第3話 閑話「献身の少女」
帰省した翌日、朝起きるとホニーは今日何をしようかなと思い部屋から居間に降りてきた。
「ホニー姉おはよ。」「ホニーおはよー」
マートと弟のナーグルが元気に挨拶をしてきた。
「ナーグル、マートおはよ。朝からなに見てるの?」
ホニーはまだ文字がしっかり読めない幼いナーグルが新聞を見てたので気になって聞いてみた。
「ほら、ホニー姉が載ってるよ」
そう告げられ新聞を見せられた。
【シーレイア日報・朝刊】
「領主を許すな! ― 献身的竜使い少女の不幸 ―」
昨日より、精都にて十年に一度の「鎮魂祭」が開幕した。
過去の英霊と神々に祈りを捧げ、次の十年の平穏を願うこの祭事は、全国からの参拝客でにぎわいを見せている。だが、開催直前までその実施は危ぶまれていた。
例年にない数の台風が南方に居座り、神都アマツからの御使い様の手紙――祭を正式に始める“開祭の書”の到着が絶望視されていたからである。
この危機を救ったのは、一人の少女だった。
竜使いホニー・ドラグーン氏(14歳)。
南部諸島群アクル島出身で、御使い様直属飛行部隊に所属の最年少竜使いである。
彼女は相棒である“最速の竜”マートと共に、暴風域を単独で飛行し、開祭の手紙を届けた。
関係者によれば、ホニー氏は命令違反を承知の上で、単独出撃を自ら申し出たという。
手紙の遅延は祭の中止に繋がる。
だが、規定では最重要文書輸送の単独飛行は禁止されており、違反者には最大で禁固5年の処罰が科される。
通常であれば、複数の精霊術士か飛行船等を用いた護送体制が取られるところ、今回は時間の猶予がなかった。
ホニー氏とマート氏のみが、嵐を突破できる力量を持っていたのである。
本紙記者が祭の初日、参道にてホニー氏と短く言葉を交わす機会を得た。
「このお祭りを無事に迎えられて、本当に嬉しいです。……でも、やっぱり、五年はちょっと、長いかな」
それは、笑顔の奥に滲む覚悟と、少しだけの寂しさだった。
現在、審議会にて彼女への処罰をめぐる議論が続いている。
命令違反は明確であり、例外を認めるには領主による特例申請が必要。
だが、過去30年で同様の特例申請が受理されたのは、わずか1件のみ(全8件中)である。
命令違反か、英雄的行動か。
社会は今、この若き竜使いにどう向き合うのかが問われている。
本紙では本日より、ホニー・ドラグーン氏への処罰免除と勲章授与を求める署名活動を開始する。
この国が、彼女のような存在に応えるだけの“誇り”を持てる国であることを、我々は願ってやまない。
【プロフィール】
ホニー・ドラグーン氏(14)
南部諸島群 竜の里アクル島 出身。
“最速の竜”マートと契約。
若干12歳の若さで御使い様直属の飛行部隊に任命され、国内各地に手紙と祈りを届ける“風の便り”として活動中。
「ホニー姉凄い!!」
ナーグルは良く分からないが凄いことをしたと思い、目を輝かせてホニーを見つめている。
その様子と対照的にホニーは眉をひそめながら、ナーグルから渡された新聞をにらんでいた。
「マート……これ読んだ?」
「うん。僕はルルザさんに会う前に見たよ。だから“正装で真面目な雰囲気出すのやめな”って言ったのに」
「なんで教えてくれなかったの!?」
「どうせ聞かなかったじゃん。ノリ悪いって言ってたし」
「あーもう! “献身的で自己犠牲も厭わない少女”って、私そんなキャラじゃないんだけど!」
マートは新聞を眺めながら、ふっと笑う。
「身から出た錆、だね。まあ、これでちょっとは懲りてくれればいいんだけど……」