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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


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第48話 「本当の英雄」

シーレイアの歴史において、最も血を流し、最も命を救った者たち。

それは天竜と竜使い、正史ではそう語られる。


シーレイアが自国民にすら隠していること。

本当の英雄、それは──記録に残されることのない、降霊術士たちである。


名を伏せられ、力を秘され、戦場の影を翔けてきた者たちが亡国の危機となった今、歴史の表舞台に再び立ちあがる。



***


オペレーション・レイズデッド。

護衛空母に航空機を満載し、更に上陸用の艦艇も多数存在していた。


そして、携わるのはすべて降霊術士。

シーレイアにとっては降霊術士は切り札──ジョーカーだ。


「敵機確認。全機、対空砲火に警戒。御霊と共にあれ」


ジャスミンの落ち着いた声が、無線を通じて部隊に伝わる。


アクルの空に到達したのは、降霊術士専用戦闘機 《スピリット》部隊。

その瞬間、アクルの空に変化が起こった。


スターイーターが上がってくる。


テンシェンが誇る、赤い獣。

しかし、ジャスミンたちには、それがアクルの精霊濃度障害により本調子でないことなど分かる由もない。


ただ──彼女たちは“視えて”いた。

敵の動きは、かつてこの空で散った魂たちの声が耳元に直接響いてくる。


『五時方向に敵影』

『味方被弾。三時より接近』

『十時から対空砲火、警戒を』

『後ろだ、回避しろ!』


生者の無線ではない。

それは、アクルを守るために散った人々、天竜、兵士──無数の霊たちの“囁き”である。


ジャスミンの目には、戦場がまるで網のように可視化されている。

死者の思念と共鳴し、すべての空間が“見える”。


そして、霊たちの感情もまた流れ込んでくる。


怒り。

無念。

恨み。

絶望。


そして──祈り。

「未来を託す」という、静かな願い。


(アクル……)


親友のホニーの顔が思い浮かぶ。

自分の故郷を誇らしげに、ホニーはアクルの話をしていた。


「凄く綺麗でいいところなの。ジャスミン、絶対遊びに来てね」と、少し照れたように笑いながら。


その街が、島が今は瓦礫の下にある。


『……あたしの、大事なものを壊しやがって!』


それがジャスミン自身の声だったのか。

それとも、どこかの霊の叫びだったのか。

判断はつかなかい。


だが、彼女の怒りは部隊全体へと連鎖する。


まるで、空そのものが怒りを抱いたかのように無数のスピリットが、鬼神の如く空を駆ける。


──これが、戦場における降霊術士の本当の力。


死者と響鳴し、彼らの力と知恵を借りる者。

それゆえに、戦えば戦うほど、仲間が死ねば死ぬほど強くなる。

そして、霊を宿した彼らの戦いには終わりがない。



***


研究施設の観測室で、その異様な戦況を見つめる者がいた。


チョウ・テンカ。

テンシェンの誇る天才技術者。


「……なんだ、あの機体は」


テンカは唇を噛んだ。

スターイーターは確かに不調だ。だが、あれほどの差が出るはずがない。

精霊制御を抜きにしても旧型機より性能が大きく上回る。


だが、シーレイアの機体は性能が高いそんな言葉では言い表せない。

あの機体が来てから精霊制御機器数値が異常値を出している。


スピリットは、何かに取り憑かれている──そうとしか思えなかった。


否。

それは“取り憑かれている”のではない。


“共に戦っている”のだ。自分たちの空を、島を奪い返すために。


「……ッ!」


床下から衝撃が突き上げる。

鈍く重い震動。艦砲射撃──タイミングを見計らったように、迎撃網が復旧する前を狙ってきた。

シーレイアが本気でアクルを奪い返しに来たことを悟る。


「まずい……」


もはやアクルに留まることはできない。

そう判断した瞬間、テンカの耳に“聞いたことのない風音”が迫った。


次の瞬間。


ドカァン――!


轟音と共に、研究施設は閃光に包まれた。


咄嗟に身を伏せるテンカ。

視界が白に染まり、全ての音が途切れる。


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