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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第106話「救済」

ドドドドドッ──!


神の裁きが、空を切り裂く。


金色の機体 《ミョルニル》が放つ銃弾は、まるで天から落ちる神罰の雨。

その矛先は、旋回中の一騎──ノノレだった。


「くっ!」


ノノレを乗せたベギルは身体を傾け、咄嗟に急旋回を行う。

だが、次の瞬間、視界が崩れ、世界が傾いた。


ガクッ──。


空が下に回り、地面が上へ回る。

ノノレの視界が、ぐるぐると回転し続ける。


「アレックス……ごめん、翼をやられた」


相棒の天竜ベルギが苦悶の声で告げる。

片翼には、いくつもの穴が空き、血が流れていた。


「僕のほうこそ……神圧に呑まれて、接近を許した」


ノノレは自身の判断の遅れを悔やもうとするが──


「今はそれどころじゃない! また来るぞ!」

ベルギが叫んだ瞬間、空気が震える。


ミョルニルが再び急降下。

狙いは、墜落寸前の彼らを確実に仕留める一撃。


逃げられない。

高度も、回避の余裕も、ない。


(終わりか──)


そう思った瞬間だった。


「ローチェの英雄、不死身のバルクーイ。俺を無視とは、ずいぶん寂しいじゃないか」


冷え切った無線が、突如割り込む。

それは、ローチェの軍用チャネルで、完璧なローチェ語だった。


同時に、空を裂いて飛び込んできたのは──

漆黒の巨体。


ひときわ巨大な黒き天竜と、その背に乗る一人の男。


「……覇王、か」


バルクーイがその姿を視界に収め、わずかに目を細めた。


かつて、“空の覇王”とまで謳われた男。

最強の竜使い──ガンブ。


だが、今や天竜の時代は終わり、戦闘機の時代。

その肩書は、過去の遺物と嘲笑されていた。


「時代に取り残された旧き覇王が、神に抗うか。……滑稽だ」


ミョルニルは旋回し、風を切る刃のように背後へ回り込む。

一切の迷いもなく、機銃を解き放つ。


ドドドドドッ──!


黒竜の背を貫かんとする銃弾。

だが次の瞬間、ガンブは微笑し、右手を掲げた。


「……なめるなよ。天竜は、まだ終わっちゃいねえ」


展開される、精霊の盾。


天竜と共鳴し魔術と精神を同調させ、機銃弾すら容易くはじく魔法障壁。

新たなる天竜の時代を切り開く新兵装。

銃弾が弾かれ、空中に火花が咲く。


はずだった──


ドドドドドッ。

ドドドドドドッ。

ドドドドドドドッ。


圧が変わる。

続けざまに放たれるバルクーイの連射。


そのすべてが、まるで祈りそのもののように正確で、重く、貫いた。


ズンッ……!


盾が破られる。

裂け目から、閃光のように銃弾が突き抜け──


黒竜の胴体を、翼を、ガンブの全身を。


「……な、ん……だと……」


視界が崩れる。

鼓動が、遠くなる。


かつてシーレイア最強の名を冠した男と天竜、“覇王”は、ただ一撃のもとに、散る。

天竜の復活の御印なる者、彼は神話に飲まれた。


──それはまさに、鎧袖一触。


***


バルクーイは、墜ちていく黒竜を見下ろしながら、静かに言った。


「リクリス神の神威を纏う者に、あの程度の魔法障壁で抗えると思ったのか。……愚かだ」


その瞳に、怒りも興奮もない。

ただ、哀れみだけがあった。


バルクーイのミョルニルから放たれる銃弾。

1発1発にアーミム全土からリクリス神への膨大な祈りが込められている。


それに対し1人と1匹が作り出す魔術障壁の盾など、無意味に等しいのだ。


「全てを救わねばならぬ。迷える異教徒を、愚かなままにはしておけぬ」


ミョルニルの操縦桿をわずかに傾け、空を見渡す。

そこには、まだ数多の天竜。数多の戦闘機。


「……偉大なる唯一神リクリス様。この者たちに、どうか導きを」


一言、祈りを捧げると同時に──

金色の翼が、群れの中心へと舞い降りる。


その刹那。

空に響くのは、鐘の音か、銃の音か、異教徒の叫びか、それとも弔いの聖歌か。


神の名のもとに、ただ一機。

ミョルニルは“救済”の名のもと、異教徒の群れへ突入していく。


ローチェ西部戦線の英雄、神に届きしもの『不死身のバルクーイ』の蹂躙が始まった。


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