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竜使いの鎮魂歌 ~空の覇権が人に移る時、少女と竜は空を翔ける~  作者: 春待 伊吹
第三章

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第92話「指揮官の決意」

「……くそが……」

テンシェンのエース、フェン・ウーランは歯噛みしながら吐き捨てた。

コックピットの中、照準器に何も映らない。獲物はすべて逃れた。


レコアイトスの星渡りもどき──ノノレ。

確実に撃墜できると思っていた。だが奴は、空に奇跡を起こした。


呼び戻された精霊たち。沈黙を破って再起動した共鳴魔法。

あれほど完璧に封じたはずの空が、息を吹き返していた。


(……見事だ。だが、許せん)

周囲のシーレイア機も活気を取り戻し、機動も明らかに向上しているように見えた。

自身の燃料の残量に目を落とす。限界は近い。


(もう引き際か)

ノノレへの執拗な追撃。ジャスミンとの死闘。

確かに戦果を得たが、彼が欲しかったのは──星渡り、その存在そのものだった。


「目ぼしい成果は……“シーレイアの貴婦人”の撃墜、だけか」

機体の操縦桿を握る指がわずかに震える。

星渡りはいなかった。見た瞬間にわかった。

シーレイアは最初から“本物”を隠したのだ。


(……万が一に備えてか。だが、俺が何より欲したのは……)

天帝に直訴してまで希望した南部戦線残留。

星渡りを討つためだけに、この空に来た。


その星渡りは影武者を立てられ、自分の執着・執念はすり抜けていった。


作戦失敗。奇跡の成立。

フェアリーフォールを突破された今、この戦域で次の機会はない。


地上に視線を落とす。

ローチェ陸軍はシーレイアの激しい抵抗に苦しんでいた。

本来ならシーレイアの魔術は封じられているはずだ──空と同様、陸にも異変が起きていた。


フェアリーフォール起動後、ローチェ機甲師団を中心とした、陸上勢力の速攻による基地制圧。

それが当初の筋書きである。


(ノノレの魔法が、全域に……?)

息が詰まる。


魔術を失った非力なシーレイア陸軍相手であればすぐに終わる予定であった。


(これで……終わったか)

一人の竜使いにより戦略を崩されたとウーランは悟る。

 


せめて──せめて何かを奪って帰る。


フェンは低空を飛びながら、シーレイアの陸上施設に機銃を浴びせかけた。

滑走路。弾薬庫。無線塔。撃ち込みながら、それでも怒りは収まらない。


「パピト島も、奴らのものになったか……」


機体を旋回させ、紅い閃光を引いて、彼は空から消えた。


 


***

 


「伝令! 《オペレーション・ドラゴンズスカイ》成功。パピト島西部、ほぼ制圧とのことです!」


南部諸島軍司令、ヒサモトのもとに報が届いた。

彼は静かに地図を見つめたまま、頷く。

(順調、か。こちらは……)


「……ホナマ基地は?」

別の伝令が一歩前へ進み、重く告げた。


「防衛成功。しかし……新たな精霊支配兵器が使用され壊滅的被害とのことです。

特に、配備されていた霊都航空隊は、隊長以下、ほぼ壊滅と──」

 


ヒサモトの目が、一瞬見開かれる。


「霊都航空隊がか……ジャスミン……」

南部戦線の最強部隊の一角が壊滅した。そしてそれを統べるエースと共に。


唇がかすかに動く。

それきり、数秒の沈黙。


かつて中部諸島群・霊都を統括していた自分にとって、霊都航空隊は特別な部隊だった。

ヒサモト自身が飛行機の先進性を感じ、結成させ作り上げた航空戦力。


中でもジャスミンは若きリーダーとして将来を嘱望されていた。

軍人でありながら、降霊術士としての資質も高く──そして、何より。


あの星渡りに最も近しい存在。



ヒサモトはすぐに目を閉じ、思考を切り替える。


「被害規模、詳細をまとめて報告書に。」


「はっ」


 

背筋を伸ばしながら、ヒサモトは地図に視線を戻す。

(……南部諸島戦線、ついに最終局面か)


パピト島は事実上の制圧が完了。

次に目指すは、最大にして最後の要衝──精都アーミム。


だがその道へ至るためには、血と代償で進むしかない。


失ったものは多い。



だが、戦況はこちらに傾いている。

これまで自分の指揮により散ったもの達に報いるため、これから散るであろう命を無駄にしないため。


(精都は、まだ遠い。だが……行く。必ず奪還する)

地図の上に指を置き、ヒサモトは静かにその一点を見つめ続けた。


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