表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/128

第70話「次の一手」

ラシャ、ナーグル、そして新たに生まれたケイとネマル——

短いながらも、ホニーにとって家族と過ごした休息は何よりの癒しとなった。


命の重み、家族の存在。

それは、彼女の磨耗した心に静かに沁みわたっていた。


「ホニー、いい顔してるじゃねえか」


アクル飛行場に戻ったホニーに、陽気な声がかかる。

鉄竜部隊・隊長カンラだった。


「うん。いいことがあったんだ」


「そりゃ結構。じゃ、俺もひとっ飛びしてくるわ」


ライコウに乗りこみカンラは、そう言って軽く手を挙げると、空へと舞い上がった。



奪還直後の喧騒が嘘のように、アクルは今や戦線の後方に位置している。

《オペレーション・シューティングスター》以降、鉄竜部隊や霊都航空隊の奮戦により前線は西へと押し戻された。


特に両部隊の隊長の活躍は目覚ましい。

鉄竜部隊のカンラは竜王、霊都飛行隊のジャスミンは貴婦人と呼ばれ始めている。

カンラとジャスミン、シーレイアにとっての空のエース、今やシーレイアの両翼となっていた。


だが、エースの活躍も一時の均衡に過ぎない。


「……ヒサモト司令のところに行こう」

ホニーは小さく呟いて歩き出した。


「テンペストか。戻ったか」

司令室に入ると、ヒサモトが顔を上げた。


「ドアを閉めてくれ。それと——座ってくれ」

形式ばった指示に、ホニーは一瞬で察する。


(……これは、長い話だな)

椅子に腰を下ろすと、ヒサモトは口を開いた。


「派手な花火、よくぞぶち上げてくれた。あれで敵の動きが変わった」

彼が指すのは《ファイアーフラワー》の成功。

その影響は、アクル周辺の戦況にも波及していた。


「敵はコアガル東岸から部隊をほぼ撤退させた。代わりに、対潜警戒を徹底してきている。おかげで……」

ヒサモトは地図を指差す。


「コアガルのカバズ港への航路が、ようやく確保できそうだ」

開戦後コアガルとの連携が断たれた今、海路の復活は極めて重要。

特に、レコアイトスとの連携を視野に入れるならなおさらだ。


「潜水艦大規模攻撃がいつ来るか分からん状況ってのは、敵にとっても脅威なんだな」

ヒサモトはニヤリと笑う。


ホニーはふと、コアガル国王の裏切りを思い出す。

テンシェンへの情報漏洩が確実視されたことで、コアガルへの援軍作戦は凍結されたままだ。


「だが——問題はローチェだ」

ヒサモトの声が低くなる。


「ジャッカ基地までは押し戻したが、それ以西には手が出せていない」

ライコウは空戦には強いが、航続距離に限界がある。

スピリットは航続距離は長いが、霊都航空隊は人員自体がもともと多くない。


そのため次の戦線を押し戻すには、さらに西へ基地を設けねばならない。

そのためには——ローチェが今なお掌握する島を奪う必要がある。


「つまり、地上戦は避けられないってことですか」


「そうだ。時間が経てば、敵の守りはどんどん固くなる。基地が整備され、機甲師団が配備されれば奪還は不可能に近くなる」

ヒサモトはそう断じた。


海では優勢でも、島嶼戦では不利。

複雑な地形、限られた航路、守りやすく攻めにくい。


シーレイアは次の一手を決めかねていた。


「ご提案、よろしいでしょうか」

ホニーが言葉を挟むと、ヒサモトは目を細めた。


「こちらも打つ手を探していたところだ。聞こう」

ホニーは一歩、机に近づいた。


「本来なら、重要拠点のある北側からの奪還が常道かと思います。でも……ここはあえて南。コアガル西部と連携のとれる“裏手”からの奇襲はどうでしょう」

ヒサモトの眉がわずかに動く。


「……インスペリ洋か。確かに、あそこなら艦隊も動かしやすい。しかも、潜水艦の出撃も可能になる」


「はい。主戦場の正面突破ではなく、戦線の再構成と広域奇襲で敵の守備を崩せます」

ホニーの言葉に、ヒサモトはしばし黙考した。


そして——


「流石だな、テンペスト卿。……こちらが考えていた有力案を、同じ形で出してきた」

彼は椅子を押しのけて立ち上がる。


「その案がでるかどうかを、知りたかった。君がそれを口にしたことで、迷いが消えたよ」

そういったヒサモトだが表情は少し曇っている。


「ただ我々や上層部、テンペスト卿がその案を有力と上げたというのは手堅くもあり、読みやすくもあるということか。」

ヒサモトは自身に問いかけるような大きさの声でつぶやく。


「失礼。作戦は決まり次第、追って伝える。テンペスト卿には偵察任務についてもらう。詳細は部下に伝えさせる」

そう言って、ヒサモトはホニーより先に司令室を後にした。


地図の上では静かだった戦線が、再び動き出そうとしている。


戦局の打開。

その第一歩が、いま踏み出されようとしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ