第81話 「コアガル参戦」
──レコアイトス、正式参戦。
その速報がアクル基地にも届いた。
南部諸島戦線の司令官ヒサモトは、その電報を手に静かにうなずいた。
(ここからが本当の戦いになる……。アクルを起点に、海と空だけでなく、陸でも奪い返す段階へと移る)
覚悟を決めた彼は、本日入港予定の同盟国・コアガル艦隊の受け入れ準備を部下に命じる。
メディメ奪還により、コアガルは一時的に戦火から遠ざかっている。
言わば、シーレイアが間接的に“救った”形となった。
その恩に報いるようにして、コアガルは部隊を派遣してきた──はずだった。
(コアガル海軍は壊滅状態に近い。戦力としては期待できんが……気持ちだけでも受け取ろう)
ヒサモトは現実主義者である。彼はコアガル部隊を後方任務に回すつもりでいた。
やがて──港に、コアガル艦隊の姿が現れた。
だが、様子が……おかしい。
礼砲もなければ信号旗もない。甲板の兵士は動かず、艦橋には幟すら掲げられていなかった。
ヒサモトは眉をひそめる。
(……何かが違う──)
その刹那、海面に銀の閃光が走った。
「砲撃、開始ッ!」
コアガル艦隊旗艦の号令と共に、軍港に停泊していたシーレイア艦の一隻が爆炎に包まれた。
すぐさま、艦砲が火を吹く。砲弾がアクルお港湾施設に次々と着弾し、煙と火の柱が天を貫く。
「伝令ッ! コアガルがシーレイアおよびレコアイトスに対し、宣戦を布告! 正式に敵対を宣言!」
副官が息を切らせながら報せを持ってくる。
ヒサモトは、わずかに眼を細めた。
「……そういうことか」
声は落ち着いていた。だがその目は、明らかな怒りを宿していた。
「コアガル艦隊、撃滅せよ!」
港を焼く砲撃に対し、基地防衛隊が一斉に反撃を開始する。
友軍と思っていた艦を、撃つ虚しさを感じながら──
***
同時刻、コアガル本国・オペーズ軍港。
前線に向かうため補給でたちよったレコアイトスの増援艦隊が、突如空襲を受けた。
――敵襲ではない。
――それは、友軍であるはずの“コアガル”の印がある戦闘機だった。
拘束をまぬがれ生き残ったシーレイア外交官が通信機で、神都アマツへとコアガル国内で出された声明を含めて緊急電を打つ。
コアガル王室の声明:
> 《本日をもって、政府機構を解体。テンシェン国との同盟を締結し、王政へ復古する。
以後、すべての軍は新体制のもとに統一される──》
さらに、現地の諜報網から補足報告:
> 《コアガル国内では王室派と旧政府派による軍事衝突が発生。首都周辺にて内戦勃発の兆候あり》
レコアイトス参戦のその時に──
コアガルの裏切りと同盟切り替え。
シーレイアとレコアイトスが並び立ったその瞬間を狙いすましたような一撃。
テンシェンの策謀がシーレイアを襲う。
レコアイトス参戦で戦況を一気に押し切りたかった南部戦線は――
反撃の狼煙を上げる前に、血と火に包まれかけていた。
誰も気づくことはできなかった。
だが、まるでこの混乱すべてを“視ていた”かのように。
遥か彼方、テンシェン王宮にて、ひとりの天帝が微笑んでいた──
その笑みは、決して無邪気なものではなかった。
「コアガル、なんと愚かで哀れな国。敵としてもシーレイアに同情するな。」
天帝チュウエキはテンシェンの離反工作により、コアガル王室を同盟に引き込むことに成功した。
「チュウエキ様、それだけ我が国の文官は優秀なのですよ。」
宰相のスートウは天帝に告げる。
コアガル、シーレイアの古くからの同盟国。だがそれは、対等ではなく大国からの庇護を受ける存在。
力関係は決まっていた。
そしてなにより、コアガル王室はシーレイアに大きな劣等感を抱いていた。
シーレイアには神の領域に踏み入れたもの、御使い様という象徴が存在している。
コアガル王室がどれほど長く歴史ある王室だったとしても、あくまでも人の営むの域での話である。
だからこそコアガルの王・エトモ十二世に甘言は効果的だった。
天竜から飛行機に時代が移り、シーレイアの国力も落ちた今。
『神の域に踏み入れる方法を教える』これだけで数百年にわたる同盟国を裏切らせるには十分だった。
「本当にどうしようもない男だ。踏み入れたとしても、無事で済む保証はないというに。」
天帝はつまらなそうに語る。
「ええ、だからこそ傀儡としてはいいのです。」
宰相は天帝とは対照的に喜んだ様子で答えた。
最も効果的で致命的なタイミングでの参戦と裏切り。
これこそが他国を懐柔し、静かな侵略を得意とするテンシェンの戦い方。
「シーレイアにレコアイトス、そしてローチェ。テンシェンの覇道の真髄を思い知るといい。」
天帝チュウエキの高笑いが、コーロンの空に響き渡る。




