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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


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第1部幕間③「相容れぬ存在」

『星渡り外交、始動』


新年度の人事異動に伴い、御使い様直轄部隊から外交局に転籍となり特命外交官に任命されたホニー・テンペスト・ドラグーン氏。星渡りの称号を持つ彼女は、レコアイトスでの留学を終えた直後から、各国への外遊に出発した。


これまでテンペスト氏は、コアガルやレコアイトスといった海洋多神教国家に対して象徴的な外交活動を担ってきたが、今回からはリクリス教の大陸国家への公式訪問も開始される。


政府関係者は「テンペスト氏の偉業は、宗教・文化を越えて国際的に評価されている。留学によって培われた経験により、外交能力にも問題はない」と説明している。


一方で、国内では「年若き英雄に頼り切った一本足外交ではないか」と政府方針を批判する声も上がっている。


今回の外遊では、現在敵対的な関係にありつつあるテンシェンをはじめ、その属国タベマカ、さらに中立国のインスペリを訪問する予定だ。


―特命外交官。特命外交官は危機管理局長の権限を緊急の場合に限り使用できる。そのため、特命外交官の任命には外交局長と危機管理局長の双方の署名が必要となる。


****


『タベマカ、テンペスト氏との会談を格下対応』


テンペスト特命外交官が訪問したタベマカ国で、当初予定されていた大臣級との会談が直前にキャンセルされたことが判明した。


外交筋によれば、タベマカ政府は“都合”を理由に会談を拒否し、急遽、一担当官のみを代理として派遣したという。シーレイア外交局はこの対応に対し、正式に遺憾の意を表明した。


また、テンペスト氏の訪問に合わせて準備されていた記念式典や民間交流は中止となった。タベマカは南部諸島群と国境を接しており、同国内ではテンペスト氏の名は天竜スピードレースの実績から広く知られている。


式典への参加を楽しみにしていた市民の一部からは、「政治に振り回された」「星渡りのスピードレースが見たかった」と落胆の声も聞かれた。



***


『星渡り外交、インスペリでは穏やかに幕引き』


テンペスト特命外交官の初外遊の最終訪問地となったインスペリでは、終始穏やかな雰囲気の中で公式会談が行われた。


会談後には副首相主催の歓迎晩餐会が催され、テンペスト氏はインスペリ名物であるスパイス料理を笑顔で堪能。「風味がとても好みで、特にこの豆の煮込みが最高でした」と語った。


これに対し、副首相は「テンペスト氏に郷土料理を気に入ってもらえて光栄です。ぜひシーレイアで広め、我が国のスパイスをたくさん買ってもらえれば」と冗談交じりに語った。


テンペスト氏は予定どおりインスペリで外遊を終え、明日、神都へ帰国予定。



***


ホニーの外交記事が、分厚い報告資料とともに机の上に並べられていた。


「……で、実際のところはどうなっているのです?」

レコアイトスのミルキー教教皇が、フジワラに目を向けて問う。


フジワラは、一枚の写真を手に取り、真剣な表情で見つめていた。そこにはホニーとインスペリ副首相が笑顔で握手を交わす姿が写っている。


「タベマカは完全に“黒”ですね。インスペリも……表面上は穏やかですが、内実はかなり怪しいです。リクリス教が内部工作でかなり動いているとのこと。」


フジワラの指先が、インスペリ副首相の顔の上で止まる。


リクリス教。唯一神リクリスを掲げる大陸を統一した宗教。

インスペリもリクリス教が国教で長い歴史をもつが、近年他宗教を許容しない原理主義勢力が力をつけているという情報が入っていた。


「本来なら、テンシェン北のローチェ帝国にも訪問させたかったんですが……一蹴されました。」


彼は両手を挙げ、冗談めかして肩をすくめる。

最も過激なリクリス教の原理主義が存在するローチェ帝国。そこへのホニーの訪問も考えていたとフジワラは伝える。


「さすがに、四国まとめて敵に回すのは無茶ですかね。」

その軽口に、教皇は一瞬目を細める。


「外交とは、“できます”と口にする場ですぞ。」

その声には、柔らかな抑揚の中に鋼のような芯が感じ取れる。


「北部列島から南部諸島まで、全戦線を同時に維持するのはいくら海洋大国シーレイアでも困難です。」

フジワラは、笑みを保ったまま、しかし目だけは笑っていない。


「では、敗北の可能性もあると?」


「いいえ――」

フジワラは資料を閉じ、教皇の目をまっすぐに見返した。


「“持ち堪える”ことはできます。それは間違いありません。」

静かに、けれど確信をもって、彼は言った。



***


神話・星渡りの名を背負い、空を渡るホニーの存在は、もはや一人の少女ではない。

国境を越え、宗教を越え、戦争と平和の境界線までも揺るがせている。


その背後では、静かに――しかし確実に、


世界史上初となる、大国同士の海を隔てた総力戦の幕が、音もなく上がり始めようとする。

交易と多様な価値観を元に繁栄してきた多神教海洋国家、その盟主とも言えるシーレイア。


唯一神リクリスを崇め、自身の考えを絶対とし、侵略と隷属を元に作られた大陸国家。

必然的に衝突は避けられない、決して相容れぬ二つの存在。


それぞれの国が己の正義を信じて動き出す。

明日から第2部開始です。投稿時間を20:10に変更します。よろしくお願いいたします。

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