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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


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第22話 「最終確認」

フジワラ局長との顔合わせを終えたあとの数日、ホニーとマートはほとんどの時間を星環海横断の準備に費やしていた。

現実が動き出すのは早い。自分たちの意志とは関係なく――でも、確かに自分たちが選んだ道だった。


***


ある日は、シーレイア海軍・空軍の参謀たちとともに図上演習を行い、ルートと気象、想定エスケープラインの確認。

魔力消費を計算し、補正式を引き直し、紙の上での飛行は想像以上に神経をすり減らした。

(私の考えはまだまだ穴が目立つ)


別の日には、長時間飛行確認を行った。

丸一日、24時間という長時間飛行。

魔力が尽きても問題なく飛べるか、体力が尽きないかを、あえて気象条件の悪いときに実施した。

(やっぱり16時間で魔力が尽きる。でもそのあとも問題なく飛べた)


またある日は、メディアの取材。

光を浴び、笑顔を向け、用意された言葉を話す。

ホニーは「テンペスト卿」として完璧に振る舞っていた。

それはどこか、仮面を被り舞台に立つような感覚である。

(新聞の一面に載るみたい。ナーグル見てくれるといいな)


別の日には、レコアイトス大使館へと招かれる。

「神話への挑戦に敬意を」

そう言って贈られたのは、レコアイトス沿岸気象の詳細データと、古くから使われてきた星図。

そして5年前、レコアイトスの人間が星環海横断に挑み敗れた者からの助言もあった。

見送りの握手の手は固く、彼らがこれを“外交の始まり”と見ていることをホニーは悟る。

(レコアイトスの人、内心は同情してた。国に担がされた可哀そうな少女と思われてた。)


神都を歩けば、知らない人々が声をかけてくるようになる。

「頑張ってください、テンペスト卿!」「新たなる神話を!」

(今日なんかどこ歩いても声かけらるな)


ホニーと仲のいい人からは心配する声も多い。

「先輩、危険です。せめて交代で同行者をつけて下さい。」

「おい、勇気と無謀を取り違えてはいないよな。」


だが心配の声も最後は、ホニーの身を心配しつつも応援してくれた。

「なら絶対成功してくださいね。失敗したらダメですかね!許さないです。」

「死ぬ気で頑張れよ。だが、死ぬんじゃないぞ。」

(ハレもカンラさんも心配しすぎだよ。)


そのたびに、ホニーの心に何かが積る。

重さか、温かさか――まだ自分でもうまく言葉にできない。



***


「マート……星環海横断って、本当に“神話級”のことだったんだね。」

夕暮れの空を見上げながら、ホニーがぽつりとつぶやく。


「だね。まさかここまで広まるとは思ってなかったよ。」

マートも苦笑気味に返す。


「でもさ、これって……ゴールじゃなくて、始まりなんだよね。」

ホニーは自分に言い聞かせるように言った。

神話という偉業を達成する。ホニーにとってはこれでようやく胸を張って"テンペスト”と名乗れる始まりと考えていた。


「うん。明日、最終確認。天候がよければ……明後日、出発だね。」


いよいよだ、と二人は黙って空を見上げる。

夕焼けの向こうに、見えない海が広がっていた。



***

出発前日/最終ブリーフィング


神都シーレイア軍参謀本部の一室。

空軍、海軍、レコアイトス大使館関係者、技術顧問――多くの視線が、ひとりの少女に注がれている。


ホニーは一歩前に出て、深々と頭を下げた。


「このたびの挑戦にあたり、皆さまからの多大なご支援に、心より感謝申し上げます。」


言葉は丁寧に、けれど語調には迷いがなかった。

ホニーは黒板に記された飛行計画を自ら説明していく。


出発は明朝、神都アマツ飛行場


飛行時間はおよそ20時間前後を見込み


ルートは最短距離を優先、補給・着陸なしの単独飛行


魔力消費のボトルネックは16時間以降、これを超える持続飛行の実績は数回あり


トラブル時にはシーレイア海軍およびレコアイトス沿岸警備艇が、想定経路沿いに待機予定


レコアイトス側では複数の着陸候補地を用意済み



ホニーは堂々と、しかし静かな口調で話しきった。

部屋には沈黙が流れる。

だがすぐに、それは小さな拍手の連鎖に変わっていく。


最初はひとり、またひとり。

やがて、部屋全体が拍手の音に包まれた。


ホニーはもう一度、静かに頭を下げる。


「ありがとうございます。――明日、私は神話に挑みます。」


その言葉に、誰もが返す言葉を持たない。

皆は神話へ挑む少女を静かに見守っていた。


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