表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/117

第100話「踏み入れた男」

──クラムア空襲から一日。

ローチェ極西軍・アーミム作戦本部に、緊急の伝令が届けられた。


内容はただ一つ。

《南部諸島作戦の中止、全軍撤退》。


将軍バルクーイは、その文面を静かに見つめたまま、誰の言葉にも反応しなかった。

やがて低く呟く。


「……インスペリが、講和に動いたか」


彼には分かっていた。

南部諸島戦線の補給路はインスペリ経由に大きく依存している。

その一角が崩れれば、この戦線はもたない。


だが、バルクーイの心を真に揺らしたのは、それだけではない。


「星渡り……やはり、討たねばならん存在だ」


クラムア大教会への爆撃。

歴史ある神の都を焼き、祈りの場を崩し──

その空で、防空の要たる戦闘機部隊を、たった一騎


「ワシャワ、準備はどうなっている」

バルクーイは背後の軍服の男に声を向ける。


「はっ、出撃準備は完了しております。ただ……将軍ご自身の出撃は、今一度再考いただけないでしょうか」

懇願するような声に、バルクーイは静かに首を振る。


「空には、紅い死神もいない。ウーランが帰還した今、誰が星渡りを止められる?」


テンシェンのエース、ウーラン。

彼が空にいる限り、敵の“象徴”を空で迎撃できた。


だが今、彼はもうこの戦線にはいない。

ローチェには確かに優れたパイロットがいる──だが、それだけだ。


「貴婦人や竜王といったエースの相手ならば、彼らでも渡り合える。

だが、神域に至った存在には……届かぬ」


バルクーイの声音に、決意が宿る。


彼自身が、かつて西部戦線において“英雄”と称された存在。

戦場で、神の名を背負うことを許された人間。


「皇帝陛下より、撤退戦においてのみ出撃の許可が出た。

シーレイアの殲滅──そして星渡りの撃破。

それが、私に与えられた最後の使命だ」


「ですが将軍……。あの戦でのご負傷、今なお……」


ワシャワの言葉を遮るように、バルクーイは背を向ける。


「……人の手で、星渡りを討つことはできぬ。

だが、私は──神に届いた者だ」


 


「ワシャワ、撤退戦の指揮は任せる。

星渡りを屠る好機、全てを使え」


「はっ! 将軍の星渡り討伐を、全身全霊で援護いたします!」


こうして、アーミム撤退戦という名の下──

ローチェ極西軍の“最後の神話級戦闘”が、静かに始動する。


 

***


その頃──神都アマツ、シーレイア作戦本部。


ホニーの“神殺し”の如き空戦と、オペレーション・ラストピリオドの成功。

そして、インスペリからの講和の打診。


誰もが胸を撫で下ろすかに見えた。

だが──会議室には、重苦しい沈黙が漂う。


「……ターキュ島の航空部隊の損耗が酷い」

参謀総官キトラが低く呟く。


「ここまでに育て上げた熟練パイロットを、あの空で次々失っている」

原因は明白だった。


「やはり、テンペスト卿を北部へ転属すべきだ。ターキュ島防衛に回せば──」


「……許可できませんね」

その提案に冷ややかに口を挟んだのは、危機管理局長・フジワラだった。


「テンペスト卿は、南部戦線の象徴にして要。

最終局面を前に彼女を外すとは……キトラ、目が曇りましたか?」


「しかし、もはやローチェは撤退寸前。南部は戦力過剰とも言える」

キトラは食い下がるが、フジワラは冷ややかに返す。


「撤退するからこそ、彼らは星渡りを諦めない。

むしろ──最後に、それだけは潰しに来る」


「その規模の作戦を、今のローチェが?」

キトラの疑問に、フジワラはひと言で答えた。


「指揮官は、バルクーイ。ローチェ西部戦線の英雄にして、紅い死神ウーランをも超える存在」


フジワラの言葉に室内がざわめく。


「紅い死神は、ようやく“神域”に届いた新星。

だが、バルクーイはその遥か前──神の座に踏み入れた男だ」


「だからこそ、テンペスト卿を動かすわけにはいかない。

……勝てるとは言わない。ただ、“負けない”ために、彼女が必要なんです」


キトラは黙り込む。


「……ターキュ島の戦況を維持するには?」

フジワラは立ち上がり、背を向けたまま答えた。


「ローチェの“星渡り対策”。

かつて神に至った存在を倒すため、彼らが積み上げた知識と策がある」


「それを──?」


「参考に。……君なら、読み解けるはずです」

フジワラはそれだけを残し、静かに部屋を出ていった。


作戦室に残されたキトラは、深く息をつきながら、フジワラの言葉を反芻する。

「ローチェの……星渡りへの作戦……」


神を討つ知識を──

いま、こちらが使う時が来たのかもしれない。


 

南部戦線は間もなく終幕を迎える。

神と神が相まみえる戦場が、静かに、確実に、動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ