率的な破壊対象を探し続ける。


もはやノノレのことを気にする余裕はなかった。

腕があるなら、生き残る。それが戦場の掟、空の世界だ。


(あの空母に彼を乗せてきたってことは、レコアイトスもそれだけ信じてるってこと)


──ならば、こちらも信じよう。

仲間が“空を取り戻す覚悟”を。


タイミングを見計らい、ホニーは無線を開いた。


「敵艦船なし。目標は燃料庫、北東の補給庫。格納庫は未発見」

続く報告が、すぐに入る。


「こちらノノレ。港湾の北西、森林の陰に隠された格納庫を確認。位置は5キロ先。合流後、先導する」


(ナイス!)

思わずホニーは声にならない声で喜んだ。


だがその瞬間、基地からの対空砲火が激化。

すでに飛行部隊との空戦も始まり、空域は一気に火の海と化した。


だが敵は天竜の存在を察知した瞬間、明らかに対応を変えた。


(!? 爆撃機への砲撃を止めてまで……!)

その怒りと恐怖が入り混じったような砲火は、星渡りに対する異常な執着を物語っていた。


「マート、反転! 砲塔を交わして!」


ホニーはマートの鱗に掌を押しつけ、進路を示す。


間一髪。

複数の機関砲弾が、マートの尾翼をかすめて流れた。


ちらりと横目で空を走る影を見る。

それは白竜──ノノレとベルギだった。


(……狙われてる)

ホニーだけではない。ノノレは“星渡り”と誤認されたのだ。


その身体を、猛烈な弾幕が追い詰めていた。


(……でも、避けてる)

彼の飛び方は、奇跡のように滑らかだった。


わずかな体重移動。呼吸するような回避行動。

マートより速度も旋回性も劣るはずなのに、その回避は──むしろ洗練されていた。


(……巧い)

気づけば、ホニーは見惚れていた。


かつての“世界最高の竜使い”──

星環海横断を試み、志半ばで空を去った男。


飛べなかったブランクなど感じさせず、攻撃できないはずの白竜であるのに、敵を圧倒していた。


今、まさに翼を取り戻し、再び伝説を空に刻み始めた。





敵基地への爆撃は、ホニーとノノレが囮となったことで成功裏に終わった。


「作戦完了、全機帰投せよ」

ホニーは静かに告げ、メディメへ帰還する。


先を飛ぶノノレとベルギ。

その背には、消えかけていた“空の魂”が──再び、輝きを放っている。




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