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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第二章

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第76話「神敵」

シーレイアのレシャス空襲が始まる少し前──ローチェ・レシャス基地。


「昨夜の夜襲阻止は、上出来だったな」

レシャス基地の指揮官ワシャワ中将は、濡れた滑走路を眺めながら悦に浸る。


新規に建設されたレーダーによる早期警戒。

そして、新型兵器 《フェアリーダウン》。

精霊へ干渉し、共鳴魔法への妨害を可能とする兵器。

それらによる基地の防衛機構は、完璧な勝利をもたらした。


「……星渡りを仕留められなかったのは残念だが、あの兵器の有用性を証明できただけでも十分か」


ワシャワ中将は、狂信者が多いローチェ軍の中では異質な存在だった。冷静沈着で、現実的。

そのため、リクリス神への信仰心の薄さを理由に、バルクーイ将軍からの評価は低く、激戦地メディメからも外されている。


「にしても、このスコール……せっかくのレーダーが役に立たん」

彼は不快そうに雨を睨みつける。


「中将、やはりレーダーはノイズだらけで機能していません」

副官が報告に来る。


「……だろうな。だが、何か胸騒ぎがする。フェアリーダウンはすぐに起動できるか?」

「フェアリーダウンは昨夜の起動後の整備中です。試行機なので安定稼働が難しいとのこと。」

副官は申し訳なさそうに答えた。


「試作機を壊すわけにはいかんな。戦闘機は、すぐ上げられるか?」

「はい。警戒網に反応があり次第、即応可能です」

「よし、即時離陸できるよう準備だけ整えておけ」


ワシャワの直感は鋭かった。

「暴風雨、テンペストか……まるで、星渡りの仕業のような予感がする。」

「……はっ、スコールがおさまり次第、即発進の命を伝えます」


その時だった。


「レーダーに感あり! 敵機多数、距離50キロを切っています!」


見張り員の叫びが、作戦室の空気を一変させた。


「なに!?近すぎるぞ。 ……やはり、この胸騒ぎは正しかったか。全戦闘機、発進準備! 総員、警戒態勢だ!」


レシャス基地にサイレンが鳴り響く。

スコールがようやく収まり、ローチェのレーダーがシーレイアの飛行部隊を捉えた瞬間だった。


「敵機50機以上! さらに150キロ別方向より追加反応あり!」


「くそっ、レーダー周辺の防空を厚くしろ! レーダーを死守しろ!」


ドーン!


直後、轟音とともに基地が震える。


「レーダー損傷……反応、消失!」


「なっ……早すぎる。なにより、正確すぎる……まさか」


ワシャワは、ある存在に思い至る。

暴風雨を苦にせず、悠然と偵察し攻撃目標を指示できる存在を。


「……星渡りか」


その後は怒涛のように報告が入る。


──飛行場、空襲。戦闘機、上がれず。

──停泊中の軍艦、大破。

──補給倉庫、炎上。


ワシャワの頭をよぎるのは、ローチェ上層部の想定。


シーレイアはメディメ方面に主力を集中させ、北側のレシャス方面への攻撃は陽動にすぎない──。


だが、それは完全な誤算だった。


シーレイアはリスクを取って、二面作戦に出たのだ。

しかも、より不利と見られた北側に奇跡の化身“星渡り”を配置してきたのだ。


「これが……“神敵”の力か……」


雲の切れ間から、光が差し込む。

その光を背に、白き天竜とその背に乗る少女──星渡り・テンペストが舞い降りてくる。


その神々しい姿に、ワシャワは息を呑んだ。


(盤上の策をすべてひっくり返す。それが“神敵”……)


脳裏に、バルクーイ将軍の言葉が蘇る。


──盤上にいかなる策を講じようとも、盤上ごと覆す。それが“神敵”だ。


夜襲阻止に成功し、防衛体制も強化されていた。

それでもなお、天候という人智を超えた現象が“敵”に味方した。


整えた策は、不条理にひっくり返されたのだ。


神の力がなければ、英雄でなければ抗えぬ存在──。


「……私は、なんと愚かだったのだ……」


ワシャワの膝が崩れ落ちる。

ワシャワは、これまでローチェの他の者たちを見下していた。神にすがらなくては生きていけない存在であると。

自分の力で生きれない軟弱者だと。


だが、ワシャワはこのとき悟ったのだ。人を超える存在を対するには答えは、一つしかなかった。


「偉大なるリクリス神よ……私の考えは誤っておりました。これからの我が人生、そのすべてを捧げることを、今ここに誓います……そして、人ならざる存在。星渡りに、神罰を!」


赤く燃え上がる炎。

その業火に照らされ、一人の“狂信者”が誕生した瞬間であった。



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