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06. 舞踏会

 アメリは黒髪に王子からプレゼントされた髪飾りを付けた。


 舞踏会にはほとんど参加したことがなかったので、招待状が来た日から公爵家は準備に追われていた。


 すぐに母が使っている服飾師を呼んでアメリの身体中を採寸するとデザインサンプルを眺める。


 そこに王子からの髪飾りを見せると服飾師はすぐさま白い手袋をつけると目を輝かせて光に当てながら眺めていた。


 ひとしきり眺め終わると我に返ったのか、一度軽い咳ばらいをすると、口元を手で隠して「素晴らしい髪飾りでしたので、つい見入ってしまいました。


 アメリ様のドレスもそれに合わせるように青と紫を基調としたドレスにしてはいかがでしょうか」と提案した。アメリはその姿をぼんやり想像して頷いた。


 服飾師はもう想像を膨らませ始めたのか上機嫌でサンプルを片付け始めた。そこへ母が服飾師へここぞとばかりに追加のドレスを注文し始めた。そうすると服飾師は鞄からまだ見せていない流行のドレスが載ったサンプルを嬉々として見せ始めた。


 母と服飾師は楽しい買い物とばかりに盛り上がっている。自分のドレスのことなのにアメリは蚊帳の外だった。


 舞踏会には時間がなかったので、追加金を支払い最優先で仕上げてもらうことにした。


 ようやく最終調整をしたのが前日の朝で、一度ドレスをアメリが合わせると、服飾師がいろんな箇所を確認し、デザイン帳に印をつけて何かを書き込んでいる。それが終わると足早に帰っていった。


 そして夕方に仕上げてドレスを持ってくると母が確認した。母が満足そうに首を縦に降るとアメリと服飾師はほっと息をついた。


 舞踏会当日になると夕方から始まるのに朝から準備が始まる。アメリの支度を侍女が忙しくしていると、母が横へやってきて舞踏会の心得を細かく話してきた。アメリは熱心に耳を傾けて頷いていたが、あまりにも話が長いので途中から言葉が抜け始めてしまった。テスト前に知識を詰め込んだように揺らすと母の言葉がこぼれてしまいそうだった。


 侍女のおかげもあり、ようやく準備も整った。部屋にある全身鏡を見ると見た目は少しはましになったようだ。アメリは顔を横に向けて髪飾りを見ようとする。


 その仕草を見て、侍女はこことぞばかりに嬉しそうに手鏡を渡してきた。鏡で映ったアメリの髪にはきらきらと輝いているキキョウの髪飾りが揺れている。


 その髪飾りを揺らしながら王城へと向かった。王子の婚約者で付添人なので応接室へと案内される。


 ソファに浅く座っていると、思ったより早く王子はやってきた。それを見てアメリは納得するように目を閉じた。


(こういう女性を待たせない配慮が女性に人気があるのね)


 アメリは目を開けると立ち上がり王子が部屋に入るのを待っている。王子はアメリの目の前にやってくるとまじまじと見ている。


 アメリは頭を下げて挨拶と舞踏会への招待のお礼を述べた。アメリは言い終わり顔を上げると王子を目が合った。


「これがアメリの言うキキョウか。君に似合っているじゃないか」


 アメリの着ているドレスは向こう側が見えるほど薄い生地に単色で水色、紫色があしらっている。薄い生地が重なり合い深い色合いを出している。


 王子は黒いタキシードだった。薄茶色の髪に良く似合う。


「王子も黒のタキシードがよくお似合いですね」

「あっあぁ、そうか……」


 てっきり”どうだ格好良いだろう?”と言ってくると思っていたので、調子が狂う。


 そこでアメリはこの前のお茶会で赤面させられたお返しとばかりに褒める。


「王子、すごく格好良いですわ」


 それを聞いてなぜだかぎこちない間があって王子は胸を張った。


「そうだろう、いくらでも褒めていいぞ」

「何か探しておきますわ」


 王子はふんと鼻を鳴らした。いつもの調子に戻ってきたようだ。


 そして王子は腰に手を当てるとアメリを見た。アメリはきょとんとして見ていると、王子はもう一度大袈裟に腰に手を当てた。


「君は鈍感だな。エスコートだ」


 こんな偉そうなエスコートは初めて見たので、アメリは目を丸くすると王子の腕にそっと手を乗せる。


「女たらしの王子なのに、がさつなエスコートするんですね」

「アメリ、もしかして別の女性のこと気にしていたのか?」


 アメリは王子の方を見ずに声音を変えずに答える。


「えぇ、人並みには⋯⋯まぁ」


 この時王子の顔が赤くなっていたをアメリは見ていなかった。


 馬車に乗り込むと、王子とアメリは隣同士で座った。馬車はそんなに広くないので王子と当たるほど近かった。


「あの隣同士じゃなくても良いんじゃないですか?」

「進行方向と反対に座ったら酔うかもしれないじゃないか」


 アメリは王子の方を見ると王子との距離の近さに戸惑う。王子もアメリを見てきたので、どうしたら良いのかわからない。


「アメリ⋯⋯可愛いな」

「えっ?」


 アメリの顔は熱を帯びる。きっと赤くなっているはずだ。


「聞こえなかったのか? アメリ、可愛い。俺はこれから毎日アメリに言うことにする」

「ちょっと変なルール作らないでください」


 アメリは胸がうるさくなるので舞踏会の会場に早く着かないかと願っていた。


 案の定、王子とアメリが会場に入ると、そこにいた人の視線が一気に集まる。


 苦しいほどの視線にアメリは押しつぶされそうになる。王子はアメリを一瞥すると「アメリは隣にいればそれでいい」と答えた。


 王子の姿に我先に挨拶の列に加わる。列が終わらないうちに音楽が鳴り始めた。


 アメリはダンスは下手ではなかったが、実際に踊る機会があまりなかったので、ちゃんと出来るか自信がなかった。


 すると王子は優しく手を取り腰に回した手でアメリを引き寄せた。


「俺がリードするから安心しろ」

「王子の足を踏んでしまったらごめんなさい」


 アメリは自信のない顔を王子に向けた。

 すると王子さ余裕のある顔で笑みを作った。


「もし俺の足を踏んだら、笑い話になるまで何度も話してやる」

「もう王子!」


 アメリは口を尖らせて怒らはしたが、不思議と緊張がほぐれた。


 王子は絶妙なタイミングでアメリを引き寄せターンをする。


(これは確かにリードが上手だわ)


 アメリは少しだけダンスが楽しめた気がした。

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