表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/71

第44話 「アクルの景色」

アクル奪還作戦──

コードネーム《オペレーション・ドラゴンロード》。


中核となるのは、正規空母四隻を擁する航空機動部隊。

その別働部隊として、軽空母を従えた戦艦主体の艦隊が進む。

二部隊の連携により、未曾有の反攻作戦が今、実行に移された。


ホニーとマートは、航空機動部隊の旗艦空母コタンコロに乗船している。


出港から一日後、ホニーは単騎で故郷アクルへ向かう。

超高高度からの先行偵察、敵地に一番早く乗り込む危険な任務である。


アクルの精霊濃度の異常が、上陸した敵を殺せたかどうか、それを確かめることはシーレイアでは彼女しかできない。


空を飛ぶマートの鱗は白ではない。

青の顔料で覆われ、地上から識別されぬよう迷彩が施されていた。


「……マート、ごめんね」

ホニーはマートの首筋に手を添えた。


「白竜であることは、マートの誇りなのに」

「でも、私たちが生きて戻るためには……これが最善なんだ」


ホニーは自分にも言い聞かせるようにマートに語りかけている。


天竜にとって“己の色”とは、ただの装飾ではない。

それは己の特性と誇りの象徴、嘘の色は、誇りを否定する行為に等しい。


だが──マートは何も言わない。

彼の背が、静かに震えるように頷いた。


「取り戻そう。……全部」

その言葉を、ふたりは同時に口にする。


空は高く、沈黙に満ちていた。

かつて交わした冗談も、今は風に流され消える。



***


アクルに近づくにつれ、ホニーの額に冷たい汗が滲む。


(……精霊が、薄い)


圧迫するほどの精霊濃度がここにはなく、普段のアクルの方が濃度は濃い。

近づくほどに、気配は薄れ──

まるで、命の鼓動が消えていくようだ。


(これは……どういう……)


精霊濃度は人が制御などできるはずのない領域。

だが、今この空は静かで、冷たく、異常に整っている。


──テンシェンが、精霊を制御した?


常識では不可能と言われていたこと。

だが、空の精霊濃度が、その可能性を肯定する。


その時、ホニーの考えが眼前に広がる景色により中断される。


アクルの大地が──破壊されていた。


「……っ、なに、これ」


海に浮かぶ美しい島影はもうなかった。

無数のクレーターが穿たれ、集落は跡形もない。

艦砲射撃、空爆……それは“占領”ではなく“荒野化”を意味していた。


生まれ故郷の悲惨な姿に、ホニーは愕然とする。


「……ダメだ。泣いてる場合じゃない」

ホニーは瞼を拭う。マートの鱗に涙が落ちる前に。


任務に戻る。故郷を取り戻すため。敵の残存、精霊制御の程度、それを確認しなければ。



***


高度を落としながら、ホニーは直感で異常を感じ取っている。


タベマカ軍の布陣は、不自然だ。

制御が完全なら、もっと精霊を使った封鎖を行っているはず。

どこか、不安定で、ぎこちない。


(まだ手探りなんだ。完全に制御できてはない)


あと一歩、踏み込めば確信が得られる。

だが、その時──


「……来た」


遠方から接近する、紅の閃光。


フェン・ウーラン。

あの深紅の機体が、真っすぐこちらを目指して飛んでくる。


ホニーとマートは急上昇を開始する。

体が押し潰されるような重力の中、全力で離脱を図る。


(……報告しなきゃ!)


敵軍のアクル部隊が健在なこと、精霊が不完全ながらも制御されていること、

そして──フェンがここにいること。


マートと共に急旋回し、艦隊の方向へ飛びながら──

ホニーの視界に、もう一つの異変が飛び込んでくる。


(あれは──)


北へ向かう巨大な艦影。

インスペリ──タベマカとは別の、強国の空母。


(……向こうも読んでる。シーレイアが、奪還に来ることを)

敵は、奪還作戦そのものを先読みし、空母戦力を迎撃に向け前線に投じ始めていた。


“精霊支配”と“航空母艦”。

新時代の二つの要素が、戦場に並び立つ。


そして──


史上初となる、空母同士による航空部隊の戦いがいま、幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ