召喚刑事 8
「かれが噂の知性を持った召喚生物なの~?」
鑑識課に到着したリサリー達を出迎えたのは鑑識課臨床検査技師のタニスであった。
彼女の身長はハーフリンクのリサリーより頭一つ分ほど高いだけだが、体重はゆうに二人分はありそうながっしりとした体格で
堅そうな髪を頭頂部で一つにまとめたパイナップルのような髪型をしていた。
永倉は彼女が平均的なドワーフの女性よりもまだ細身であることを知るはずもなく、
また彼女がドワーフの中ではかなりの替わり者であることにも気付くはずもない、ただエルフやハーフリンクとは異なる種族であることは理解できた。
『そうだ、彼の名は永倉だ。翻訳術式は私とロゼにしか対応させていないので、私が通訳する』
「ナガクラ?外見は成長したハーフリンクみたいだね~?」
『半妖精は成長などしない』
「例外は確認されているのでしょ~?逢ってみたいものだよね~」
『世間話をしに来たわけではない、今朝確認した警官の検死結果を彼にも確認してもらいたい』
「いや、イヤ、。部外者にみせれるものじゃないのでしょ~」
『キース主任に許可は得ている』
永倉にはタニスが何を話しているのかは判らないがリサリーの言葉は翻訳されているので会話の内容は大雑把に推測は可能だった。
『いいのか?リサリーはかなり無理を通そうとしているのではないのか』
隣に立つロゼに永倉は小声で話しかけるが、ロゼは振り返ることもなく二人のやり取りを見つめたまま
『問題ありません、手続きはすべて終わっています。貴方は召喚生物であると同時に、重要証人保護対象者であり、
リサリー捜査官の監視下に置いて人権が保障されています。貴方がかかわる事件に対しての情報開示もある程度は可能です』
と説明し、一拍の間のあとに一言つけたす
『くれぐれもリサリー捜査官の信頼を裏切らないでくださいね』
自分に釘をさすロゼを横目にみながら永倉は奇妙な違和感を覚えるが其れが何かは分からない、その考えに没頭するほどの時間もなくリサリーが振り向く
『永倉こちらに来てくれ』
リサリーとタニスの立つ部屋の中央付近にむかうといつの間にか一人の男性型自律人形がタニスの背後に待機していた。
「専門用語とかちゃんと翻訳できるのかな~、取り敢えず映像を共有できるようにしてよね~」
『了解しました』
ロゼの返事の後、永倉の視界に入っていた男性型自律人形が突然死んだ。否、エルフの死体に外見を変えたと云うべきなのか。
『霊格の低い自律人形を媒体にして、視界に検死の情報を映しこんでいる。胸部の傷を視てくれ、永倉の云う銃によるモノか確認してほしい』
「体内から摘出した金属片をだしてね~」
リサリーの言葉に続いて、タニスも死体に擬態した自律人形に声を掛ける、と永倉の前に立つ死体が右手をあげ、
その手のひらの上に砕けた銃弾を出現させた。
『銃創は腹部に一つ、心臓周辺に三つ…最初に胴体を狙い、動きを止めてから急所に確実に打ち込む…手堅い止めの刺し方だ。
それと、弾頭にあらかじめ傷を付けておくと人体にあたると体内で弾丸は小さく砕け、急所を外れたとしても摘出は困難となる
弾丸に細工をするのは鮫島の常套手段だ。使用された銃は鮫島のモノで間違いないだろうが…この世界では銃はもう使われてはいない筈だよな』
『火薬を使った武器は数千年前から使われていません。しかしそれがどうかしましたか』
ロゼの疑問にリサリーが答える
『流通していない武器の扱いに慣れている様子が怪しいと云いたいのだろ?
タニス、この弾丸を打ちだすのに必要な火薬量から逆算してその反動はどの程度になるか解るか』
「計算は出来ているよ~。成人した男性エルフやドワーフであれば扱えないほどではないのだけどね~」
とそこで一度言葉を止め。死体役の自律人形のの前に回り背伸びするようにして弾痕を指さす
「殺されたエルフの警官は平均的な身長のようだけど、銃だっけ~?その武器を使ったのは彼より低い人物ぽいのよね~」
『何故そんなことが判るんだ』
リサリーの問いにタニスはなんでもないことのように答える
「成人男性であれば問題なく扱えそうといっても、やっぱり~それなりに身体を固定するように構えないと命中させるのは難しいと思うのだよね~」
タニスは両足を踏ん張り、両手で何かを握るようなしぐさの後、その手を肩の高さに上げて見せる
「こんな感じで撃つとしたら最初の弾丸は同じ身長の人物が撃ったモノとしては体内への侵入角度が浅すぎると思うんだよね~」
それだけいうとタニスは永倉を物珍しそうに見上げてみせる
「彼は異世界の人類なんでしょ~、どうなの~、異世界人って皆そんなに背が高いの~」
タニスの疑問をリサリーが永倉に伝えると
『日本人としては俺はかなり長身の方だが…個人差が大きいからな、日本人の男の平均身長は170センチぐらいだろうか?』
「170か~、女性のエルフぐらいだね~。おそらく銃を使ったのはそのぐらいの身長か、もう少し低いと思うのだけど~
エルフの女性が何の訓練もなく銃を使うのは無理があると思うんだよね~」
『身長がそんなに問題なのか?』
永倉の質問にリサリーが答える
『男性の妖精の平均身長は190センチ程だが、男性で170だとまだ未成年の可能性があり、女性だと体力的な問題がある。
自律人形であればそのぐらいの身長ではあるが、彼らが妖精に危害を与えることはあり得ない』
ロゼが補足するように続けて
『未成年の妖精は術式の使用に制限があります、修学に専念させる為もありますが、違法術式に触れることのないようにするためです
そして女性の妖精は体力的に半妖精と大差ありません』
『エルフの女性は随分と虚弱らしいな…いやそれよりも銃を使った人物像が浮かんで来ないのか』
永倉はそこで何かに気が付いたように上半身裸で立つエルフの死体(擬態)の腕に見慣れた痣をみつけた
『このエルフは何か持病があったのか?』
『どうかしたのか』リサリーの問いに妖精のひだりうでを指差し云う
『左腕に注射の跡が痣のように残っている、よほど頻繁に針を刺さないとこうはならない』
『彼は健康な妖精のはずですが?資料には通院歴はありません
それに妖精の治療は通常、術式を使ったものばかりで注射器のような原始的な器具を必要としません』
『俺はコルム医師に注射器で何度も採血されたが?』
『コルムは医者であると同時に異世界生物の研究者でもある、術式にだけ頼ったような検査はしない、古今東西のあらゆる手段を試すからな』
リサリーの説明に永倉は眉根をよせるが、そのことには触れず再度腕の痣を指し
『このエルフの体内には通常では有り得ない物質が蓄積されてはいなかったか?』との問いに
『毒物ですか?』とロゼが聞き返し、永倉は小さく頷く
『そうだ俺のいた世界では覚せい剤と呼ばれるものだ』




