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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第103話 閑話「才能を持った少女」

【アマツ中央通信】

『インスペリ講和へ 南部戦線終結間近』

政府は昨日、インスペリ首都クラムアへの空襲作戦が成功裏に終わり、これに伴いインスペリ側から講和の打診があったと正式に発表した。


作戦を主導したのは、星渡りテンペスト卿が率いる特別空襲部隊である。

従来、安全圏とされていたインスペリ中枢クラムアに対し、大規模な爆撃と制空戦が同時に行われた。

当局によれば、テンペスト卿は防空戦力の主力機群を単騎で迎撃・撃破し、その数はおよそ百機に上るとされる。


関係筋は「防空機能の崩壊と心理的衝撃により、首都防衛体制の継続は困難と判断された」と述べ、今回の講和打診は星渡りの“象徴的打撃”によって決定づけられたと見られる。


なお、テンペスト卿はこれまで偵察・囮任務を主としてきたが、新兵装として導入された精霊共鳴型兵装 《精霊の盾》の運用により、戦闘能力の飛躍的向上が報告されている。

今回の作戦は、テンペスト卿が同兵装を初めて使用した戦闘で大戦果をあげたことで、軍関係者からは「神話に記された神殺しの再演」との声も上がっている。



***


新聞紙面をじっと見つめるひとりの少女。

御使い様は素顔を隠すことなく、誰もいない自室で深く息を吐いてから静かに目を閉じた。


「……ホニー。私は、あなたにその道を歩んでほしくなかったのに」

誰もいない部屋で、独り言のように呟く。


「そんなに、ホニーちゃんが心配っすか?」

天井の梁から、気配もなく一人の影が現れる。

御使い様直属の密偵──カラス。


「カラス、あなたですか」

驚いた様子もなく、御使い様は新聞を折る。


「ええ、心配です。自分の意志で星渡りになったとはいえ、これ以上の重荷は……」


窓の外を見ながら、思い出すのは──

初めてホニーが、この部屋を訪れた日のこと。


緊張しながらも希望に笑顔を浮かべていた日だ。

そして、竜使いとしての才能は他の追随を寄せ付けず目を見張った少女。


だが、それは“戦うため”の笑顔ではなかった。


「彼女は、ただ……才能を持った少女に過ぎません。

あれは国家を背負うための意志ではなく、誰かを守るために努力してきた子の、精一杯の顔でした」


御使い様の声に、翳りが差す。


「才能があった。それが”すべて”じゃないっすか」

カラスはひょいと座り込み、飄々とした声で返す。


「私も、御使いちゃんも、そうだったんでしょ。

望まれたから歩いた道。選ばれたから背負わされた荷物。……ホニーちゃんも、きっと同じっすよ」


「……そう、ですね」


御使い様の返答は、沈んでいたが、どこか諦めと祈りの混じったものだった。


「御使いちゃんは、相変わらず優しいっすね…。いつも、そうやって後悔してるっす。」


「ええ。分かってはいるのですが……」



心に浮かぶのは──

星環海を越え、命を賭けて帰ってきたホニーとマート二人の姿。

苦難を乗り越え笑顔で、誇らしげに報告してきた、あの瞬間。


今はもう、その笑顔を思い出すのが怖い。


(ホニー……どうか、“無事に”戻ってきて)


彼女の願いは、誰にも届かない夜に、静かに溶けていく。


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