04. ⋯⋯俺、格好良いか?
それからも穏やかではない日が続いていた。王子は神出鬼没で遠くから呼び止められることも多く、アメリはその度に急いで王子のもとへ駆けつけなければならなかった。そして会う度に授業の成果をアメリに報告してきたので、その都度“格好良い”と伝えると満足そうな顔をしていた。
今日はお茶会がフィンの屋敷で行われるので、遊びに来ていた。フィンの母はお花が大好きなようでそれは見事な庭園だった。
アメリはここの庭園が大好きでお茶が終わった後散策してもいいと言われたので、楽しみにしながらお茶を飲んでいる。
今日はフィンの母が開催したようで30人ほど令嬢や公爵や伯爵の奥方が来ている。
アメリの隣にはフィンがいるので、気兼ねないお茶会を心から楽しんでいる。
お茶会も中盤を過ぎた頃、侍女や執事たちが慌ただしく移動しはじめた。それを見たアメリとフィンは首を傾げていた。
しばらくすると屋敷の方からがやがやと人の話す声共に人だかりがお茶会の方へ移動してくる。
(もしかして公爵かしら?)
アメリも静かにその人だかりを見ていると、中心人物は毎日会っている見慣れた人だった。
「ザック王子?」
アメリは立ち上がりながら呼びかけると、こちらを向いた。アメリを見つけて笑顔になるが、すぐに誰かを探している。そしてその誰かを見つけると、その人の横まで来て正式な挨拶をしている。
このお茶会の主催者であるフィンの母だった。
王子は突然の訪問を詫びると、正式な挨拶をした。それを受けてフィンの母も慌てて席を立つと正式な挨拶をしている。
それが終わるとアメリと話すことの了承を得るとこちらへ近づいてきた。
(まぁ王子ってば、そんなことも気にかけられるようになったのね)
「アメリ、突然すまない。今日は会えないかと思ったんだけど、近くまで来たものだから寄ったんだ」
アメリは慌てて席を立つと「まぁそんなにご無理をされなくても大丈夫でしたのに!」と謙遜した。
すると王子はなぜか緩んだ口元を拳で隠した。
「いやアメリがどうしても会わないと言うなら、あの言葉を言ってもらってもいいんだけどね」
アメリはその言葉を聞いてゲームを始めた時の事を思い出した。記憶の引出しを開けてみる。
(毎日“格好良い”と言わなかったらって何か言われたのよね⋯⋯)
思い出したアメリは目を見開いた。
“そうだ、アメリは言いそびれた時は人前で“愛している”と言うのはどうだ?”
アメリはそれを思い出すと顔を真っ赤にしてしまった。だが、それを見た王子は茶化さなかった。
「悪い、困らせるつもりはなかったんだ」
王子はアメリの手を優しく引いてお茶会から離れる。アメリは周りなど気にしていられなかった。
その場にいた貴族の奥方や令嬢は温かい目で2人を見送ったのだった。
アメリは顔の湯気が収まらない。それを見て王子は笑っている。アメリは拗ねたような顔をした。
「ひどいですわ。いきなり来てあんな事をおっしゃるなんて⋯⋯」
「アメリは見てて飽きないな。ははっなかなか可愛かったぞ」
アメリは目を見開いて王子を見ている。
いくら女たらしの王子が言い慣れている言葉だと言っても、言われてしまうと反応してしまう。
アメリには可愛いなんて言葉に免疫はないのだ。自分でも分かっていた。顔が真っ赤なのだろう。急に身体も熱くなってきた。
王子は気にする様子もなく庭園の花を見ている。
「アメリは何の花が好きだ?」
アメリはいきなり話を振られて混乱したが、周りを見るといつの間にか庭園に来ていることに気がついた。周りの花を眺める。
「私は東洋にあるキキョウと言う花が好きですわ。ここにはない花で申し訳ありません」
「いや、いいんだ。キキョウ⋯⋯キキョウか」
王子は呪文を唱えるように言った。そして嬉しそうに含み笑いをした。それをアメリは静かに見つめている。王子はアメリの視線に気がついたようだ。
「これで俺はまた1つ賢くなった」
俺は柔らかな笑みをアメリに向けた。アメリは一瞬胸が高鳴った気がした。
「知識というのは知れば知るほどいろんな繋がりが見つかって面白いんだな」
「えぇ、そうなんです」
アメリは日頃自分が思っていたことを、王子の口から聞く日が来るとは思っていなかった。
「知ること、その知識を使うことは面白いことなんです。それに王子が気がつくなんて嬉しいですわ」
アメリは嬉しくなって素直な言葉で伝える。それを見て王子は少年のように少し下からアメリを覗く。
「⋯⋯俺、格好良いか?」
「えぇ」
アメリは頷いた。それを聞いて顔を上げて褒められた子どものような顔をアメリに近づけた。
「本当か?」
「すごく格好良いですわ!」
(王子は素直になるととても可愛らしいんですわね)
それを聞くと王子は立ち上がって行ってしまった。
アメリは王子と話していて初めて楽しいと少しだけ感じたのだった。