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03. アメリ聞いてくれ、と王子が報告してきた

「なんなのよもう」


 アメリは腹を立てて、いなくなってしまった王子へ文句を言った。そうは言ってももう王子はいない。仕方がないので教室へ向かって歩いた。


 アメリが教室へ入ると、教室の中で話していた同級生たちからアメリへ視線が集中する。だが、視線だけ投げかけてきて誰も声は掛てこないのでフィンの隣に戻ってきた。


 するとフィンは待ってましたとばかりにアメリに顔を寄せて小声で話しかけてきた。


「さっきの何?」

「⋯⋯それがお昼に話したい事なの!」


 フィンは何かを感じ取ったのか、ゆっくり何度か頷きながらアメリを見ていた。


 授業が終わると、やっとお昼になった。カフェテリアのテーブルに着くと、フィンはじっとアメリを見た。


 アメリはようやく昨日の顛末を話し始めたのだ。アメリは〇〇と言ってはいけないゲームのことを話した。王子がゲームに乗ってきたのは良かったが、話がこじれて王子の禁止ワードが“婚約破棄”になってしまったことを伝えた。


 その後に変なルールになってアメリの首を絞めるように、王子に毎日“格好良い”と言わなければならなくなったことを嘆きながらフィンに訴えた。


 アメリは頭を抱えながらあのゲームを提案したことを後悔しているだけでなく、さっきの出来事のことも感情を目一杯乗せてフィンに話した。


 フィンはニコニコして聞いている。


 それを見たアメリは口を尖らせている。


「フィン、面白いことは何もなかったわよ?」

「私にとってはすべてが新鮮で面白かったわ。でも王子の敗北宣言聞けるといいわね」


「たぶん秒読みよ」


 王子はミーナと出会ってからは、ミーナの話ばかりする。


 最近は定期的にアメリと会っていた面会もすっぽかしているのだ。だからアメリは王子は真実の愛とやらを見つけて、“婚約破棄”だと叫ぶだろうと強く思ったのだ。


 そうすればゲームのルールに則って、敗北宣言を聞ける。そうなればどんなに気持ちが良いだろう。


 それに“婚約破棄”だと言ってくれれば、こちらは王子との関係も終われるのだ。愚かだと言ってもあれでも王族なので、こちらから破棄することはよほどの理由がないと出来ない。


 アメリは婚約破棄といつ言ってくれるのかと、その事ばかり考えるようになった。


 最近は上手くいかないことばかり。

 次の日、運の悪いことにカフェテリアで王子とミーナと遭遇した。アメリは見かけただけだが、王子が呼び止めてきたのだ。


 アメリとフィンはカフェテリアの景色の見やすい窓側のテーブルに座っていたが、カフェテリアに入ってきた王子は大声でアメリを呼んだ。


「アメリ! 今日はいつにするんだ?」


 アメリは大声で呼び止められたので、仕方なく王子の方へ顔を向けると王子の隣にはミーナが立っていた。


(この状況でよく私を呼び止めたものね。ミーナが怒るんじゃないかしら?)


 案の定、ミーナは機嫌を損ねたようで王子の腕に手を絡めた。すると王子は何事も無いように、ミーナの手を自分の腕から外すとアメリの方を見ている。


 これにはアメリも少し意外だった。アメリは腰を浮かせながらフィンを見ると「ごめん」と謝った。するとフィンは「がんば!」と応援した。


 アメリは急いで王子の方へ向かうと、王子はミーナに謝った。


「悪い、アメリと話すことがあるから後でな」


 ミーナはふてくされた顔をしているのを見たアメリは笑顔を貼り付けて「私こそ後で平気ですわ」と返した。


 ミーナは鋭い目でアメリを見たが、すぐに王子の方を見て猫なで声を出した。


「王子っ、アメリさまもこうおっしゃっていますしぃ、ミーナとお食事してくれませんかぁ?」


 王子は何かを思い出したのが緩めた口を手で隠すと「いやっミーナ、今日は外してくれ」とミーナを突っぱねた。するとミーナは隠しもせずにアメリを睨みつけてきた。


 王子は目配せをしながら歩いていく。学園の建物からでると、アメリの方へ顔を向けてきた。


「庭園でいいか?」

「ええ、この時間なら人は少ないと思います」


 王子は笑顔をアメリに向けてきたので、王子の方を見ないようにした。


(何とも思っていないとは言え、美男子からの笑顔は心臓に悪いわ)


 庭園にはほとんど人がいなかった。その少しいた人も王子の姿を見て自然と庭園から離れていったのだ。


 王子は待ち切れない様子でアメリを見た。


「アメリ、聞いてくれ。昨日は王族の授業をちゃんと聞いたぞ。つまらないと思っていたが、貴族の歴史は喧嘩ばっかりなんだな。そんなことでへそ曲げているのかと思うと急に親近感が湧いたぞ」


 アメリはそれを聞いて感心していた。


(こういうところは素直に正面から受け止められるのは良いところよね)


 アメリは自然と笑顔になった。


「それはすごいですわ。王子、格好良いですね」


 王子はそれを聞いて珍しく言葉に詰まったが、すぐに何度も頷いた。


「そうか? ⋯⋯そうか、格好良いのか!」


 その顔はいつもとは違い少年のような初々しさを感じた。

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