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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第二章

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第41話「テンシェンの目的」

テンシェン空軍のエース、フェン・ウーランは、タベマカ前線基地に帰還した。

コックピットから降りるなり、彼は吐き捨てるように言った。


「……心が踊らんな。」

戦果は確かにあった。だが、そこにあったのは歯ごたえのない虚しい空だけだった。


「ウーラン殿! お戻りになられましたか、いやはや流石の戦果で――!」

タベマカ軍前線基地を預かるダダヌ中将が、舌を巻きながらすり寄ってくる。


「テンシェンの新型機――スターイーターの威力は圧巻ですな!」

スターイーター。

それはテンシェンが誇る最新鋭機であり、その名は“星を喰う”という意味を持つ。

星環海の島国――すなわちシーレイアを滅ぼす意志を持つ名だ。


ウーランは軽く顎を引いて応じる。

「タベマカ軍の撃墜が目立つが、損耗率はどうだ?」


「は、旧型機ゆえにいささか……その、致し方なく……」

歯切れ悪く答えるダダヌに、ウーランは無言で背を向ける。


(……ダメだな。旧型機とはいえ練度が低すぎる。これで“戦争準備”済みとは――笑わせる。)

基地内を歩きながら、彼は独り呟く。


「それに比べれば、シーレイアの奴らは質が高い。

 性能の劣る機体と、時代遅れの天竜にしては

 ――よく戦う。まあ……」

彼は肩をすくめて笑う。


「――“星喰い”の前では、何もかもが無力だがな。」



その時、フェンの思考を大きな声が遮る。

「ウーラン大尉! おまえも今戻ったか!」


小柄だが筋肉質で引き締まった身体の男が風を切って現れた。

ローチェ帝国空軍の戦闘機乗り、アルザック少佐だった。


その厚い胸板を震わせて、朗らかに笑う。

「アルザック殿か。アクルはどうだった?」


「おう、最高だったぜ。天竜の“七面鳥撃ち”をしてきたぜ。

 あいつらが空から堕ちていく音、忘れられねぇな。」


ウーランは口角をわずかに引き上げる。


(天竜――覇権を邪魔する不確定要素。空からは消える存在、こいつは本気で思ってる。)


「シーレイアが精霊をこんなに育ててくれてるんだ。感謝して分け合わねぇとな。」

アルザックが口元を歪める。


「タベマカ、インスペリ、テンシェン、ローチェ――四国でこの“豊穣な大地”を切り分ける。いいだろ?」


「……なに訳のわからんことを。」

ウーランは鼻で笑う。


「我々は“ただの志願兵”だったろう? どこの国にも属さぬ、名もなき戦士だ。」


「いけねぇいけねぇ、そうだったなぁ。俺たちは“中立の志願兵”でしかない。」

アルザックも茶化すように豪快に笑う。だがその目に宿る光は、どこまでも冷たかった。


「それにしても、タベマカの練度の低さは深刻だな。

 表立って動けるのがインスペリとタベマカだけじゃ、面倒かもしれん。」

ウーランは、あえてタベマカ軍の中心部でそれを口にする。


「ほんと、酷かったぜ。アクルには足手まといがいなかったから、スカッとやれたがな。」

アルザックは、大声で、基地中に響くように言い放った。


タベマカ軍基地の中、それを咎める者はいない。



***


テンシェン国・首都コーロンの一室。


宰相のもとに届く戦況報告は、どれも予想以上の成果を告げていた。

アクル陥落。

コアガル首都への攻撃成功。

コアガル同盟関係にあったシーレイアの動揺。


「……ここまで順調とはな」


報告書を手にした宰相は、喜びを表に出さぬよう努めていた。

だが顔の端には、ほのかな笑みが浮かんでいる。


「だが、順調すぎるのも困りものだな。タベマカとインスペリを十分に摩耗させられぬ」

独り言の声には、贅沢な悩みというより、先を見通す冷徹さが滲んでいた。


──コアガルは降伏しない。

否、できないのだ。

攻撃を受けたのは沿岸のみ。内陸部は無傷であり、しかもそこには精霊信仰が根強く息づいている。

もしシーレイアへの宣戦布告などすれば、国内の王室と民衆は黙っていまい。


政府と王室、沿岸と内陸。

その分断こそがテンシェンの狙い。


「国として機能不全になってもらえば、それでいい。

 その隙に、我が国はアクルの精霊資源をたっぷりといただこう」


最善の筋書き──いや、理想以上の進行。

宰相は静かに嗤った。


「やはり世界は、天帝様の御心に従うようにできているようだな」


この戦争を裏から操るテンシェンの目的は、ただひとつではない――


――宣戦布告したタベマカ、インスペリ両国をシーレイアへの当て馬にし

――ローチェ軍の技術をテンシェンに引き出すための舞台装置

――戦争参加国全てを疲弊させ

――世界の中心はテンシェン、覇を取るのは我らのみ


(シーレイア? その幻想は砕くためにある。まずは礎になってもらおう。)


宰相の目に、嘲るような光が宿っていた。


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