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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第108話「兆候」

金色の戦闘機──《ミョルニル》がホニーの正面から迫る。

空気が圧縮されるような唸りと共に、閃光が弾けた。


ドドドッ──ドドドドドッ!


機銃の火線が、一直線にホニーを貫かんと迫る。


「……っ!」


マートは身体を傾け、寸前で回避。

視界の端に金色の残光が過ぎ、耳を裂く風切り音が残る。


すれ違いざま、彼女はミョルニルの正面に精霊の盾を展開する。


パリン──!

しかし、砕け散ったのは盾の方だった。


(……あの銃弾、危険。機体も……硬い)

一度の交錯だけで、ホニーは理解する。

正面からぶつかれば、普通なら盾に弾き返されるはず。


だが、ミョルニルは何事もなかったかのように飛び続けている。


(空戦技量ならおそらくフェンの方が上……でも、これは回避しない。

 硬すぎて、避ける必要すらないんだ)


再び、光の雨が降る。


ホニーは冷静に軌道を読み、ギリギリで回避を行う。


その間に、精霊の盾を叩きつける。

だが、結果は同じ。砕けるのは盾だけだ。


旋回するミョルニルに、鉄竜部隊が一斉射撃を浴びせる。


ドドドドッ──!


何発もの命中を確認。

だが、銃弾は弾かれ、金色の機体は傷一つつかない。


(……オペレーション・ファイアーフラワーのときと同じ……!)


ホニーの脳裏に、魚雷を何発受けても沈まなかったあの空母が蘇る。

目の前の存在は、空を飛ぶ“要塞”だ。


攻略法はおそらく同じ、魔力が尽きたら攻撃は有効になるはず。


(魔力が尽きるまで撃ち続けるしか……)

そう思いかけて、背筋が冷たくなる。


(……このアーミムに満ちる魔力が、尽きるまで……?)

果てのない戦い。

胸の奥に不安が滲む。


(……弾切れを狙って、空戦能力を削る……?)

思考を巡らせつつも、機体は止まらない。

バルクーイとの空戦は、避けるだけなら可能だ。


だが、こちらの攻撃は一切効かない。一発でも被弾すれば、終わり。

額に汗が滲み、手袋の中で指が滑る。


息は浅く、耳鳴りがする。


リクリス神の神圧の中で飛ぶということは、戦闘そのものが体力も魔力も削られる行為だ。


(焦るな……焦ったら、向こうの思う壺)

ホニーは必死に呼吸を整え、最善手だけを選び続ける。

その時、頭に浮かんだのは、アーミムの上空に満ちる鐘の音だった。

儀式の始まりから途切れない、荘厳な旋律。


(……まさか、これが魔力供給の核……?)

微かな可能性に賭けるしかない。


「スターイージス以外、攻撃目標を教会に。

 鐘を中心に機銃掃射、全力で!」


ホニーの指示で、鉄竜部隊と天竜・レコアイトスの生き残りが散開する。


街を埋め尽くす教会に火線が走った。


だが──


ガガガガッ──!


石壁に火花が散るだけ。


鐘楼は崩れず、鐘は逆に甲高く鳴り響く。

教会も金色の機体と同じ術式が込められていた。

その音が空気を震わせ、神圧がさらに濃くなる。


(……悪手だった……爆撃機を戻すべきでなかった……)

教会を破壊するためには機銃ではあまりにも非力だ。


(爆弾だったら、壊せたかも……)

ホニーの胸の奥に、後悔が満ちてきて焦燥がじわりと広がる。


***


「鈍くなってきているな」

バルクーイの瞳が、星渡りを射抜く。

神圧、焦燥、疲労、後悔。

バルクーイの前に歴戦のエースたちが追い詰められ、最後はあっけなくミスを犯し撃墜される。


その兆候が、星渡りにも現れ始めている。


「無駄なことを……」

バルクーイは静かに告げる。


教会を必死で撃つ異教徒たち。

それは、神の怒りを自ら招く行為であることすら分からない。


鐘が更に甲高く鳴り響き、光が空気を歪ませる。

神圧がさらに重く、冷たく、鋭くなる。


バルクーイは懐中時計を一瞥する。


(……時間が来る前に、星渡りを処刑せねば)


金色の機体が旋回し、獲物を逃さぬ軌道で迫る。

神圧の海に、ホニーは一人、溺れぬよう浮かび上がっていた。


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