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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹


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第20話「無茶と無理」

コアガル首都オペーズでは到着後早々に現地の外交官に親書を渡した。


休んでから出発するよう言われたが、ホニー達は星環海横断の前哨戦とばかりに神都アマツへ向かった。


そして、神都アマツに早々に帰還したホニーはマートと共に御使い様の元を訪れる。

その足取りは軽くはなかったが、顔には覚悟が浮かんでいた。


「どうぞ。」


御使い様の声はいつも通り穏やかだった。

だが、その気配にはどこか申し訳なさのような色が混じっている。

仮面の奥にある本心は読めない。それでも、ホニーにはわかった。


だからこそ、彼女はまっすぐに言う。


「ホニー・テンペスト・ドラグーン、及びマート・テンペスト。

星環海単独横断飛行、謹んでお受けします。」

その声音には、これまでの彼女にはなかった硬さと澄みきった意思が宿っていた。


御使い様はしばし黙り、やがて静かに問い返す。


「……どのように伝令を受け取ったかは聞きません。ただ、まず伝えておきたいのは――これは“命令”ではありません。」


その声音は、普段の敬語の中に、ほんの少しの“人”の感情が滲んでいた。


「無理をして国のため命を賭ける必要はない。

あなたたちは、まだ――若い。」


ホニーは俯き、拳を握りしめる。そして、決意とともに顔を上げた。


「……これから戦争になりますよね、きっと。」


御使い様は、それに対し言葉ではなく沈黙で応じた。

だが、その沈黙は、否定ではない。


「その時、私は“お飾り”のままでいたくない。

ただ掲げられるだけの名前じゃなくて、ちゃんと自分の意思で選びたいんです。例えそれが地獄への道だとしても。」

彼女の言葉に、マートも無言でうなずく。


「そのためにまず、あの偉業をなします。……神話みたいな、でも現実の――空を飛ぶ偉業を。」


御使い様はホニーの様子を見て深く息をつく。

そして、ホニーはこれまでとは違う、重く凛とした声で宣言した。


「私を担ぐ方が誰かは存じませんが、私は覚悟を決めたをお伝えください。」


ホニーがあえて自分を担ごうとする人物への伝言を御使い様に告げる。


「ホニーの覚悟分かりました。ですが星環海の横断は……神話の中でさえ、失敗と死に満ちています。それでも“できる”と、あなたたちは言えますか?」


いつもの柔和な語り口ではない。

御使い様が、国を背負う者としての威圧を持って投げかける、真剣な問いだ。


ホニーは一瞬だけ視線を泳がせ、だがすぐに真っ直ぐ前を見た。


「はい。これまで何度も、レコアイトスへの飛行は経験しています。海上補給ありのルートですが、距離も気流も把握しています。」


「加えて、南部にいた頃、私はマートと……何時間も、ただ飛び続けてみたことがあります。それこそ星環海横断の距離以上も。

“どこまで行けるか”、って。無茶だったけど、あの経験が今も背中を押してくれてるんです。」


ホニーは息を大きく吸い、声に力を入れる。


「無茶ではありますが、無理では決してありません。」


御使い様が初めて聞く内容。わずかに目を見開き、マートに視線を向けた。


「……それは本当ですか?」


「はい。長距離の連続飛行なら、僕たちには確かな感覚があります。」


マートもしっかりと御使い様を見つめて応える。

沈黙ののち、御使い様は静かに立ち上がった。


「島伝いの飛行と、果ての見えない海の横断とでは、意味が違う。それでも……可能だと?」


マートとホニーは、わずかに視線を交わしてから、そろって答えた。


『――はい、可能です。』


御使い様はしばし黙し、やがて椅子に腰を落とす。

その仕草には、決断の重みが宿していた。


「分かりました。星環海単独横断飛行、正式に準備に入るよう手配をします。

必要な支援は各所に要請してください。」


御使い様の言葉が、正式な“命令”として下された瞬間だった。


『了解しました。』


ホニーとマートは、まっすぐ頭を下げた。


その時だった。

御使い様の声色がふっと柔らかくなる。


「……そして、これは私からの“私的命令”です。」


ホニーとマートが顔を上げる。


「成功してもしなくてもいい。

――必ず、命は置いていかないで。

どんな結果でもいい。必ず生きて帰ってきてくださいね。」


その言葉に、ホニーは少しだけ泣きそうになりながら、マートと共に笑って応えた。


『はい、元気で帰ってきます。……絶対に。』



閑話1話挟みます。閑話は本日23時10分投稿予定です。

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