05. なぜ私が⋯⋯?
婚約者とは社交場でも役目がある。
舞踏会に一緒に出席して主要な方に挨拶をしたり、行事に一緒に参加したりすることもある。
アメリは1度も王子から舞踏会も国の行事にも誘われたことはなかった。女たらしの王子はその時デートをしている女の子を一緒に連れていくのだった。
最初の頃はアメリも誘われなかったので、焦ったし誘ってもらえないので、周りから何か言われるかと心配したし、呼ばれないのを恥ずかしく感じていた。
そのうちアメリは諦めるようになった。特にミーナが来てからは、婚約破棄を望むようになったので、舞踏会自体気にしなくなった。
アメリは目の前にある贈り物の箱と招待状とをにらめっこしているのである。まずは招待状を開けて内容を確認する。
(王子ってば、今度ある舞踏会に一緒に来いですって? どういう風に吹き回しかしら?)
アメリは不思議そうに招待状を下まで読むと追記に「俺の格好良さを目に焼き付けろ」と書いてあった。
アメリは深い溜息をついた。
(やっぱりそうよね。ちょっと見直した気持ちが台無しだわ)
アメリは口を尖らせながら贈り物の箱を開ける。
「どうせ、このアクセサリーを身に着けてこいって押しつけてくるんでしょ」
アメリは隠しもせずに言葉に出して、そう言いながら箱のフタを開けて中身を覗いた。アメリは箱の中に入っていた髪飾りを手にとって光が当たるように目線まで上げた。
光に当たった髪飾りを見た侍女が声を上げた。
「まあ綺麗な髪飾りですね。見たことない花のようですが、アメリ様はご存知なのですか?」
アメリは口を緩めて目を細めながら髪飾りを見た。それは花びらのところに紫と青の宝石が散りばめられたものだった。
「えぇ、これはキキョウよ。東洋の花なの」
アメリは髪飾りを見ながらこの前王子と庭園で話したことを思い出していた。
(あぁ、それで私に好きな花を聞いてきたのね⋯⋯)
「王子⋯⋯格好良い所あるじゃない」
アメリはぽつりと言葉をこぼした。
■
時は同じくして王子はミーナと会っていた。ミーナは次の舞踏会の格好について嬉しそうに話し始めた。
「王子、今度ある舞踏会にはどんな格好がいいですか? 私はサファイアも好きですの」
「あぁそのことなんだが、次はアメリと行く」
その言葉にミーナの顔がさっと変わった。ミーナな貼り付けた笑顔が取れかけていた。王子は少し困ったような顔をしている。
「えっでも舞踏会が終わったら婚約破棄をするって王子がおっしゃっていましたよね?」
「実はアメリとゲームをしていて⋯⋯いや、とにかく婚約破棄は言えない」
王子は気まずそうにミーナから視線を外した。ミーナは勢いよく立ち上がると目に涙を浮かべて悲しさを身体で体現している。
「そんなぁ、王子ひどいですわ⋯⋯」
「悪いミーナ、そろそろ終わりにしよう」
王子はミーナと目を合わせると目を伏せた。ミーナは涙を拭いて必死に王子にしがみつく。取り繕うと必死で笑顔を作る。
「王子すみません、わがままを言いませんから機嫌を直してください! ミーナのどこが駄目でしたか?」
「そういうことではないんだ。こういうのは不義理だと思うんだ。俺もそろそろやめようと思って」
王子は痛みを含んだような顔をしている。それを見たミーナは下を向いて仮面を取った。そしてぽつりと言葉をこぼす。
『あの女に何か言われたのですか?』
それは聞いたこともない低い声呟いたので王子の耳には届かなかった。
「ミーナなんと言ったのか?」
ミーナは仮面をつけ直すと、儚げに訴える少女になって王子に迫った。
「アメリさまに何を吹き込まれたのですか?」
王子は目を丸くした。そして両手を上げて一歩後ろへ下がると、ミーナから離れた。
「吹き込まれたなんて、俺が誰かに操られるなんてことはない!」
ミーナは目線を王子から外した。深呼吸を一度すると王子に向かってにっこりと笑顔を作った。
「ミーナ、びっくりして変なことを言ってしまいましたわ。ごめんなさい。今日はもう帰りますね」
ミーナは王子の返事も聞かずに行ってしまった。
ミーナは光を失った瞳で怒りを表した。
「アメリ⋯⋯絶対に許さないわ」
どの口が不義理なんて言うんだと、ツッコミを入れたくて仕方がない作者です。