南の島のスライム使い~蠅たちの楽園に彼はなにをみたのか?
この物語の舞台は、地図にも載っていない島――通称「ドガシマ」。
そこは、ゴミと共に捨てられた人々が暮らす、忘れられた場所です。
悪臭、病気、そして孤独。
希望など存在しないはずの島に、ある日ひとりの“スライム使い”が流れ着きました。
彼は、魔法も剣も使わない。
使うのはただのスライム――けれど、そのスライムは、世界を少しずつ変えていきます。
これは、「最弱」とされたものたちが、「見捨てられた楽園」で手を取り合い、
ほんのわずかな希望を育てる物語です。
静かな再生の物語を、どうか最後まで見届けてください。
――坂本クリア
島の80%がゴミで埋もれる島”ドガシマ”それがオイラが住んでいる島だ。
住民のほとんどが孤児かどこかから逃げてきた人たち。
そして仕事は"ゴミ漁り"だ。
南の島というと、南の楽園ってイメージする人が多いかもしれないけど、
この島は南の楽園というより、蠅たちの楽園と言ったほうがいいかもしれない。
とにかく臭いらしい。
オイラはずいぶん前からいるから慣れたが…
普通の人はムリらしい。
ゴミ捨てにくる船の船員がよく島の空気を吸って、船の上で吐いている。
おいおい失礼だろうと思うが…
まー臭いのだろう。
みんな毎日毎日、お金になるゴミか、食料を探している。
ゴミは島に一軒だけある買取屋で買い取ってもらえる。
とはいえ…
金目のゴミなんて
滅多と落ちていない。
オイラの母ちゃんは、オイラを孤児院の前に捨てたらしい。
その後…
なぜだか…
オイラはこの島にいる。
話によると
そういう事はよくあることらしい。
外の人はこの島を、捨てられた者が最後に辿り着く“根の国”と呼んでいるみたいだ。
なんで根っこなんかよくわからない。
ゴミの島でいいのになとそう思う。
そういえば、この島は地図にも載っていないらしい。
でも毎日でっかい船がたくさんのゴミを積んで
この島にやってきては、ゴミを捨ててくる。
犬や猫も捨てる。医療廃棄物やヤバそうな注射針なんかも捨ててる。
不法投棄?っていうのかな…そんな感じなのだ。
この間は
大きい鳥の丸焼きが捨てられていた。
オイラが見つけたが、食いきれなかったので、近所のガキたちにくれてやった。
基本的には、弱肉強食で奪い合いだけど…
食べきれないものを抱え込むほど
みんなバカじゃない。
割と仲良くやっている。
ある晴れた日のこと。
一人のオッサンが倒れているのを見つけた。
この島ではよくあることだ。
しかし今まで見た事のないような、
少し奇妙な恰好をしている。
オイラは念のため大人たちを呼んだ。
大人たちは、棒を持って、まわりを囲んだ。
「おい。おい。起きろよ。死んでんのか?」
あんまりにも起きないので
水をぶっかけてやった。
「はっ…はっ…はっ…おぼれる」
オッサンは飛び起きた。
あまりにもの驚きっぷりに。
みんな笑いこけた。
「よう…オッサンはなにものだ」
とオイラは訊ねる。
「ここはどこだ?」
どうやら状況がつかめてないらしい。
オッサンを囲っていた大人の一人がこういった
「ここはな…ドガシマ。
捨てられた者が最後に辿り着く“根の国”さ。
あんたは何者だ」
「ワシは"スライム使い"のラーチだ。
さっきまで、イタマ村にいたのだが…」
「イタマ村?スライム使い?何いってんだ。このオッサン」
と別の大人が言った。
「スライムを知らないのか?これじゃよ。これ…」
とオッサンは服のポケットから、干からびた青い塊を取り出す。
「ちょっと水をくれ」
オイラが水を差し出すと
トクトクトク…
と青い塊に水を注ぐ―――
すると
青い透明の物体があらわれた。
「これがスライムじゃよ。知ってるだろ…」
興味を持つもの。
明らかに危険な生物でも見るように警戒しているもの
いろいろだった。
「そんなものみたの、はじめてだ…」
とオイラがいうと、一同大きくうなずいた。
「で…オッサン。スライム使いってことは、それでなにか芸とかするの?」
とオイラは訊ねる。
「いや芸はしないんだが…こいつはゴミ処理をしてくれるんだ。ワシは前にいた国でこいつを使ってゴミ処理の仕事をしていた」
「じゃあ。オイラたちと同業さんってことか…ここのみんなもゴミ漁りで生活してるんだ」
とオイラは言った。
素性がある程度わかったことで、みんなの警戒は減ったみたいだ。青い透明の奇妙な物体だが、危険そうではない。
明らかに野良犬や他に危険なものが、この島にはたくさんあるからだ。
大人たちは「じゃあお前が見つけたんだから、しばらく面倒みてやれよ」とオッサンを押し付けていった。
最悪だ。なんでこんな奇妙なオッサンの相手なんか…
帰り際にまた別の大人が…
「しかし残念だったな。
この島はあと3年もすれば、もう終わる。
みんな死んじまうのさ。
それまでせいぜい生きようぜ」
と言って帰っていった。
オイラは、とりあえず、オッサンを島のあちこちに案内してやった。
ゴミの漁りかた。
眠り方。
野良犬の追っ払い方。
など
この島で生きるために必要なことを教えてやった。
オッサンは真面目に聞いて、素直に真似していた。
なんかすこし見直した。
オッサンは、オイラに、
「あの”あと3年もすれば、もう終わる。”
ってのは、どういう意味なんじゃ」
と聞いてきた。
オイラはこの島の状況を割と詳しく教えてやった。
・臭い空気があって、それを吸うと体調が悪くなる。
・病気やできもので死んでいく人が多い。
・ゴミを踏んで死ぬ人が多い。
・ゴミが今全体の80%をしめている。
こういう教えてやった。
するとオッサンは聞いてきた。
「ここはあちこちからウンコや小便の臭いがするが、あれはだれかのものなのか?
肥料でも作っているのか」
「そんなもの作ってねーよ。捨てるところねーから。みんなそこらへんに垂れ流してるんだよ」と返すと
「じゃあ。あれを取り除いても、誰も文句いわねえか?」
と聞いてくる。
オイラは念のため大人にも何人か聞いて
「逆に無くなったら…ありがてえってよ」
と教えてやった。
するとオッサンは
「なるほど。わかった」
となにか始めだした。
とりあえず、オイラも忙しいので、
「またな」
とオッサンと別れることにした。
それから気付けば1か月ほど時間がたった。
そういえば、あれからオッサンのことは見てない。
ゴミ漁りで忙しかったからだ。
ただなんか…
最近ウンコとか小便の臭いがしない。
まー臭いがしないのはラッキーだが…
なんとなく気になった。
するとそこにあのオッサンがあらわれた。
「あーオッサン。ひさしぶりだな。なにしてた?」
と声をかけると
「あーこないだの少年か…あの時は世話になった。いやあれからな。ワシのスライムたちに、ウンコと小便を食べさせてた。もうだいぶ臭いもしないだろ」
と…
言ってきた。
「はっ?」
と思い、辺りを見渡すと、たしかにウンコや小便の塊はない。
そして臭いもずいぶんマシになっている。
そして、ウンコを出すとスグにスライムが近づき食べていく。
草むらに隠れて野ぐそをするのが、この島のスタイルだったので、草むらはいつもウンコ臭かったが、草むらも草のニオイしかしない。
「少年よ。これで臭いニオイは解決したか?」
とオッサンは聞いてきた。
「いや…これだけじぇねーんだ。この島は人も動物の死骸も全部外に放置される。それが結構なニオイになるんだ」
と教えてやった。
「じゃあ。あれを取り除いても、誰も文句いわねえか?」
と同じ事を聞いてくる。
オイラは今回も念のため大人にも何人か聞いて
「逆に無くなったら…ありがてえってよ」
と教えてやった。
するとオッサンは
「なるほど。わかった」
とまたなにか始めだした。
今回もスライムに食べさせるのか?
とりあえず、オイラも忙しいので、
「またな」
とオッサンと別れることにした。
それから気付けばまた1か月ほど時間がたった。
島を見て回っていると、オッサンと別の大人が揉めている。
どうも…
スライムが死骸を処理するから、自分らも食べられるのではと恐怖をもった人がいたらしい。
「スライムは生きている動物や人間は食べない」
とオッサンは言う。
もちろん…そんなことで納得できるわけがない。
「証拠を見せてみろ」
とオッサンは証拠を求められる。
オッサンは自分の体にスライムを載せて
「見てみろ。ほら食べないじゃないか」
と証明してみせた。
すると
「お前はスライム使いだから、食べられないだけじゃないか」
と…
たしかにな…
そうこうしていると
オッサンと目があった。
まーしゃーねーか。オイラが一肌脱いでやろうと
「じゃあ。オイラの腕で試してみろ」
言ってやった。
あまりにも男気溢れるオイラに大人たちは、驚いた。
どうだ。オイラかっこいいだろう―
というのは冗談で…
ここでオッサンがスライムを使うのを止めさせてはいけない。
直感的にそれを思ったのだ。
もしかしたら、スライムはこの島にとって、最後の希望かもしれない。
そう思ったのだ。
「オッサン。オイラよくわからんけど、オッサンがウソをついたりする人間じゃないってことだけはわかる。信じてるぜ」
オッサンは、すこし泣きそうな目をしながら、オイラの腕にスライムを置く。
冷たさにビクっとしたが、とても気持ちいい。
なんか汚れが取れるようだ。
「オッサン。これ気持ちいいな。風呂みたいにもできるんじゃないか?」
と思わず聞いてしまった。
周りの大人たちは、ビックリした顔をしながら、状況を見守っている。
「あーそうだな。汚れも取れるし、皮膚病とか、腐った皮膚とかも食べてくれる」
とオッサン。
すると別の大人が
「俺の友達が足を怪我して、もう腐ってるんだ。足を切るしかねー状態なんだが、ここには麻酔もない。こういうのはどうなんだ?」
とオッサンに訊ねる。
「腐った部分はスライムが食う。痛みはわからんが…正常な組織を切るわけじゃなく、腐った部分だけをスライムは食うから、マシなんじゃないかな?」
と…
そこで
急遽
腐った足をスライムが食うというイベントが始まった。
これにはこの島がお祭り騒ぎだ。
なんせ。
足が腐るとか
この島では日常茶飯事
それだけに、切らないで済むってのは、ありがたい。
少し前まで、スライムが人を食うかどうかの話題で持ち切りだったのが…
急にスライム救世主じゃね?
という雰囲気にまでなってしまっている。
そして患者がやってくる。
恐る恐るだが、スライムが無害っぽいことを確認すると、さっそく
腐った足を差し出した。
それから30分くらいたった時
スライムは足から離れた。
残った足は、かさぶたのあとのような皮膚があるものの、腐った部分はない。
しかも
「痛くなかったぞ…」
と言ったものだから…
そこからが大変だった。
島中から患者が集まり、1か月まるまるスライムでの治療は行われた。
もうスライムは救世主で
オッサンは神様扱いだ…
オイラは手伝いにかりだされ、1か月オッサンの助手をした。
食事は患者が持って来てくれるから、楽だった。
治療の合間に、いろんなことを聞いた。
・オッサンの年齢は60過ぎだということ
・どうも異世界から転生したみたいだということ
・もといた世界に戻ろうと一瞬考えたが。いや戻ったって、ワシの居場所なんてどこにもないと気が付いたこと。
・異世界では現在ゴミの焼却処分が普通でスライム処理は禁止(スライムは魔物なので、ダメみたいな感じになりという事だが…実は利権絡みらしい)
・スライムは冒険者の初心者のレベル上げの道具として利用されるだけの存在
・オッサンはスライムに分別して食べさせる能力を持つ。これがあるから、スライム使いとして最後まで仕事があった。でも多量生産多量廃棄時代(メガフレアという魔法が開発され細かいゴミ処理不要)になり、そんな細々としたことは求められなくなった。
・スライムはエサを与えず1週間乾燥させると、冬眠状態になる。水をかけると復活する。
いろいろ面白い話が聞けた。
オイラはこの島以外のことはあんまり知らないから
なんか新鮮でうれしかった。
オッサンは、スライムが必要なくなっていくのを嘆いて
「ワシは捨てられたも同然じゃよ。」
と言った
「じゃあオイラと一緒だな」
というと
「そうか…そうかもしれんな」
と寂しそうに笑った。
オッサンの話では
特に分別させて食べさせる方法が面白かった。
「分別させて食べさせるのは簡単なのか?」
「内容はシンプルじゃが、ちょっと手間がかかるの~」
「どうするの?」
「まずスライムに食べさせたいゴミを1週間与え続ける。
すると…それが好物になって、
そればかり食べるんじゃ」
「なるほど…けっこうカンタンなんだな」
そんなことを話しながら、オイラも3匹スライムを貰った。
どうもスライムはちぎると何個にでも分割して増えるみたいだ。
オイラの身の回りをキレイにするように使うことにした。
オッサンが来て、約3か月がたち。
島はずいぶんキレイになった。
驚いたのが。島に活気がでたこと。
以前はニオイがきつく
ゴミを漁れる範囲が限られていたが、
今はほぼどこでもゴミを漁れるようになった。
これで売りに行けるゴミが増えて
みんなの収入が増えたのだ。
オッサンは
「この島でなにが迷惑なゴミなのじゃ。」
と聞いてきた。
「死骸とウンコとかはスライムが食べてくれてるから
あとは…
医療廃棄物
腐ったもの
かびたもの
有害物質など
特にケガをするから医療廃棄物が迷惑かな」
「そうか…腐ったもの。かびたものは、スライムが食べれるし…
あとは有害物質と医療廃棄物ってのだな。
それはどんなんだ?」
と聞くので、有害物質と医療廃棄物を渡してやった。
「試してみるよ」
といいスライムで実験を始めた。
その間、オイラは皮膚病の治療にスライムを使うというのをオッサンの代わりにやっていた。
皮膚病も結構問題が大きかったから、毎日よく人がきた。
数日して
実験が終わったと
オッサンは有害物質と医療廃棄物を食べるスライムを放した。
以前はスライムに対して警戒心を持っていた住民も
「あースライム様が食べてくれている」
と歓迎ムード
そんなこんなで、数か月が過ぎ。全体の有害物質と医療廃棄物はあらかたスライムによって食いつくされた。
とはいえ…
毎日毎日ゴミが入ってくるので。ゼロにはならないんだけどな。
有害物質と医療廃棄物が大幅に除去されたことで、島に徐々に植物が増えだした。
花もときおり姿をみせるようになった。
住民たちもずいぶん健康そうになった。
以前は3年で終わりって空気が支配していたけど…
なんか希望を持っている感じの人が増えてきた。
以前はゴミ漁りは危険な職業だったけど、いまではずいぶん安全な仕事になった。
また有害物質が除去されたことで、売れるものが大幅に増えた。
そんなこんなで80%を埋め尽くしていたゴミは、徐々に減ってきた。
ただ相変わらず…
貧乏なのは変わっていない。
食料はゴミか、ゴミを売った金で買うか、もしくは空から降ってくるのを待つかだ。
この島には
毎日
ヘリコプターでやってきて…
ヘリコプターの上からパンを撒く人がいる。
スライムやオッサンも神扱いだけど
このパンを撒く人も神扱いだ。
このパンは袋もなにもしていないから…
ウンコの上や死骸の上の乗っかると
さすがに食べれない。
でも今は島がキレイになったから、ほとんどのパンが食べれるようになった。
「まるで公園のハトにエサをやるような感覚でパンを撒く、変わり者の金持ちなんだろう」
と大人たちは言うけども
腹ペコのオイラ達には関係ない。
ありがたく頂くことにしている。
オッサンが仕掛けたスライムは勝手に分割したりして、自動的に島をキレイにしてくれている。
食料のゴミが腐りかけると、腐った部分を食べてくれるし、腐っているかわからないものをスライムに与えると、傷んだ部分だけ食べてキレイにしてくれる。
スライムのお陰で下痢になる人も少なくなった。
徐々にだけど、あの地獄みたいな島は、天国とはいえないけど、ずいぶん住みやすい場所になった。
そしてある日のこと
オッサンは消えた。
まるで…
この時がくるのをしり
念入りに準備をしていたかのように
オッサンは消えた。
オイラ達は…
島のみんな全員で
泣きながら
オッサンを探した。
でも…
どこにもオッサンはいない。
突然現れたんだから
突然消えても不思議はないだろう。
だれかがそういった。
それから一年…
オイラはオッサンの真似事をしている。
オイラは
スライム使いのラーチJr…
オッサンの意思を継ぐものだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は、「もう役に立たない」と捨てられた存在が、
実は誰よりも大切な力を持っていた――
そんな視点から生まれたお話です。
ゴミの島。腐った社会。
その最下層から始まる、静かな再生と希望の物語。
スライムはチートでも英雄でもなく、
ただコツコツと、腐敗を分解し、きれいにする存在。
けれど、その“当たり前”の積み重ねが、世界を変える力になる。
今の時代に、どこか通じる部分があるのかもしれません。
気に入っていただけた方は、評価・ブクマ・感想などいただけると励みになります。
また、あなたの心にも、ほんの少しでも温かい変化が残っていたなら、これ以上の喜びはありません。
スライム使いラーチとオイラの物語は、ひとまずここで一区切り。
でも、またどこかで続きを紡げたら嬉しいです。
それではまた、別の物語でお会いしましょう。
※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。
――坂本クリア