召喚刑事 6
移動時間中のリサリーからの説明を永倉は一度自分の中で整理してみる。
この世界において最も早く文明を築いた知的生命体が始祖妖精で2億年近い歴史を持っているらしい。
彼らは星霊魔術と呼ばれる本物の魔法を使うことができる唯一の種族で、永倉の世界の人類が大航海時代や産業革命による世界経済の変化を
科学では無く魔法によって通過している。
ただ2億年の歴史とはいえ、始祖妖精は個体の寿命が当初から数百年と長く、また星霊魔術が高度に発達したのもいわゆる大航海時代以降であり
長寿で有るが故に繁殖率の低い始祖妖精の魔術進歩は、より寿命の延長へと向かい、非常にゆるやかな文明の発展へとつながっている。
一方、彼らが世界の覇権を持つまでの間に、妖怪や人類が知的生命体として進化を始めていた。
人類と妖怪は始祖妖精にくらべ短命ではあったが、それゆえの世代交代の早さがよりはやい文明の発展を促していた。
やがて始祖妖精と妖怪と人類は邂逅することとなるが、その時点で始祖妖精の魔法文明は他の文明とは比べ物にならない程の発展を遂げていた
始祖妖精の植民地でありながらも自治を認められたいた妖怪と人類は稚拙ながら科学文明を築き上げていくがその技術格差が埋まることは無かった
約7000年前に始祖妖精の中にたった一人の奇形が生まれるまでは。
その人物の名はレジナル、始祖妖精でありながら星霊魔法の使えない彼は異形ではあったが無能ではなかった、むしろ知能の高い知能を持つ仲間の中においても
飛びぬけた頭脳を持っており、彼は早々に自分の魔術の才能に見切りをつけ、妖怪の発展させた加工技術と人類の科学に興味をもった。
彼は始祖妖精のとは違うアプローチで星霊魔法を解明した。
星霊魔法は星の持つ生命を生み出す力の源を利用した魔法で惑星上のあらゆる事象を操ることが出来る
始祖妖精は地表からわき出るその力を知覚する感覚器官を持っているのだが、レジナルはそれを人類と妖怪の力を借り再現させて見せた。
それが現在の術式と呼ばれる技術であり、始祖妖精の魔法を誰しもが使える道具としたこの出来事は後に「秘術の開示」と呼ばれる歴史的転換点となる。
この後、人類は術式を使った劇的な発展をとげることとなるが、それは始祖妖精との確執をつくる元となった、
繁殖力が強く人口が増え続ける人類は惑星から星霊を大量に消費し続けた。
この時期、始祖妖精の寿命は最長5000年に及び文明は絶頂期を過ぎていたが、人類の急速な進歩と無制限な星霊の消費に懸念を感じていた。
始祖妖精の忠告に耳を貸さず人類は星霊の消費を続けやがて人類が住む土地の星霊が枯渇しはじめた。
人類は始祖精霊の植民地である自治区からでて星霊の豊富な土地へと移ろうとし、それを許さない始祖妖精との対立が始まる。
始祖精霊は大地にあふれる星霊を生身で操ることが出来るが、片や人類は星霊の枯れかけた地で術式を使う為の装置を必要としていた。
本来であれば一方的な戦いになっていたであろう、しかしそうはならなかった。
大地の星霊の不足分を補う方法として人類は新たな術式を発明する。
星霊とは惑星が生命を生み出す源泉であり、生命体こそ星霊の具現化(星霊=生命力×知性の二乗)であり膨大なエネルギーの塊である
生命体の命を星霊に戻し術式に利用する方法こそ、後に召喚術式と呼ばれる生贄機関であった。
元々の世界の生物はこの星の星霊の化身であるため、消費すれば星霊の絶対量は減る一方だが、わずかな星霊の消費で数倍の星霊を得る手段
それは幾多の並行世界から生命体をこちらの世界に召喚し星霊へと変換する、
生贄機関と呼ばれるこの方式は星霊魔法にはない術式の応用力の高さを見せつけ人類が始祖妖精と対等に戦えた切り札たりえたが…
生贄機関の実弾は異世界の生物、そのことの重大さに人類が気付いた時には戦時下と云うこともあり、すでに手遅れとなっていた。
召喚戦争と後に呼ばれるこの戦いで世界の生態系の数パーセントが外来種に変わり、未知の病原体により人類ばかりか始祖妖精や妖怪まで大打撃をうける
生命力の高い妖怪は何とか持ちこたえたが、人類と始祖妖精は自然回復は見込めないほどの人口損失を受けていた、
現在も始祖妖精が生き残っているのは個体寿命が長いゆえにすぎない、そして停戦交渉がなされ戦乱は終わったが戦後処理は混乱を極めた。
人類と始祖妖精は人口回復の為協力し合い、その中で、半妖精獣人自律人形妖精が生まれたらしいが、
そのあたりは、当時を知る始祖妖精が多くを語りたがらないらしく、500年を生きるとされる妖精でもさすがに5000年前の閉ざされた歴史を知ることは出来ない
この戦争の後から星霊魔法や術式に頼らない科学が僅かに生き残った人類と半妖精の間で発達していく。
人口の回復を見せぬままその後、2000年程の時間を掛け人類は絶滅したが半妖精はその後を引き継ぐように生き残った。
永倉が知る半妖精はリサリーとコルムの二人だが、共に黒髪に黒い瞳をしていて美しい顔立ちの日本の十代半ばの子供のように見え、
半妖精という老化しない種族があると説明されてもにわかには信じがたい事実ではある。
ただ病院内から外に出るときに見かけた妖精は皆、金髪碧眼でギリシャ彫刻のような完成された肉体美をもち、ここが日本でないことを実感させられた。
そして現在、始祖妖精の殆どは高齢の為、始祖妖精のみの集落で隠遁生活し、ごく一部が妖精の国で政治局に関与している
基本的に工作技術は高いが独自性に欠けるとされる妖怪は戦時中から中立をたもっていたが現在は連邦国の一角をになう存在となっていて
妖精の都市機能を維持するのに必要不可欠な自律人形の外殻を生産しているのも彼らの国が主体となっている。
獣人は獣頭人身の種族で強靭な肉体を持っているが術式等の高等技術を使いこなせずに、いわば発展途上国的なあつかいらしい、
おもに食糧生産をになうが、人口は連邦国最多だ。
永倉が出会っていない種族もいるが、これからの自分の身の置き所も判らない状態で考えてもしかたないことと疑問をきりすてる。
そして妖精にとって必要不可欠の技術、術式とは、星霊という、永倉の世界で云うところの地球の生命力を物理現象に変える方法であり、
星の上で起こるあらゆる事象は惑星内部に構築された星霊流脈の形状によって物理法則が決定されている。
始祖妖精は其れを己が体内で再現し外部から取り込んだ星霊を使い自分の周囲の物理法則を変化させることが出来き、
それが星霊魔法と呼ばれているモノの正体であり、レジナルはその始祖妖精が生身で行っているものを人工的に再現した。
現在、妖精の都市で使われている技術の基本で妖精の都市には人工的な星霊流脈が張り巡らされ、
住人の各々が術式端末と呼ばれる星霊を制御する為の道具を持っていて端末に登録された術式を使うことが出来る。但し、無制限と云う訳ではない、この都市では貨幣以上に星霊が価値を持っている、
星霊の流れは全て管理されいつどこで誰がどれだけ使用したかが記録され、本来許可なく術式の使用は出来ないようシステムが構築されている。
リサリーは自分の個人端末と捜査官としての認証端末を永倉に見せた。
彼女の使う個人端末は都市に住む者なら全員が持っている物で形状は各自自由にデザインでき、彼女の髪留めは個人端末になっていた。
永倉の知らない花をモチーフにした美しい細工の女性らしい物で、堅苦しい彼女の異なる一面を見た気がした。
もうひとつの認証端末は警杖で永倉の知識ではトンファーという武器に似た形で材質は赤く着色されたプラスチックのような印象だった。
各端末は登録された本人しか使えないようになっている。
一方自律人形のロゼはその身体そのモノが端末であり小規模の星霊流脈でもあった。
個人の端末がインストールされた術式しか使えないのに対し、捜査補佐官の地位を持つロゼは
生物の血管のように全身に張り巡らせた星霊回路に意図的に星霊を流すことにより自在に術図を製作できた。
やろうとすれば、即興で新しい術式を造り出すこともできるのだが、自律人形にはその権限は無く、術式の製作は連邦政府の試験をパスした技術者に限られる。
術図というのは云わば術式の設計図のようなもので回路図のようなものらしいのだが、
永倉には視えないが、術式を起動するときにはどのような術式が作動しているかを周囲に知らせる為に図形のようなものが端末の周囲に浮かび上がっているらしく
その図形が一般的には術図と呼ばれているようだ。
しかし、妖精はもともと術式の製作に長けている為、違法術式を勝手に製作する者も数多くいる、そう云う物には当然、術図の表示などなく違法術式として
一般警察の取り締まりの対象となっている、さらに自律人形に関しても違法製造されたものが存在し犯罪者の手足として使われていた。
この世界では自律人形にも人権が存在していて生存権が認められているのだが違法自律人形には当然ながら適用されない。
自律人形の外殻は妖怪製のモノが一般的に流通しているらしいのだが
違法人形も容れ物は量産品を使用していて外見からの判別は困難らしく、取り締まりは困難なものとなっているらしい。
ロゼを含め自律人形の性格は霊格設計師とよばれる自律霊格の開発者によって設計されているが、
モグリの霊格設計師が自律霊格を入霊するためには星霊が大量に必要でその為の召喚生物が必須となる
妖精には術式が必須で犯罪に使われる術式には足のつかない星霊が必要、それこそが召喚術式がいまだに使われている要因らしかった。
『自らは手を汚さず自律人形に危険を肩代わりさせる、妖精にはその様な者が多い。始祖妖精は自律人形を同格とし人権を認めているにも関わらずだ。
妖精は始祖妖精に従順だが他種族に対しては排他的だ。優れた技術をもっているが、
精神的には他種族と変わらない、始祖妖精から2億年の歴史を持つこの世界においても犯罪のない文明は存在しない』




