表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/121

第74話「いつもの」

夜明けの淡い光の中、空母コタンコロの甲板に、爆撃機部隊が全機無事に帰還した。

全機生還したわずかな誇りと、それを覆い尽くすほどの敗北感を胸に、ホニーは艦橋へ向かう。


「……夜間爆撃に対する徹底した警戒体制、加えて共鳴魔法への妨害の可能性か」

シマ艦長はホニーの報告に、深く黙考を続けた。


高高度からの機雷精密投下による海峡封鎖。

“星渡り”テンペスト卿が先導するこの作戦に、シマは相応の犠牲も覚悟していた。

犠牲を出してでも海峡封鎖は有効との判断した上での決行。


だが、完全なる失敗──それは誰の予想にもなかった。


「申し訳ありません。……奪還作戦の陽動で、このような結果に」

ホニーは深く頭を下げる。完全な敗走だった。


「……ローチェの本気の防衛網を、我々は甘く見ていたようだ」

艦長は帽子を深くかぶり直し、目を伏せたまま呟く。


「敵レーダーは、おそらく150km前からこちらの高度を正確に捉えていました。考えられるのは……」

「探知範囲の拡張か、あるいは探査高度の向上……」

ふたりの会話は、重く沈んでいく。


「それに加え、共鳴魔法への妨害。……おそらく、精霊制御を応用した対テンペスト卿用の干渉技術だろうな」

シマは一呼吸おき続ける。


「もしくは更に大掛かりな兵器の試作を星渡り用に改良したか。」

その言葉に、ホニーははっと目を見開いた。


「私ひとりのために、そこまでの妨害技術を?」

自分が一兵士であるという意識が、言葉に戸惑いを滲ませた。


艦長は、わずかに笑う。


「テンペスト卿。ローチェの認識のほうが正しいのだ。アクル奪還、ジャッカ基地壊滅、コアガル救援──

あなたが動いた場所は、すべて戦局がひっくり返った。もはやあなたは“戦略兵器”に等しい存在だ」


ホニーは、思わず息を飲む。


国に祀り上げられた偶像。

自分はただ、その台座に立たされているだけ。

ずっとそう思っていた。


「……実感がないようだから、はっきり伝えておこう」

艦長は真正面からホニーを見据える。


「《コタンコロ》が沈み、全乗組員が死ぬとしても──テンペスト卿、あなたひとりは死なすな。

それが、私に下されたもう一つの命令だ」


「……空母一隻より、私の命を重く見ている……と」

言葉が、喉につかえる。


「言いたくないが、それが現実だ。……あなたはもうシーレイアの“奇跡”そのもの、南部戦線の御印なんだよ」


言葉は重く、だがそれは現実だった。

思い返せば、他の人からの対応が物語っている。

ホニーは無言のまま、拳を握りしめる。


「さて──夜襲が通じないとなれば、やることは一つだな」

艦長は少しだけ口元を緩めた。


「全戦力をもってのレシャス基地への強行空襲だ」

思わず、ホニーは目を見開いた。


「全戦力?それに再度……レシャス、ですか?」

パピト島北東部のレシャスへの攻撃は本来陽動のため。ホニーはそう理解していた。


「シーレイアは“パピト島を北から攻めない”とは言っていない。

南も北も、同時に総力戦だ」

艦長の声には、静かな熱があった。


「テンペスト卿、徹夜明けで申し訳ないが──もう一度、レシャスまで飛んでくれ」


「偵察任務……ですね?」


「ああ。戦力配置の確認だ。お荷物も守る必要もない、あんた一人の空なら、どんな警戒網でも突破できるだろ」

シマはあえて試すようにホニーに尋ねる。


「問題ありません。」

ホニーは、挑発を買うように即答した。


「流石だ。無線封鎖の必要はない。レシャスへの空襲部隊は、ヒトフタマルマルに到着予定。

テンペスト卿は、ヒトヒトヨンマルまでに偵察を完了し、無線で敵情を伝えてくれ」


「了解であります」

艦長は、ニヤリと笑う。


「じゃあ、いつものように──奇跡を起こしてきてくれ」

その言葉は、まるで朝の買い物に送り出すような気軽さだった。

けれどホニーは、その軽さの奥にある期待と覚悟の重さを、痛いほど理解していた。


だから、ホニーもあえて軽く、そして軽快に答える。


「レシャスに、シーレイアの暴風を吹かせましょう。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ