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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


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第46話 「落伍者」

ホニーは高高度から敵艦隊の動きを捉えると、すぐさま無線を切り替える。


「アクル無力化、失敗。敵空母を核とする機動部隊、健在。これより安全距離を保ちつつ偵察を継続する」

報告は、作戦司令部へ即座に送信された。



***


「艦長、テンペスト卿より通信です」


空母コタンコロ──

《オペレーション・ドラゴンロード》の旗艦を務める巨艦の艦橋に、報告が届く。


「アクルの精霊濃度による殲滅は失敗。敵機動部隊が展開中。引き続き偵察中とのことです」

シマ艦長は一瞬だけ目を閉じ、静かに呟いた。


「……やはりか。全艦、戦闘用意。コード7を発令せよ」


館内に赤灯が点滅し、警報が響き渡る。

コード7──それは、敵航空部隊との全面戦闘を意味する最上級警戒態勢だった。



***


その通達を、戦闘機 《ライコウ》のコックピット内で聞く、カンラ。


「初陣には、ちょうどいい相手だな」

笑みを浮かべながら、彼は部下たちにマイク越しに語りかける。


「いいか、お前ら。ここが“俺たち”の空だ。奪われたままでいいのかよ!」


部隊の若者たちが、それぞれの機体で息を呑む。


──新アクル航空部隊。

天竜と契約できなかった者たち。だが風の精霊と共鳴し、戦闘機 《ライコウ》を操る資質を持った者たち。


竜の里に生まれながら、天竜に選ばれなかった落伍者。

その悔しさと誇りを抱いて、カンラは彼らを集め、口説き、鍛え上げた。


人々はまだ知らない。

この部隊が、後に南部戦線の翼、『鉄竜部隊』と呼ばれることになることを──。



***


カンラ率いる《ライコウ》部隊が最初に甲板から飛び立つ。

そして、汎用機 《スパーク》を搭載した各空母からも次々と機体が発艦していく。


艦隊を中心に、数百機の鋼鉄の翼が空へと舞い上がった。


青空が震え、精霊が響きを上げる。

大気を切り裂く術式と魔力が、空を満たしていく。


こうして──


人類史上初の空母機動部隊同士による全面航空戦、

《アクル沖海戦》の幕が、今まさに切って落とされた。


「敵戦闘機部隊発見、テンシェンの戦闘機も確認。新型・旧型の混成部隊だ。」

カンラが無線で隊員達へ告げる。


「テンシェンの機体への単独対応は避けること。」

初陣の者が多い、だからスターイーターへの単独戦闘は禁止──それが事前の取り決めたこと。


『了解』

無線から隊員たちの返事が聞こえる。


空戦を続けながら、カンラは紅い機体を探す。


テンシェンのスターイーターは初めての苦境とあって戸惑いが感じられる。

だが戸惑っているはずなのに、なお動じず空戦を続けている機体。


複数で挑んだ新型機スパークの味方が撃ち落されている。

ほかの赤とは違う紅の機体、ホニーすら落とされると感じる存在。


(あいつだ)


カンラは根拠はないが確信をする。


(あいつが、俺の敵だ)


そう思い悟られぬよう一気に紅い機体の元へ接近し


ドドドッ、ドドドッ、ドドドッ


カンラは紅い機体へ向けて機銃を放つ。

銃弾がスターイーターに届く前、カンラの視界から機体が消えた。


(なっ!? どこだ!?)


カンラは紅い機体がどこに行ったか探す。


(ッ!?)


ふと背後から悪寒を感じ機首を下げながらグンッと急旋回を行う。


パパパ、パパパ、パパパ


さっきまでカンラのいた空に無数の銃弾が襲い掛かっていた。


(これがホニーですら畏怖した天才──フェン・ウーラン)


カンラは自身が震えているのに気付く。


「やって、やろうじゃないか。空を飛べる俺は、誰にも負けねえ。」


-ふと思い浮かんだ昔のこと。

アクルに生まれ、将来優秀な竜使いになると誰からも期待されたカンラ。

だが、カンラが優れた才能があったゆえに、見合う天竜はすでに他の人と契約してしまっていた。


生まれた直後に偶然天竜と契約してしまったホニー。

契約できなかった自分の身として、才能に溢れ、最速の白竜マートと契約した隣人である幼いホニーを見るのが辛かった。

だからカンラは神都アマツへ向かった。天竜なくとも空を飛ぶために。


「いくぞ、ライコウ。俺たちの力、証明するぞ」


カンラが吠えると同時に、ライコウの周りに風の精霊が共鳴し始める。

銃口は再び紅いスターイーターへ。


カンラとウーラン。この後何度も会敵し場所を変え空戦を繰り返すことになる。

二機の死闘は、他の戦闘機戦を圧倒的に凌駕する、まるで別次元の舞踏だった。


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