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最終回 もう一度、〇〇と言ってはいけないゲームをやりませんか

「アメリこんなところにいたのか」


 どきり


 さっきまでミーナと会っていたアメリの胸は変な音を立てる。アメリは王子の様子を探るように目線を動かしながら見る。


(さっきのミーナとの話は聞かれていないわよね?)


 アメリがぎこちなく王子を見ながら立っていると王子がこちらに歩いて来る。アメリはその時昨日の舞踏会でのダンスを思い出す。


 呼吸の音さえも聞こえそうな近さ。腰に回された王子の手の感覚にアメリの身体は集中した。王子と繋いだ手は汗ばんでいないか気になってダンスを忘れてしまいそうだった⋯⋯。


 そこにアメリの瞳を同じように見てくる王子の瞳にアメリは胸を焦がした⋯⋯。


 アメリは思い出すと顔に熱を帯びた。


(あっ、顔が熱くなっている気がするわ)


 王子はアメリの目の前まで来ていた。そして王子の手が優しくアメリの頬を包んだ。


 こつん


 王子がアメリのおでこに自分のおでこをつける。アメリは何が起きたのか分からず、固まってしまった。


「熱は無さそうだな。昨日の舞踏会で疲れたのか?」


 アメリは固まった身体で目だけで王子の表情を追った。心配そうに目を覗き込んで来る王子。


 王子に心を寄せ始めたアメリ。



『婚約破棄よ』



 ミーナの言葉がアメリの心を制する。


 アメリはようやく顔を背けるといつもの調子を取り戻そうとする。


「王子、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です。その⋯⋯昨日の王子は格好良かったです」


 それを聞いて王子は少し頬を赤くして笑った。


「あっこんなところで格好良いを使うのか? 過去形じゃないか」


 なぜだろう、いつもと変わらないはずの王子の一つ一つの表情、仕草がきらきらと輝いて見える。


 アメリは口を尖らせて目を伏せた。


(私ってばどうしちゃったのかしら⋯⋯)


 王子はそんなアメリの心の声をよそに首を傾げてアメリを覗き込んでいる。


「拗ねたのか? そんな顔も可愛いんだな」


 アメリは顔を赤くして下を向いた。アメリの心臓が保たなかった。


「王子、それくらいでやめてください。私の心臓が保ちません」


 アメリが王子の方を見ると、王子の瞳は熱を帯びているように見える。アメリの心臓は大きく鳴り始め、心臓のうるさい音しか聞こえない。


 王子が手をまたアメリの頬へと近づける。その時、誰かに呼ばれたようで王子は手を引っ込めると声の主の方を見た。王子の執事のようだ。


 王子は顔だけアメリに向けると「明日は隣国の王族とお茶会があるから夕方にでも王城に来てくれないか?」と聞いていた。


 アメリは目を丸くしながら王子を見た。


「えっ明日は学園にいらっしゃらないのですか?」

「その予定だが⋯⋯何かあるのか?」

「いえ、全然。何にもないです」


 アメリは心の中で両手を上げた。


(ミーナの嘘つき。明日は王子は来ないんじゃない)



 ■



 アメリは上機嫌で学園を歩いていた。今日、王子がいなければミーナのいう“フラグ”と言うのが無くなるはずだ。


 それでも気になるのでお昼はカフェテリアに向かうことにする。カフェテリアが見えてくると、ミーナに遭遇した。アメリはミーナに笑顔でこう伝える。


「あら、今日は王子は用事があって学園には来られないそうよ」


 それを聞いたミーナは腕を組んで黒い笑みを浮かべている。後ろをちらりと見てアメリに顔を戻した。


「そうかしら?」


 アメリはミーナの奥を覗き込む。なんと王子がいたのだ。アメリは思わず王子を呼んだ。


「王子、用事はどうしたんですか?」


 その声に王子はアメリの姿を探す。王子は見つけると笑顔になった。


「向こうの馬車の調子が悪くて予定が1日ずれるそうだ。もうカフェテリアかと思ったが、ここでアメリに会えて良かった!」


 アメリには眩しすぎる笑顔だった。


「あっあの王子、今日は外でランチにしませんか?」


 アメリが必死に誘う。


 王子が口を開けた時。


「カフェテリアで何か始まるぞ!」


 誰かがそう言いながら、何人もの人がカフェテリアに入っていく。


 ミーナはニッコリとした。


「王子とアメリさま、一緒に見ませんか? 何か悪いことだと困りますものね。そうしたら頼もしい王子が何とかしてくださりますでしょ?」


 ミーナはアメリを目の端で見てくる。


(うっ、先手を取られた⋯⋯)


 仕方なく3人はカフェテリアに入った。


 いつもよりすごい人だかりになっていた。その真ん中に一人の男の子がいる。人だかりの奥の方を見て誰かに告げるように胸を張っている。


 男の子は大きな口を開けた。


「私は真実の愛を見つけた! よって婚約破棄を宣言します!」


 その言葉はあまりにも短く、強い、明確な婚約破棄だった。アメリの目は左右に揺れる。そして王子の方を心配そうに覗いた。


 王子は大きく目を見開いている。じっと婚約破棄を宣言した伯爵子息を見続けている。


 その奥でミーナの口元は大きく緩む。


 アメリは瞬きもせず王子を見つめている。すると王子が動いた。どんどん人だかりに歩いていく。アメリも後ろをついていく。


 王子が近づいてくるのが見えると、伯爵を取り囲んでいる人だかりは後ろに引いて道を作った。王子はそのまま伯爵子息の元へと歩いていく。アメリも王子を追った。


 王子が伯爵子息の隣までやって来る。アメリもようやく追いつき王子の隣で立ち止まった。


「本当に真実の愛なのか?」

「もちろんです!」


 子息も自信満々にそう答える。おそらく伯爵子息が向けている視線の先に新しく結ばれたい相手がいるのだろう。


 アメリの肩は緊張して強張る。


(これから何が始まるの?)


 アメリは王子と伯爵子息を交互に見ている。王子は胸を張り堂々とした振る舞いだ。


(もしかしてこのままミーナと言うフラグの力にかかって、私に宣言したらどうしよう⋯⋯)


 王子はアメリのことをちらりと見た。その瞬間、アメリの心臓は飛び上がった。


「婚約している令嬢のことをちゃんと見たのか? 自分にばっかり合わせてくれているんじゃないかと考えたことはあるのか?」


 子息は違う方面に顔を向けた。アメリも伯爵子息の視線を追うと人だかりの奥で悲しそうな目をした令嬢が目に入ってきた。おそらくあの令嬢が彼の婚約者なのだろうと思った。


「いえ⋯⋯彼女もそれが好きだとばっかり思って⋯⋯」

「彼女のいいところを見つけてあげたのか?」


 王子のその言葉に彼の婚約者は下を向いて身体を震わせ始めた。もしかすると泣いているのかもしれない。伯爵子息は顔を歪めて王子から顔を背けた。


「わかりません⋯⋯」


「婚約破棄しても結ばれたい人のことはどれくらい知っているんだ?」

「それは色々と知っておりますよ」


 王子の言葉にムッとした様子で伯爵子息は顔を上げた。王子は冷たい目を伯爵子息に向けて見下ろしている。


「君の爵位やお金以外の部分で彼女が一番好きなのはなんだ? 色でも食べ物でも何でもいい」


 伯爵子息は反論する気満々だったようで、口を開けたが出てきたのは消え入りそうな小さな声だった。


「⋯⋯わかりません」


 アメリにははっきり伝わっていた。


 王子は怒っているのだ。


 王子は伯爵子息に追い討ちをかける。


「それのどこに真実の愛があるのだ?」


 その言葉はカフェテリア中に響いた。


「⋯⋯⋯⋯」


 伯爵子息は下を向いた。もうなすすべがないように反論も出て来ない。


 カフェテリアは水を打ったような静けさだった。そこに1つの足音だけが聞こえる。目を潤ませた1人の令嬢が人だかりをかけ分けて歩いてくる。


 アメリの近くまでやってきた令嬢は王子の正面に立つと深々とお辞儀をした。


 それは少しの時間だったが、長い時間のように感じた。


 令嬢は頭を上げると王子をまっすぐ見た。


「私の婚約者がご迷惑をおかけしました。この件は彼と“きっちり”お話いたします」


 令嬢はうなだれている伯爵子息の目の前にやってきた。姿勢をぴんと伸ばした令嬢は伯爵子息に感情を押さえて問いかけた。


「この続きは2人だけでしますか? それとも両家として正式に行いますか?」

「⋯⋯とりあえず2人で話したい⋯⋯」


 令嬢と伯爵子息はカフェテリアから消えていった。


 アメリはミーナの姿を探した。アメリが見るとミーナは叫び声を上げた。


「この私が攻略を失敗するなんて信じられないわ。ゲームオーバーなんて嫌よ!」


 そう言いながらミーナの姿は消えていく。


「やっぱりミーナは魔女だったのかしら?」

「⋯⋯魔女か」


 その後周りを見渡した王子は大きな声を上げた。


「話はこれで終わりだ。皆それぞれの時間を過ごしてくれ」


 その言葉に集まっていた生徒は周りに散っていく。そこにアメリは王子の横に立った。


「あの少し庭園を歩きませんか?」

「そうしよう」


 アメリと王子は歩き始めた。初めの頃はあんなに憎まれ口をお互い叩いていたのに、昨日から王子の知らない姿ばかり目に入ってくる。


 アメリは先ほどの王子と伯爵子息のやりとりを思い出していた。


 ゲームを始めて無理矢理言わされていた“格好良い”はいつしかアメリ自身も王子に対して思うようになった。


 王子は自分からアメリのことを可愛いと言ってくれるようになった。


 アメリはそれが嬉しくて、この気持ちを伝えたくて⋯⋯でも恥ずかしくて⋯⋯


 庭園に着くとアメリはある提案をした。


「王子、もう一度、〇〇は言ってはいけないゲームしませんか?」

「詳しく聞こう」


 王子は穏やかにアメリを見ている。アメリは顔を赤くしながら上目遣いで王子にゆっくりと話し始めた。


「〇〇は“愛している”です」


 アメリの胸は人生で1番高鳴っている。


「言ってしまったら⋯⋯キスをしなければいけな――」


 アメリの言葉を遮って王子はアメリを強く抱きしめた。アメリは王子の腕の中に収まった。


「愛している!」


「あっ先を越されてしまいましたわ⋯⋯」


 それを聞いた。王子は腕を解くとアメリの頬を両手で覆った。


「アメリはそんな可愛いことを言ってくれるんだね」


 アメリは目を伏せがちにしていたが、王子の瞳をじっと見た。


「王子、私も愛しています」


 アメリは王子と情熱的なキスを何度も繰り返した。


 アメリと王子は結婚して仲が良いことが評判の夫婦と成りました。


 〇〇と言ってはいけないゲームをやろうと提案したら、愚かな王子は〇〇に“婚約破棄”を指定してきました

 おわり

お読みいただきありがとうございました!


少しでも暇つぶしや気晴らしに読んでいただけたら幸いです!

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