表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/116

第98話「戦争の根」

──オペレーション・ラストピリオド、発動。


わずかに白み始めた南方の空。

その静寂を破るように、超弩級潜水空母 《アマツ》の甲板から、五機の水上機 《クサナギ》が次々と射出されていく。


水煙の中を駆け上がる黒い機体。

最後に、ホニーとマートが空へ舞い上がる。


「……今回は夜間じゃなくて、あえて日中での空襲か」


ホニーは空に漂いながら、吐息混じりに呟いた。


作戦意図は明白。

“空襲の恐怖”そのものを、敵国の民衆の記憶に焼きつけるため。

白昼の空を裂いて訪れる死──それこそが心理的制圧の要だ。


だが、それは同時に危険を孕んでいる。

迎撃機の展開時間が与えられれば、この五機は全滅する。


(今までインスペリ近海にシーレイアの空母が現れたことはない。

その油断が残っていれば……)


そう祈るような思いで、ホニーは通信を開いた。


【各機、テンペストより。これよりクラムアを目指して進行を開始します。共鳴魔法にて五分ごとに指示を送ります。受信できない場合は無線封鎖を解除し、状況を報告してください】


ローチェの精霊妨害兵器がどこに潜伏しているか分からない。

そのため、通信手段は原則共鳴魔法。ただし異常時のみ無線を使用する運用だ。


【当面は低高度飛行を継続。クラムア近郊まで海面すれすれで進行。レーダー波を避けます】


指示を出し終え、ホニーはマートの背で海面すれすれまで降下した。

背後に、五機のクサナギが緊密に続く。



***


クラムアまで、残り100km。

陽が昇りはじめ、空がほんのりと赤みを帯びてくる。


陸上を横切るルートは慎重に選ぶ。

集落も道路も避け、山と谷を縫うように。

飛行は順調、だが──


(……なにこれ)


ホニーは背筋を伝う奇妙な重圧を感じていた。

まるで、空全体から“見下ろされている”ような……異様な気配。


──それは、信仰の地の空気。


リクリス神の名のもとに築かれた都市国家。

その神威が覆う空に、異教徒──しかも“神殺し足りえる者”が侵入してきた。


神敵への拒絶。

その“意志”すら感じるような、圧迫感。


【目標まで残り50km。各機、上昇。爆撃態勢へ移行】


ホニーは冷静に指示を出す。

高度を上げながら、腹の底に凍えるような予感が宿る。


【第一目標、クラムア大教会】


荘厳にして千年の祈りを受けてきた、大理石の大聖堂。

国の象徴にして、信仰の中心──


だが、ホニーはそこに第一の照準を定めた。


(……あの“圧”こそが、この戦争の根だ。

神を利用し、民を戦争に駆り立てた信仰の砦。崩すなら、そこしかない)



***


目標上空に入ったそのとき、サイレンがクラムア中に鳴り響く。


「各機、感知された。迎撃がくるまでの時間は短い。攻撃を継続!」


ホニーは即座に無線封鎖を解除し、強い口調で指示する。

五機のクサナギが一斉に急降下へ移行。

照準、投下──。


空を裂く音とともに、爆弾が大教会を直撃する。


ドォン──ドォン──ドォォン。


大理石の塔が崩れ、巨大なステンドグラスが砕け散り、祈りの場が火に包まれていく。


その瞬間、ホニーの肌に焼けつくような圧が走る。

胸の奥が重く、冷え、そして刺すように痛んだ。


(……これが、神に手をかけるということ)


空そのものが、怒り狂っているようだった。

ホニーの身体に纏わりつく霊的な抵抗が、息苦しさを増していく。


「第二撃も同目標。できる限り大聖堂の心臓部を狙って」


ホニーは、それでも冷静に指示を出す。

もはや軍務省より、教会こそが真の“砦”だと確信していた。


だが、次の瞬間──


(……来る)


空の裂け目から、殺気が流れ込んできた。

遠く、複数の航空機の気配。


「敵機接近。第二撃を投下後、全機即時離脱!戦線から退避せよ!」


そう叫ぶと、ホニーはマートの進路を切り替える。

迎撃機の群れに向かって、囮として単独で迎え撃つために。


背中に迫る神の怒りを感じながら──

仲間たちの帰還を、確実なものにするために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ