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第14話「降霊術士」

「ホニー、マート――頼みましたよ」

御使い様は静かに告げた。


「承知しました。中部諸島群・霊都カラバロンへの親書配達、その後コアガル国への転送任務も含めて」

ホニーとマートは礼を取ると、柔らかな衣擦れの音を残して部屋を後にした。


残された御使い様は、しばし沈黙する。


「……あの二人を政治の道具に使うのは、本意ではないのですがね」

ぽつりと漏れた独白。

その声に、天井の影が反応した。


「でも、本意じゃなくても、使うしかない状況ってあるっすよね」

溶けた闇から這い出るように、ひとりの少女が姿を現す。

黒ずくめの装束。面影を隠す仮面。そして、その声には親しみと軽薄さが同居していた。


「カラス。ようやく帰還しましたか」


「ただいまっす御使い様ちゃん。テンシェンから無事帰ってきた部下、そしてお友達に、もっと優しい言葉はないんすか?」


御使い様の前に親しげに平然と立つ女――御使い様直属の密偵コードネーム《カラス》。

降霊術を使いこなし、死者と精霊から密かに情報を引き出す諜報員、連邦国の最奥の影。


「いつも無理なお願いに応えてくれて感謝してます。シーレイアがあるのはあなたのおかげですよ。カラス。」

御使い様は真剣な様子でカラスに感謝を伝える。


「あー、なんかここまで率直に言われるとカラスちゃんは照れますね。本当のことだけに。」

カラスは仮面を外しながら表情ををクルクルを変化させ、御使い様に報告書を渡す。


「情報、確認しました。紅い戦闘機、確かに想定以上ですね」

報告書を見つめながら声が重くなる。


「技術的な詳細までは分からなかったっす。あれは、“精霊”の意思を無視して強制している可能性が高いような気がしたっすね。」

御使い様の表情がわずかに動く。


「精霊を……“強制”ですか」


「あるいは“操ってる”可能性すらありました。どっちにしろ、共鳴なんて代物じゃない。精霊支配といえるかもしれないっす。」


「なるほど、あなたの術とは相性が最悪というわけですね」


「流石御使いっち、その通り。降霊術は“精霊や霊の声”と“死者の記憶”が資本ですから。精霊たちが口を聞いてくれないと……情報は取れないっす。」

そして、ニコッと御使い様に笑顔を向ける。


「――でも、死者とはたくさんおしゃべりできたっすよ。最新ではないけど、大事な情報は拾えたっす。死人って案外、退屈してておしゃべりなんすよね」

御使い様の目が細まる。


「……降霊術士は、我が国の“裏の顔”です。“死者との対話”など、知られてはなりません」


「死人に口なし。むしろ、カラスちゃん的には“死人にこそ口あり”っすからね」

カラスは御使い様にVサインをする。


「死者との会話。微精霊からの囁き。神を一時的に自身に降ろす“神降ろし”――普通の術者には、できない芸当です、カラス」

カラスのふざけた様子とは正反対の様子の御使い様。


「だからこそ、あなたをここに呼び戻したのです。《カラス》――我が影として、まだ飛んでもらわなければ」

御使い様の声に、少女は道化のフリをする。


「了解です。“御使いちゃん”」



***


テンシェン国・首都コンロン。

天帝宮の奥にある、重厚な石造りの密室。


「フェン・ウーラン。テンペストをどう見た」

スートウ宰相の問いに、フェンは姿勢を崩さず答えた。


「もし機銃の使用許可があれば――先日は撃墜できました」

ウーランは自信ありげに告げる。


「それは分かっておる。戦場での話をしている」

睨むような視線が走る。


「……観測、偵察任務であれば、難しいでしょう。こちらの接近を早い段階で察知していました」

ウーランは苦虫を嚙み潰したように喋る。


「やはりか。あれは“先導”だったからこそ射程に入ったか」


「ええ。機体の挙動を把握されていた。私の威嚇行動にも即座に反応がありました」

宰相は机に肘をつき、深く顔を伏せる。


「……スパイの件も含め、シーレイアは舐めてかかれん。テンペストにせよ、消えた密偵にせよ、質が高すぎる」


「ですが、閣下。質は高くとも――“数”が足りなければ、意味はありません」

フェンの口元がわずかに歪む。


「戦争は、“数”で勝ちます。我々には“数”がある」


宰相は沈黙したまま、机の上にある地図を見つめ続けていた。

その視線の先には、シーレイア連邦国の海上航路が赤く引かれていた。

本日はあと1話投稿予定です。次の5話は21時30分です。

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