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歌うたいの恋歌  作者: 風間咲
2/3

異世界の風

残酷な表現が、含まれています。

15歳以下の人は絶対読まないでください。

 異世界への扉は、わたしが死のうとした瞬間開けられた。


奇跡だった、だからあの時に私は一回死んだ。


私は、あの日ビルの隙間で気づかれることなく、死んでいたはずだった。



 気がつくと体の下には堅い感覚、目を開けて、顔だけ上にあげるとそこは、


見通しの良い丘のような場所だった。


ここは、死者の世界なの……?


死んだら、すべて忘れられると、思っていたのに…。


記憶も、感情も、あの時のまま、


何かがおかしい…。そんな違和感だけあった、


だけど、その違和感の正体を私はつかめずにいる。


心にしこりを残したまま、ふと体を持ち上げようとすると、


体中にズキっとした痛みが広がった。


え、死者の世界には、痛覚もあるの?


おかしい…。何かが絶対におかしい、私は本当に死んでいるの…?


痛む頭を抱えながら考えた。


私の思い違いでありますように…願いながら、もしそうだったら私は……。


「あ・・・・。」


思いだした。私は地面に打ち付けられる前、かにのみこまれた。


裂け目?と言うのだろうか、周りの景色をカッターナイフで切り裂いたような、


そこにのみこまれたと思ったら、ここにいた。


じゃあ…?うそでしょ…ねぇ嘘と言って…。


堅い地面も、匂いも風も残酷なほどにリアルで、


恐る恐る左胸に手を当てると、ドクン…ドクンと心臓が脈を打っていた。


私は…私は、死にぞこなったのか…!


心から自分でも処理しきれないような汚い感情が、あふれだした。


「なんで…? 死なせて……いやあ! …ああ…し、死なせてよおおおおおお!!」


絶叫した。もう息していることさえたえられない、


なぜ生きているの?なぜ私はここにいるの?


生きている意味などないのに!!!


誰も私が生きていることを望んでない!!!


最後だけは、きれいに死にたかったのに!!!


なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?


自己嫌悪の渦、きれいに死ぬことだけが、唯一自分を許せる方法だったのに、


死ぬことさえ私は、まともにできないの?中途半端なままなの?


「どこ…? ない、ない、どこよおお!!!」


地面に這いつくばってカミソリを探す。


血を見ればいつも少しだけ自分に罪を与えられた気がして、


少しだけ、生きてることを許せるから、でも、どこにもない…。


そっか、今日は、持ち歩いているはずなどなかった…。


死ぬつもりだったんだから、最大の罰を自分につけれるはずだったんだから!!


また、パニックになりそうだった。


だから必死に自分の太ももを拳で、何度も、何度も打ち付ける。


最後まで汚いのか!!!私は……。


自分が生きているの…だれが、喜んでくれる?


きっと死んだとしても、少しの間気づかれない、


私が涙を流すように、私が死んだとき、涙を流してくれる人はいるの…?


きっといない…。絶望が私の心を支配して、


拳をどんなに、体に振り落としても、心だけは、虚しいまま、


満たされない乾き…喪失感、ただ心が痛くて、痛くて、


自分でも、何を求めているのか分からない。


なぜこんなにも、痛いのか分からない。


きっと私はちっぽけだったのだろう、大きな丘の上一人うずくまって、


自分のことしか見えていなかった。だから、一瞬何が起こったのか分からなかった。


顔をふとあげた瞬間にそれは起こった。


涙が吹き飛んでいった。髪が後ろに流された。


体が、驚きで硬直した。体に打ち落そうとした拳もだらりと垂れ下がった。


大きくて強い向かい風が、私の中を、心まで吹き抜けていった。


風に心をうばわれた。とらわれた。


この感覚は、なんていうの?何も考えられない…。


いや考えたくないの、今はただ感じたい、この風を…。


ほほに、温かいものが伝った。手でその滴をすくい取った、


え、これは涙…?悲しくないのに、なんで涙が出るの?


涙ってコンナニ温かいものなの?止まらないの…。


初めて目を開けることができたような、不思議な感覚…。


気づいたら、歌っていた。自分が何を歌っているのかもわからない。


出てきた言葉も、自分の知らない言葉、それでも、気にならなかった。


痛み、苦しみ、絶望、怒り、すべての思考も、ほんの少しの願いも……。


吹き飛んだ。すべてが、歌になって、少しだけ大気を震わせて、風に流されて……。

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