第80話 閑話「再起」
【星導日報・神都版】
『レシャスの奇跡 テンペスト卿、神がかりの指揮』
昨日、シーレイア政府は、南部諸島奪還作戦の一環として実施されたローチェ軍・レシャス基地への空襲が成功裏に終了したと発表した。
本作戦の現地空中指揮を執ったのは、星渡りことテンペスト卿。
卿はスコールに包まれたレシャス上空を単機で突破し、精密な偵察情報によって主力爆撃隊の効果的な攻撃を実現させた。
これにより、レシャスは壊滅的打撃を受け、ローチェ南部諸島軍の戦力運用に深刻な影響が出た模様である。
さらに、テンペスト卿は空襲後、随伴飛行隊に対し南部・メディメへの転進を指示。これが即時増援となり、苦戦が続いていたメディメ上陸戦を一気に好転させた。
レシャスの混乱とメディメ奪還は、“奇跡の連鎖”と評されている。
テンペストの名を神託により授かってから四年──
“星渡り”の名で知られる現在も、なお彼女は暴風と共に現れ、天を制してみせた。
精霊と風を操り、嵐の空を自在に舞う姿に、兵の多くは畏敬の念を抱くという。
“テンペストの奇跡”──
それは、もはや偶然ではなく、必然とさえ思わせる神業である。
『メディメ空の奇跡の連鎖 鉄竜部隊・霊都航空隊、孤軍奮闘』
政府により成功が発表されたメディメ上陸戦。
上陸作戦において、制空権確保に最も貢献したのが鉄竜部隊と霊都航空隊である。
両部隊は、圧倒的な敵航空戦力を前に果敢に挑み、制空権の確保に成功。戦局を大きく転換させた。
南部戦線は星渡りのテンペスト卿を御印にし、鉄竜部隊と霊都航空隊の両翼として奪いわれた領土を取り戻している。
鉄竜部隊:正式名称はアクル飛行隊。テンペスト卿の故郷アクル島出身者が多く、“竜王”の異名を持つカンラ・シシリタ少佐が率いる。天竜と契約できなかった者たちが、鉄の竜と共に故郷の空を奪還せんと飛ぶ姿から“鉄竜部隊”と呼ばれるようになる。
霊都航空隊:中部諸島の降霊術士のみで構成されている。隊長のジャスミン・シャマン少佐はテンペスト卿と古くからの友人で空を美しく飛ぶ様子から「貴婦人」と呼ばれている。テンペスト卿と縁があり、別名「星渡りの盾」と名乗ることもある。
***
「おや、グラル君が新聞なんて珍しいな」
兵器開発局のナシマ室長が、昼休憩の通路で声をかける。
声をかけられた青年──ホニーの兄グラルは、新聞を畳みながら頷いた。
「……妹や知り合いが載ってたんで、つい目を通したくなりまして」
「テンペスト卿ね。開戦以来、吉報のほとんどが彼女絡みじゃないか。まったく、すごい子だよ」
ナシマは目尻を下げて笑い、グラルの手元に目をやった。
「今、少し早いが例のテスト、もう行けるか?」
「ああ、問題ない。……天竜が空の主役から下りてもう長い。だけど、終わらせる気はないですからね」
グラルの腕には、少し大きな腕時計のようなものがつけられている。
テンシェンが使っていた精霊制御技術を、シーレイアの精霊術体系に転換。
その試みを推進しているのが、ナシマ室長と魔導技工局のヨホミ技師長だった。
そして、その試作兵器のテスターは──グラルだった。
かつて空を制していた天竜たち。
今や空の主役は鉄竜部隊、霊都航空隊を筆頭とした、機械の翼に奪われている。
だが、それでも──
(あいつは、天竜で飛び続けている。たった一人でも、空を渡ってる)
妹が今もなお、誰よりも高く、誰よりも速く、空を駆けていることを。
グラルは誇りと共に、静かに思い描いた。
空は、まだ終わっていない。
いつか、再び天竜の咆哮が、雲を裂く日が来る。
それを信じて、グラルは空を見上げる。




