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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第一章

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第12話「ライコウ」

「ホニー、テンシェンの紅い機体……どう思った?」

任務を終え、シーレイアに帰還して竜舎へ戻った二人。マートの問いかけに、ホニーは少し口をつぐむ。


「報告書にも書いたけど……あの機体から、なんて言うか、精霊の……嗚咽みたいな流れを感じたよ」

小さな声が、竜舎の静けさに吸い込まれる。


「僕も、嫌な気配は確かにあった。でも……普通の精霊の気配じゃなかった。何かが、ねじ曲がってた」

マートの声にも重さがにじむ。


「天竜のマートでも分からないって……怖いよね」

ホニーの声が震え、竜舎の空気が一層重くなる。


「それに、あの“フェン”ってパイロットの腕……本当にすごかった」

ぽつりとこぼすと、マートが静かにうなずく。


「マートに乗ってて、あそこまで肉薄されたのは初めてだった。重武装の戦闘機に、だよ」


「機銃を撃たれたら……私たち、きっと逃げ切れなかった」

ホニーは静かに目を伏せる。ほんの一瞬、あの場面を思い出す。


――着陸後、握手を交わす瞬間彼は小さく、耳元で囁いた。


『飛行技術は流石だが……機銃がなくて、よかったな』

その瞬間、全身から血の気が引いた。笑っていたのに、空気だけが凍りついていた。


「落とされるってことは、死ぬってことなんだね……」

無邪気に飛んできたこれまでとは違う、当たり前の現実が、今さら胸に刺さる。


「おーい、ここにいたか」

二人の思い空気を察したからか、陽気に振る舞いながらカンラが姿を見せた。


「帰国後すぐで明日も任務なのに申し訳ないが、少しだけでいい。テスト飛行に付き合ってくれ」

カンラはホニー達にテスト飛行の打診をしてくるように室長から言われたようだ。

ホニーは顔を上げ、前置きもなくカンラに問いかけた。


「カンラは、落とされるの……怖くないの?」

カンラはいつもと違うホニー達の様子から何かあったと推測する。

少し空を見上げ、笑みを浮かべる。


「怖いさ。堕ちれば死ぬ。でもな……天竜と契約できなかった俺からすりゃ、空を飛べない方が、よっぽど“死んでる”」

言葉のあと、ほんの短い沈黙。


「飛行機だろうとなんだろうと……俺は堕ちるまで、飛ぶさ」

多くのものが天竜と契約し竜使いとなるアクル、そこで天竜と契約できなかったカンラ。

だからこそ、その言葉の重みをホニーは感じた。


「……うん。私も……飛べなくなる方が怖いや」

ホニーは、少しだけ顔に生気が戻った。



***


ホニー、マート、そしてカンラの三人は、どこか吹っ切れた様子で飛行場に現れた。


「ホニー君、マート君。忙しい中ありがとう。今日の試験飛行は――局地戦闘機 《ライコウ》だ」

ナシマ室長が迎える。ホニーが不思議そうに尋ねる。


「あれ? 《スパーク》とは違うんですか?」


「《ライコウ》は、もうほぼ完成していて、量産準備段階にある機体だ。だが……」

ナシマ室長は一息おき、ホニーをまっすぐに見つめる。


「テンシェンの紅い機体と比べて、率直にどう感じるか。君の目で確かめてほしい」

開発者としては言われたくないこともあるだろう。それでも……それが戦場での“現実”なのだ。


「分かりました。時間は限られていますが、できる限り協力します」

ホニーは真剣なまなざしで応じた。


(私にできること……それは、飛ぶことだけ)

マートはそんなホニーを見守りながら声をかける。


「ホニー、行こう。僕がついてる。風も、精霊も、僕も、いつだって君の味方だよ」


「……ごめん、マート。ありがとう。まだ割り切れないけど……」

そう言いマートは黄昏にまもなく染まる空に向けて飛び立つ。


それと同時にエンジン音を唸らせライコウも空に上がり模擬戦が開始された。



開始と同時――


機銃音が、空気を裂いた。


グゥンッ――!


マートが一気に旋回し、重力がホニーの体を押しつぶす。ペイント弾が近くをかすめ飛ぶ。


「こないだは遅れを取ったが……今回は、お前を“堕とす”」


無線越しのカンラの声は、冗談のようで、真剣だった。


ライコウの性能は明らかに違った。加速、上昇、旋回、すべてが別次元。


(あの機体、風とリンクしてる……精霊術と動力が共鳴してる……!)


「暴風って名じゃなく、“そよ風”って名の方が似合ってたんじゃねぇか?」

ホニーは必死に回避を続けながら叫び返す。


「うっさい! 私だって好きでテンペスト名乗ってるわけじゃない!」

その叫びは、鬱憤だけじゃない。自分自身への問い返しでもあった。


ダダダダダ――

機銃の音が、空を引き裂く。



***


「ホニー君、マート君。《ライコウ》はどうだった?」

飛行後、ナシマ室長が問う。


ホニーはしばらく沈黙し、マートと顔を見合わせた。


「……テンシェンの紅い機体にも、きっと負けてないと思います。むしろ、機動性はこっちの方が“上”かもしれません」

体はペイント弾でカラフルに染め上げられていたが、声は誇りに満ちている。


「でも……なんでこんなにいい戦闘機があるのに、《スパーク》を開発してるんです?」

当然の疑問に、ナシマ室長はため息混じりに答える。


「《ライコウ》は航続距離が長くなく、広域の防空には向かない。それに、法術と降霊術は未対応……精霊術も、風の属性しか対応してない」


「つまり、俺専用機ってわけだ」

カンラがニヤリと笑う。


「この機体は優秀だが……“誰にでも使える”わけじゃない」

ナシマ室長は肩をすくめる。


「それでも、有用なデータが取れた。二人には感謝する」


「……いえ。協力できてよかったです」

七色に染まったホニーとマートは、どこか誇らしげに胸を張った。

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