第8話 閑話「献身の少女 拝命」
【神都タイムズ】
『7年ぶりの神託、献身の少女へ──テンペスト卿、拝命』
神都・大神殿にて昨日、神託の間による拝命式が執り行われ、ホニー・ドラグーン氏および天竜マート氏が、鎮魂祭における多大な貢献を認められ、「七星神竜勲章」の授与とともに「テンペスト」の名を拝命された。
神託による拝命は実に七年ぶり。また、十五歳未満での拝命は、七十四年前の偉人ユウシ・ナナセイ卿以来となる。
式後、大神殿の大庭園に姿を現した両名は、厳粛な面持ちでこう述べた。
「このたびの名誉、身に余る光栄。シーレイア連邦の自由と繁栄のため、全身全霊を捧げます」
その姿は、与えられた名に恥じぬよう、己を律しようとする決意に満ちていた。
参列者からは「正当な報いが与えられて良かった」「自分も何かのために動きたい」といった声もあがり、彼女たちの行動が民意へ前向きな波紋を広げた。
今回の勲章と拝命は、処罰の可能性すら伴う中で命を賭して飛行を実行した若者たちに対し、国家が応えた形となった。政府は同様の事例が繰り返されぬよう、関連法の改正を速やかに進めると発表している。
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『白き天竜、神都を翔ける──テンペスト卿、感謝の飛行』
拝命式の翌日、テンペスト卿ことホニー・ドラグーン氏は、神都上空にて感謝の飛行を行った。減刑嘆願に署名した市民へ謝意を示すべく、自らの愛竜マートと共に一日かけて空を巡ったという。
昼過ぎには、白銀の竜が神都中央を旋回。偶然空を見上げた人々の目には、陽光を反射してきらめく翼が「祝福の兆し」として映った。
なお、テンペスト卿は音速突破に数度挑戦したものの、成功せず着陸後はやや落ち込んだ様子だったという。
「おそらく、音で感謝を“響かせ”たかったのだろう」と、飛行場関係者は語る。
若くして神託を受けた少女のひたむきな姿に、国民の多くが心を動かされた一日となった。
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【政務庁内・危機管理局】
「危機管理局長、神託拝命に関する紙面が届きました」
フジワラは記事を手に取り、目を通す。
「……ふむ。まだ『伝説の英雄』というには響きが弱いが、出だしとしては悪くない。神託と勲章で『竜使いの象徴』を演出できたのは大きいですね」
静かに、しかし明瞭に言葉を選びながら続けた。
「空を飛んでくれたのも好材料。実際目にすると、あの飛行能力は我々の想定以上……東方の連中がきな臭い今、象徴としても、実働戦力としても活かさねばなるまい」
胡散臭い笑みを浮かべながら、フジワラは手元の報告書を机に置く。
「これからの時代“英雄”が必要になる。だが英雄に必要なのは、至るまでの“物語”だ。──彼女には、その役を担ってもらいましょう。」
フジワラ目にはこれから来るであろう激動の時代が見えているようであった。
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明日も全4話投稿予定です。次の9話投稿は7時10分を予定してます。10話は12時10分、11話は19時10分、12話は21時30分です。