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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第二章

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第33話「アーミム国際ホテル」

「マート、いっけーーー!!」

ホニーの絶叫とともに、白き天竜マートが空を裂くように加速した。


目的地は、精都アーミム。

今日は外遊でも配達でもない、純粋な休暇――しかも家族旅行。

ホニーもマートも、久々の解放感にテンションが振り切れていた。


「もっといけるでしょ、マート!」


「いけるけど……これ、規定速度超えるよ?」


「今日は任務じゃないもん! 大丈夫!」

マートは彼女の表情と言い方で、すべてを察した。

(あー……最近のストレス、この飛行で全部吹き飛ばすつもりなんだな)


「でも、御使い様の手紙預かってるよ?」


「ルルザさん宛だし、私的って言ってたから大丈夫!」


「“ルルザさん宛だし”が理由になるの?」

若干あきれ気味に、ホニーに尋ねた。


「なんか言われたら、領主への至急の手紙ってことにしてもらう。それくらいはルルザ叔父様ならなんとかしてくれるでしょ。」

ホニーは昔からよくしている、困ったときの領主ルルザに責任の押し付けをしようとしてた。


「でもそれっていつも最後はシサーおばさんに叱られるやつだよね。」

マートは小さくため息をついたあと、冗談めかして言った。


「……じゃあ罰はホニーだけってことで、飛ぶよー!」

風の軌跡を引きながら、白き竜はさらに加速した。


「えっ?私一人だけでお母さんにしかられるの!? ちょっとマート!?」

ホニーの抗議は聞こえないフリをしてマートは風と一体と化した。



***


暴走の結果、予定より三時間以上早く精都に到着したホニーとマートは、そのまま領主館へ向かう。

仕事ではないことをいいことに、今回は玄関から訪ねることをやめた。


「マート、今日はバルコニーから突入するよ!」

ホニーは幼少時代によくしていた方法で訪ねることを決める。


「え!? まあ久しぶりだし、たまにはいいかもね。」

普段は諫めるはずのマートも今日は温泉旅行ということでテンションが上がっており、ホニーのいたずらに乗ることにした。


不法侵入とも言える入り方をしたホニー達。

ルルザの執務室まで誰にもばれないように向かう。


領主館の人間は久々にバルコニーからの侵入者が現れたことに驚いていたが、誰一人として領主ルルザへ報告はしなかった。


(ホニーちゃん、今日私的で来るって言ってたからバルコニーから来たのか。)

領主館の人間からはそう思われていた。


ホニーは精霊たちの気配を読み、執務室の中に来客がいないことを確認してから……

コンコンッっとノックをし返事が来る前に。


「たのもー」

勢いよく扉を開けた。


「おい、早すぎだろお前ら。」

少し驚きつつもルルザから開口一番、ツッコミが飛ぶ。


「連絡ないってことはバルコニーから入ってきたのか。最近は落ち着いたと思ってたが、クソガキなのは変わらずだな」

ルルザは悪態を尽きながらも快く、ホニーを迎え入れる。


「こんにちは、ルルザさん。これ、御使い様から預かったお手紙です!」


「はいはい、受け取った。」

ルルザもいつもの“領主らしさ”はどこへやら、気の抜けた返事を返す。


「そういや、もうラシャとナーグルは来てたぞ。早く行ってやれよ。」


「えっ、ほんと!? ありがとー! またね!」

ホニーとマートは手を振ると、勢いよく部屋を飛び出していった。

残されたルルザは、呆れ笑いを浮かべて天井を見上げる。


「……あれで本当に外交官やれてんのかね。オオクラさんは“右腕にしたい”とか言ってたけどよ。」

そう呟いたあと、ふと手元の封筒に目をやる。


「まあ、急ぎじゃないけど――一応、手紙も見とくか。」



***


アーミムの高級温泉ホテル。案内されたスイートルームのドアを開けた瞬間、ホニーの胸に小さな弾丸が突撃してきた。


「ホニー姉、久しぶり!!」


「ぐふっ……ひ、ひさしぶり、ナーグル……!」

あまりの勢いに息が詰まったが、可愛い弟を怒る気にはなれない。


「マートも久しぶり!」


「うん、ナーグルも元気そうでなによりだ。」

ナーグルの洗礼を避けたマートは余裕の表情で応じる。

部屋に入り直すと、ラシャが穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「ホニー、マート。久しぶり。」


「ラシャ姉! 体調は? 無理してない?」


「大丈夫よ。今は安定期に入ってるから、落ち着いてるわ。」

再会の余韻に浸る間もなく、早速ナーグルが何やらごそごそと抱えて戻ってくる。


「ホニー姉、これ見て!」

胸を張って見せてきたのは、新聞の切り抜きがびっしり詰まったファイルだった。


「……え、全部、私?」


「うん! 島のみんなやグラル兄にも手伝ってもらって、いろんな新聞集めたんだ!」

ナーグルは満面の笑みを浮かべているが、ホニーにとっては絶望でしかない。


「ホニー、ごめん……私、止められなかった。」

ラシャが小声で耳元に囁きつつも、ホニーの照れる顔を楽し気に見ている。


「うう、これは夢であってほしい……」

虚しさと恥ずかしさの入り混じった中、時は過ぎていく。


ナーグルはすでに布団の中に入り夢の世界へ。

ホニーとラシャも、並んで布団に横たわっていた。


「そういえば、母さんたちは明日来るんだっけ?」


「うん、明日の朝アクルを出て、お昼には着くって。」


「そっか。……明日からが本番だね。おやすみ、ラシャ姉。」


「おやすみ、ホニー。」


懐かしい言葉が、柔らかな夜に溶けていく。

ホニーは静かに目を閉じ、家族の温もりを感じながら、深い眠りへと落ちていった。


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